23 入学式(再)
シャーロットの学園入学式の日が来た。
公爵家の馬車が到着すると、フリッツが待っていた。
「ようこそ、学園へ」
そう言って差し出したフリッツの手の上に手を重ね、シャーロットは講堂へと歩いていく。
途中でアレクサンドルとも合流した。
アレクサンドルは嬉しそうにシャーロットの手を握った。
「制服、とてもよく似合っているよ、なんて可愛いんだ」
「あ、ありがとうございます」
シャーロットは顔を赤くして下を向いた。
「あぁ、本当に可愛い、俺のロティは」
「お触り禁止ですよ」
そういわれて、アレクサンドルは慌てて手を引っ込めた。
「婚約者なんだからちょっとくらいいいじゃないか・・・」とぶつぶつ言っているアレクサンドルだったが、気を取り直したように
「ロティ、帰りは必ず家に寄るからね」
「お待ちしております」
生徒代表挨拶の為に、アレクサンドルは後ろを振り返り、手を振りながら講堂に向かっていった。
そっと振り返したシャーロットの頬は赤い。
「仲良しなんだな」
「ええ」
「じゃあ、遅れないように行こうか」
フリッツに促されて、シャーロットも講堂へ向かっていった。
講堂内は多少ざわついているが、特に問題は起きていなかった。
「フリッツ様、あそこに」
グリーがそう囁き、言われた場所を見ると、ベッティが一般科の列に並び、案内されるのを待っていた。
「今回は暴れてなくてよかったよ。」
「さすがに、それはないでしょう」
「叔父上にかなり叱られたらしいからな」
無理やり公爵邸に押し入ったメルダとベッティだったが、その後は騎士団に連れていかれたのだが、待っていたのは怒りの表情を浮かべたロバートだった。
「あなた」「お義父様」
「公爵邸には私の許可がなければいかないように、とお前たちには言っておいたはずだが?」
「でも、今まではそんな事言わなかったじゃないですか」
「親戚なんだから遊びに行ってはいけないんですか?」
メルダとベッティの反論に、ロバートは深いため息をついた。
「その公爵家から、今後は先ぶれや約束がなければ訪問を許可しない、と通達されたのだ」
「では、約束すればいいのですね?」
「なんのために?」
「え?」
「だから、何のために約束を取り付ける気だ?」
「あの、親戚との交流を・・・」
「公爵家は私とライナス以外、親戚付き合いをしないそうだ、と先日も伝えたが?」
「何故ですか?後妻とはいえ、弟の妻なんですよ、私は」
「だから?公爵家がお前に気を遣う必要はないだろう」
「は?」
「単なる後妻だ。それも子爵家の。公爵家が交流を希望してないなら、付き合いはできない」
「そ、そんな」
「それから、ベッティ、お前はメルダの連れ子であり、私は養子縁組をしていない。
成人が済むまでは、面倒を見るが、その後はメルダの実家に帰るなり、自分で働き口を見つけるなりして、自活してもらう」
「そんな、お義父様・・・、ひどい」
「何もひどくはない、お願いされて後妻は引き受けたが、連れ子のお前を面倒見ているのは完全に私の温情だ。嫌なら出て行ってもらって構わない」
バッサリと切り捨てるような言葉に、ベッティもメルダも驚いている。
今までは、何をしても怒らず、黙っているだけのロバートしか知らなかった二人は、これが本来の姿であり、自分たちは非常にもろい立場にいることを思い知らされたのだ。
「今後、公爵家に関わったり、迷惑をかけるようなことがあれば、離縁してもらう」
最後にそう宣言され、二人は黙って下を向くしかできなかった。
学園の入学式、ベッティは顔には出さなかったが、不満が渦巻いていた。
(どうしてあたしが一般科なのよ。シャーロットおねえさまは貴族科に当たり前のように通えるなんて、本当にずるいわ。
なんでも持っているのだから、ちょっとくらいあたしに優しくしてもいいじゃない)
ロバートの説明は頭には入っていたが、時間がたつにつれ、
(お義父様はあれから何も言ってこないし、公爵家に行かなければいいのよね。
あんなこと言ってたけど、追い出したりされてないし、お母さんに似てあたしは可愛いから、きっと子爵令嬢としてくれるはずだわ。今は我慢だけど、学園が始まったらシャーロットおねえさまの所に行ってみよう)
と思うようになった。
自分に都合のいい状況しか考えられなかったのだろう。
都合のいい考えは、母のメルダも同じで、
「ベッティは私に似て可愛いから、一生懸命頑張っているアピールをすれば、きっと養子縁組をして、どこかの貴族にとつがせてくれるはずよ。
だから、今は公爵邸に行ったりしないで、様子を見て、また仲良くできる方法を考えましょう」
甘い考えをしていたため、ベッティは心から反省をすることはなかった。