12 第3王子の暴走
デリケートな部分に触れる記載があります。
気になる方は飛ばしてください。
次の日から、教室に現れたウィリアムはシャーロットに絡んできた。
「お前、今日もベッティを馬車に乗せなかったんだってな。
何故そんなに意地悪をするんだ、縁があって家族になったんだろう?」
「家族ではありません」
シャーロットの返事にウィリアムは机をバンっと叩いた。
「まだそんなことを言うのか、貴様の性根は腐りきってるな!」
毎日のように続くウィリアムからの罵倒。
周囲の皆は何とかそれをいさめようとしているのだが、
「王族の俺に無礼を働くのか!不敬罪でとらえるぞ」
と言われると、強く出ることもできない。
シャーロットは何とか絡まれないように授業ギリギリに教室に行ったり、休み時間は保健室へ行ったりと、なるべく顔を合わせないようにしているのだが、逆に追いかけられるようになってしまった。
王子が味方に付いてからは、一般科の生徒達も増長し始めた。
以前よりも攻撃的になってきたのだ。
ある日、シャーロットは帰り支度をしていた。
友人たちは安全のために側にいてくれているし、他のクラスメイトもなるべくシャーロットを一人にしないように気を遣ってくれている。
だが、ウィリアムはずかずかとシャーロットに近寄ると、いきなり腕をつかみ、引っ張り出した。
「御放しください!」
「ウイリアム殿下、放してあげてください」
「何をなさるのですか?」
皆が止めに入るのだが、ウィリアムの乱暴は止まらない。
「うるさい!何度言ってもわからないこの傲慢な女にしつけをしてやるだけだ」
そういって、シャーロットを引きずっていく。
抵抗しようにも、恐怖で体がこわばってしまっている。
廊下の先にはベッティと取り巻きがいた。
「さあ、ベッティに謝れ」
「・・・」
「おねえさま、もういいでしょう?あたしの事を妹だと認めてください。
それから、家であたしをいじめるのをやめてください」
いじめてなどいない。
どちらかというと、メルダと二人で嫌味を言ったり、シャーロットの物を取り上げたりしているのはベッティだ。
「明日からは一緒に馬車に乗せてくださいますよね?」
公爵家の紋章の付いている馬車には公爵家の人物、もしくはその客人として認められたものしか乗せないのが決まりだ。
他の貴族もそれぞれ紋章に値する人物しか乗せない、それが当たり前なのだ。
もしも、メルダが本当に後妻として公爵家に嫁ぎ、ゼルマンが養子縁組すれば、ベッティは晴れて馬車に乗ることが許されることになる。
入学式の後にフリッツはわざわざ家まで一緒に戻り、すべての使用人を集めてそのことを周知した。
この決まりが守られなければ、他の貴族から縁を切られ、公爵家は路頭に迷うことになる、と。
メルダは大げさだ、と笑っていたが、
「私は第2王子の側近だ。
万が一、決まりを破っていることが分かれば、王家からのお咎めもありえるんだぞ」
そう脅しをかけておいたので、さすがにメルダはシャーロットの馬車にベッティをのせようとはしなくなった。
だが、ベッティは自分も公爵令嬢なのだから乗れるはずだと信じて疑わない。
王子様も自分の味方だし、病気が治ったら公爵様と再婚する予定だとお母さんも言っている。
だったら、少し早いが自分も公爵令嬢として生活しなければいけない。
おねえさまはずっと令嬢として甘やかされて、ずるいのだから。
「何とか返事をしろっ!」
取り巻きの生徒がシャーロットの肩を押す。
「ベッティがかわいそうじゃないか」
「なんて傲慢な」
「お貴族様はそんなに偉いのかよ」
そういって次々とシャーロットの頬を叩き、頭を叩く。
「やめて!」
逃げようとしても、腕をつかまれ、壁にぶつけられる。
頭がくらくらする。
ようやくウィリアムの護衛が走ってきた。
教師も遅れて走って来る。
シャーロットの友人たちが、ウィリアムを探している護衛を見つけ、教師たちにも連絡をしてくれたのだ。
ウィリアムは護衛に捕まり、王宮へと連れていかれた。
ベッティたちは教師に捕まり、それぞれの罪を各家庭に知らせることになった。
シャーロットは保健室に連れて行ってもらい、手当を受けた。
「もう我慢できないわ」
「ひどすぎる」
「シャル、家に帰っちゃだめよ」
「先生、どう思いますか?」
「そうだね、とりあえず、自宅には居候さんがいるんだろう?
だったらどこかに避難した方がいいな」
「でも・・・」
「私のうちに来たらいいわ」
友人のエリーがそういってくれた。
「あら、私のうちでもいいのよ」
「我が家も歓迎よ」「うちもよ」
それぞれがそういってくれた。
シャーロットは最初に提案してくれたエリーにお世話になることにした。
「何故マルクス公爵令嬢に絡んだりしたんだ」
「あいつが傲慢で義妹をいじめたりしてるからだ」
「義妹?公爵はまだ療養中で再婚はしていないはずだが・・・」
「療養後に籍を入れるそうですから、遅かれ早かれ義妹になるでしょう」
「何を言っとるんだ?お前は。
何より貴族であれば再婚の認可を受けてから初めて籍が入れられる。
養子縁組が必要ならその後認可の申請をせねばならん。
それまではたとえ内々に決定していたとしても、単なる居候扱いだ」
「それではベッティが可哀そうではありませんか!」
「ベッティとは誰だ?」
「あの女、シャーロットの義妹ですよ」
「・・・ウィリアム、お前、婚約者でもない令嬢を勝手に名前で呼ぶな」
「そうですよ、いずれ家族の一員になるとはいえ、勝手に名前を呼ぶとは、マナーがなっていませんわね。それに、いま教えてもらったでしょう?
きちんと認可されていないのに義妹を名乗ったり、公爵令嬢を名乗ったりするのは犯罪よ」
王と王妃がそれぞれ話をしたのだが、思い込みの激しいウィリアムには届いていなかった。
そして、 いずれ家族の一員になる この言葉に、シャーロットが自分の婚約者になるのではないかと思い込んでしまったのだ。
そして、さらには、ベッティを疎ましく思うシャーロットが王と王妃に何か告げ口をしたのだ、とまで考えてしまったのだった。
「ウィリアムは何故あんな風に育ってしまったんだろう」
「ええ、きちんと教師をつけて、王族としての教育もしたのですけれど・・・」
「我が叔父が気まぐれに手を出したりしなければ・・・」
ウィリアムは第3王子とされているが、前王の王弟が手を付けた平民の子供だった。
王弟は仕事もせず、市井で享楽にふける放蕩ものであった。
継承権があったため、第2王子が生まれるまでは種の為に生かされているだけだったのだが、
ある日突然、平民の女性にほれ込んでしまい、妊娠までさせてしまった。
ウィリアムの母親は強欲な女で、王弟には継承権があり、いずれ自分の子供が王になれるかもしれないと野心を抱き、王弟をそそのかし始めた。
短絡的な王弟はそそのかされるまま王位簒奪を企んだのだが、ずさんな計画はすぐにばれ、二人は毒杯でひそかに処刑された。
現王は、子供に罪はないとその命は救ったのだが、叔父の子供が新たな火種になるのを恐れ、第3王子として自分の身内に取り込むことにしたのだ。