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16 メルダを追い込む


 サロンでハントとお茶を楽しんでいたメルダは、何か騒々しい様子を感じた。

「何かしら?」

「騒がしいな」


「こんなところにいたのか、優雅なもんだな」

「あ、フリッツ・・・様」

突然現れたフリッツに、メルダもハントも驚きを隠せないでいた。


「どうされたのですか?隣国からはいつお戻りに?」

「そんなことは貴女には関係ないですよね」

「!!そんな、私は心配して・・・」

「それはどの立場からおっしゃっているんですか?」

「え?」

フリッツの言葉にメルダとハントはすぐに返事をすることができなかった。


「貴女は我が公爵家のどの立場で話していますか?」

「ですから、いずれ旦那様の妻として公爵家に・・・」

「父からはそんな話は聞いておりません」

「そんな!旦那様は私に家内を収める権限を与えてくださいましたわ。

いずれ公爵夫人としてやるべき事ですし」

「ですから、父からはそんな話は聞いておりません、と申し上げております」

「旦那様は療養中で、私でもお目にかかれないのです。

フリッツ様が何も聞いていなくて当たり前ですわ」


少し黙った後、フリッツは1枚の書類を出した。

「ここには、父からの証言がサイン付きで書かれています。

メルダさん、貴女は母が病に倒れたので、その身の回りの世話をさせてほしいというので、滞在させたそうですよ。

母が亡き後は、まだ幼いシャーロットが寂しい思いをしないように、同じ年のベッティがいた方が

気がまぎれるだろうと、引き続き滞在を許可した、とあります。

まあ、父も体調を崩してしまい、大人が貴女一人だったのです。

使用人たちが勘違いをしても仕方がない部分はありますね」


父を保護してから、医師の許可をもらい、メルダとベッティを滞在させた理由を確認したのだ。

保護されて2日ほどして、ゼルマンは元気を取り戻し始めていた。


フリッツは以前に使用人を勝手に解雇したり、降格させたりしていた事を覚えていた。

あの時は、悲しみを忘れようと仕事に没頭していた父が、メルダに家内の事を頼んだと思っていたのだが、父はそれを否定した。


「どんなに悲しくても、親戚でもない人物に家の事を任せるわけがないだろう」

「でも、メルダさんはサラを降格させたり、セバスティアンを領地にやったり、勝手に使用人を雇ったりしていましたよ?」

「なんだって?ワシは何も聞いてないぞ」

「実際にシャル付きのサラが下女にされていますし、他にも半数以上が降格や解雇になっています」

「そんな・・・」

「なんの報告もなかったのですか?」

「ああ、そういえば、従弟が仕事を探しているので、何とか雇ってほしいと言われて、セバスに頼んだことがある。確かフットマンとして雇ったんじゃなかったか?」

「だからシャルや私の手紙を抜き取ることができたんですね。

父上からの伝言も握りつぶすことは可能ですね」

「そんなことをされていたのか、すまん、ワシがバロウズに監禁されていなければ、いや、エマーリアを亡くした悲しみに暮れて、お前たちの事をきちんと見てやれなかったことが一番の罪だな」

ゼルマンはがっくりと肩を落とした。


「では、メルダさんを追い出しても父上には何も思うことはないのですね?」

「ああ、もともとは、エマの病気の世話をするためにいたのだし、それもこちらがお願いしたわけではない」

「後妻にしようとは?」

「はあ?何を言い出すんだ?そんな事思ったこともない」


それを聞いて、フリッツは内心胸をなでおろしていた。

あんなのを後妻に望んでいたとしたら、父の頭を疑うところだった。

多少はきれいな見た目だが、それだけだ。

品もなく、学もない、虚栄心と、強欲さが内面からにじみ出ている、そんな女が義理でも母になることはフリッツには我慢ならなかったのだ。


そうして、先ほどメルダに見せた書類が出来上がったので、さっそくメルダを追い出すために動いたのだ。

そのまま公爵家から放りだして問題を起こされても困るので、事前にメルダの実家に行ってみた。


メルダの両親は、申し訳なさそうに、メルダは結婚してから家族と縁を切っており、引き取ることはできない、と答えた。

「貴族様には申し訳ありませんが、あの子は昔から平民のまま生きるのは嫌だと言いまして。

働くことを嫌い、平民である私たちを馬鹿にしていました。

結婚してからのあの子は  自分は貴族になったのだから、もう家族ではない

そう言いに来ました。

今更あの子を引き取る気持ちにはなれないのです」

すみません、と両親は深々と頭を下げた。

メルダの兄弟たちは貴族に逆らうなんて!と怯えていたが、フリッツとグリーは安心するように言い聞かせた。


次にフリッツが向かったのは、叔父のロバートに縁談を持ち掛けた男爵のところだ。

男爵は自分には関係ないことだ、と迷惑そうに言った。

「わしは、単に彼女を紹介しただけだ」

「それにしてはかなり強引だったようですね」

「そんなことはない」

「いいえ、毎日のように騎士団に押しかけ、騎士として指導してやった恩を忘れたのか?などと叔父を責め立てていたようですね。

当時の事を騎士の皆様は覚えていましたよ。

当然ですが、証言をサイン付きで書面にしてあります」

「だから何なんだ!何かの罪になるとでも?」

「いいえ?でも、かつて騎士団副団長を脅していたことが社交界に広まれば、男爵家と付き合う貴族がどれだけいるのかと・・・」

「む、脅すのか?」

「まさか、でも、我が家は公爵家です、たかが男爵家ごときがそんなに強気に出ていいものですかね」

「たかがとはなんだ!若造が!!」

男爵がそう叫んだとき、慌てたように若い男性が部屋に入ってきた。


「父上!おやめください、公爵家の若様に対して無礼が過ぎます」

「なんだと」

「あの時家族皆で言ったではありませんか、あんな女の為に副団長様にご迷惑をかけないでくれと。

これ以上迷惑をかけないでください」

強い口調で男爵をとがめると、フリッツ達に向き直り、頭を下げた。

「公爵令息様に大変ご無礼を致しました。」

「頭を上げてください、謝罪を受け入れます」


「すみません、父が無礼を働くかもしれないと思い、扉の前で待機しておりまして、お話は聞こえておりました」

「そうですか、それで?」

「メルダとベッティを我が家の使用人として引き取ります」

「何を勝手な!」

「父上は黙っていてください。すでに家督は私が継いでおります。

当主の決定には従っていただきます。いつもあなたが言っていた事でしょう」

「う・・・」


「あの二人が使用人としておとなしくしているとは思えないが?」

「はい、このまま父上の世話係としてしかるべき場所へ連れていきます」

「しかるべき場所?」

「我が領内にある隠居所です」

「わしはあんな所にはいかん!」

「何を言っているのですか、父上が言ったのですよ、当主になった自分の邪魔をさせないために隠居には引っ込んでもらうのが決まりだと。そう言っておじい様を追い出しましたよね?」

「・・・」

「それぞれ色々あるのだろうが、詮索はしません。

こちらとしては2人を引き取ってもらえればよいので」


フリッツと新しい男爵は書類を交わし、握手をした。


メルダとベッティの未来が決まった。


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