21 叔父との話し合い
「何故ですか!勝手に他の医師の診察を受けるだなんて、私は信用できないと?」
怒りの表情を浮かべて、ゼルマンの執務室に来たのは、バロウズ医師だ。
「聞いたこともない医師を名乗るものが出入りしていると聞きました、どういうことですか!!」
最近、エマーリアの治療のためにタンク男爵が公爵家を訪ねている。
タンク男爵夫人も看護師として一緒に訪ねており、使用人にお湯やタオル、などといったものを依頼したりする。
タンク男爵は医師で、奥様の治療をしている、ということが使用人の間で噂になり、そこからバロウズ医師の耳にも届いたようだ。
「バロウズ、我が家の専属医師として、代々仕えてくれていたことは感謝する。
だが、エマーリアの病気に対して、お前は気が付くこともなかったな」
「それは・・・その怪しい男爵に騙されているのですよ!」
ゼルマンはため息をつくと、1枚の書類を渡した。
「これは?」
「王室医務官からの診察結果だ」
内容を確認したバロウズはぶるぶると身を震わせた。
「な、この病気は・・・、そんな症状が・・・?え?新薬?画期的な方法?」
「何も知らないようだな、実はこの病気について、他の家の医師にも確認してみた。
以前はなかった治療法が確立され、初期症状を見逃さなければ、完治する、という見解で一致していた。お前は本当に何も知らないんだな・・残念だよ」
「うぅ・・・」
「専属医師の家系だからと、我が家も何の調査もしなかったことに非はある。
だが、それに甘え、人の命を預かる医師としての自覚も覚悟もないとは、あきれるほかない」
「こちらにサインを」
セバスティアンが差し出したのは、契約解除の書類だ。
「私を、、我が家を切り捨てると?」
「お前の息子はまだ学び始めたばかりだそうだな、タンク男爵に師事し、医師として立派になれば、また我が家もお前の息子に世話になることもあるだろう。
今までのつながりを考えて、お前の息子への資金援助は続ける。
立派な医師になることを願っている」
バロウズは真っ青になって、震える手でサインをした。
セバスティアンの合図でバロウズは執務室から連れ出された。
エマーリアの病気は初期だったため、タンク男爵の治療のおかげで無事に完治した。
学園から帰宅したフリッツは、涙をぬぐうことも忘れ、ただひたすらにエマーリアを抱きしめていた。
「これでまた、フリッツのおかげで未来が変わったわ」
「母上が、夢の中ではやせ細り・・・それが、こんなに元気で・・・言葉もありません」
「ふふふ、まだまだ元気でいるつもりよ」
「いいですね」
二人はそういって笑いあった。
「お兄様?お帰りになったのね」
「ああ、シャル、元気そうだね」
「はい、お母様の病気も治りましたし、うれしいです」
「婚約もしたんだってね、おめでとう」
「ありがとうございます。アレク、アレクサンドル様からはたくさんお手紙や贈り物をいただいて、お礼に今お母様と刺繍をしています」
「いいな、私もシャルの刺繍が欲しいよ」
「アレクサンドル様の分が済んだら、次はお兄様ですね、頑張ります」
夢の中ではうっとうしいベッティが絡んできたが、現在はいない。
母が病気で、と入り込んだが、今は元気なのだから来る必要もない。
メルダとベッティは何度も公爵家に突撃してきたらしい。
その度に使用人が先ぶれのない訪問、約束のない訪問、招待されていない訪問はお断りであることを伝えている。
「今までは良かったじゃないの、親戚なんだから構わないでしょ!」
「そうよ、あたしはいつもみたいにシャーロットお姉さまに会いに来たのよ」
門の前で騒ぐ二人を門番は相手にせず、決して門を開けることはなかったらしい。
すでに叔父のロバートとは話し合いを済ませてある。
騎士団に直接向かい、ロバートにいきなり会いに行ったのだ。
「兄上、フリッツ、突然だな、何かあったのか?」
「ああ、お前にちょっと相談があってな、悪いが予定をあけてもらえるか?」
「急ぎみたいだな、ちょっと待っててくれ」
ロバートは突然の来訪にも快く時間を割いてくれた。
騎士団の応接室に座ると、ロバートがフリッツに向かってお礼を言った。
「フリッツ、先日は本当にありがとう。
お前のおかげで命びろいしたよ。情報漏洩の件も、助かった。
ああ、お前が言ったように、男に惚れていたみたいでな、気を引くために、聞かれるままに情報を話していたらしい」
そういって、言葉を切ると、じっとフリッツを見た。
「ところで、どうして知っていたんだ?」
「叔父上、それについてお話にきました」
そういって、フリッツは夢で見た内容を話した。
話し終わると、ロバートは腕組みをしたままじっと目を閉じていた。
「ロバート?」
「ああ、荒唐無稽な話で、戸惑っている・・・が、メルダを後妻にした経緯とか、フリッツが知るはずがない事だ・・・。どうして知っている」
何故かロバートがフリッツに圧をかけてくる。
わけもわからず、フリッツは 夢で見た、と繰り返した。
フム、とロバートは腕組みを解いた。
「どうやら本当の話みたいだな」
「ロバート、お前フリッツを疑ってたのか?」
「疑う、というよりは、フリッツがその夢の出来事をこれから起こることだと、確信しているのは何故か?と思ってな」
「実はエマーリアが病気だと判明した」
「義姉さんが?大丈夫なのか?」
「ああ、幸い、新しい医師に診てもらえて、完治している」
「バロウズは?」
「契約解除をした。息子はまだ勉強中だから援助は続けるけどな」
「ああ、子供には罪はないだろうし、その芽をつぶさずに育ててあげた方がいい、で、それが?」
「先ほどフリッツが話していただろう、エマが病気で亡くなったと」
「それが、その病気だと?」
「ええ、夢の中で、母が亡くなった後、葬儀場で当時見舞いに来てくださった方から聞きました。
かなり症状が進んでから明らかに病気の症状が出ていたからわかったそうです。
その方も身内に同じ病気の方が見えて、でもタンク男爵の治療で完治したのだと。
もっと早く公爵に知らせていればよかったと、謝罪されました」
「王妃陛下の協力もあってな、王室医務官からも診察を受けられたし、タンク男爵にも依頼して、今は無事に完治で来たのだ」
「そうなのか・・・」
「それから、まだ内々でしか知らないのだが、シャーロットが婚約した」
「え!早いな、で、相手は?」
「・・・第2王子殿下だ」
「へえ、またなんで」
「一目ぼれしたそうです、それも夢の通りなんですが、父上はそれが阻止できなくて悔しがっておりまして」
苦笑交じりにフリッツが説明すると、ロバートはなんとも言えない顔をした。
「そのことは・・・まあ、いい。よくはないが・・・、それよりも、お前の後妻達の事だ」
「メルダとベッティか?」
「今後ベッティと養子縁組するつもりは?」
「ない、それは後妻に迎える時にきちんと契約している。
我が家には嫡男ライナスが後継ぎだし、養子に迎えて余計な火種をかかえるつもりはない。
成人までは面倒を見るが、それ以降は我が家とは縁のないものとしてもらう予定だ」
「そうか、じゃあ何故ベッティは従妹だというのだろう」
「さあ、後妻にしといてなんだが、あの母娘はとにかく面倒でな」
「じゃあ、機会があれば離縁もかまわないと?」
「もちろんだ」
「それなら、今後、公爵家にあの二人が来ても我が家は受け入れないつもりなのだが、、それでもいいんだな?」
「ああ、むしろ今まで受け入れてもらって申し訳なかった。
義姉さんにもシャーロットにも迷惑をかけていたんだろう?」
「はは、まあ、な」
「では、今後はメルダ夫人は子爵夫人として、ベッティは親戚ではない、という態度で付き合わせてもらう。もちろん、お前とライナスは大事な弟と甥だからな」
ゼルマンの言葉にロバートは嬉しそうにうなずいた。
その後、どうやったら離縁できるかを話し合い、時間を合わせてまた話し合いをすることで3人は一致した。今後はライナスも参加することになるだろう。
その日から、メルダとベッティは公爵邸への出入りを禁止されたのだった。




