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1 目が覚めた

  「うわあぁあぁ」


 突然の叫び声に扉の前にいたグリーは急いで部屋の中に駆け込んだ。


「大丈夫ですか?」


 叫び声の主はグリーの乳兄弟でもあり、自分が仕える主人でもある公爵家嫡男フリッツだった。

 ベッドの上に上半身を起こしているが、目の焦点が合っていないようだった。


「フリッツ様、どうされました?フリッツ様!」

 両肩に手をかけて軽く揺さぶるとようやくグリーの顔に焦点があった。

「フリッツ様?早く入学式のお支度を」

「入学式?・・今日は何日だ」

「は?」

「今日は何月何日だっ!」

「えっと・・・」

「早く答えろ!」

「アゴスト・5日になります」

「‼‼」

 慌てた様子でグリーを押しのけるとそのままの格好で裸足のまま部屋を飛び出していった。

「え?」

 あまりの勢いに固まっていたグリーはハッとしてフリッツを追いかけていった。


 どこに行ったのかと追いかけていくと声が聞こえてきた。

「・・・早く、早くしないと叔父上が・・・・」

 焦ったような話声はフリッツの父であるマルクス公爵にむけられていた。

 今日は王城へ早めに出仕すると聞いていたな、と思いつつ声の方へと急いでむかった。



「落ち着け、何を言っているのか・・・「ですから、今日の騎士団の極秘任務は情報が洩れているのです、急ぎその事を騎士団にお知らせしてください」」

 公爵は自分の声を遮って話す内容に驚き固まっている。

「情報がもれている?いやそれより極秘任務の事を何故しって・・・「そんなことはどうでもいいのです!早く騎士団に知らせを送ってください!早くしないと叔父上が亡くなってしまう!」」

「は?ロバートが?」

「は、や、く、してください!父上!」


 怒鳴るように叫ぶフリッツの様子にマルクス公爵ゼルマンは家令に急ぎ伝令を騎士団に送るように指示を出した。

 家令が急いで移動する姿を見たフリッツはため息をついてその場に座り込んだ。



「フリッツ、色々と聞きたいことがあるんだが・・・「シャル!!シャル!シャーロットぉおおお」」

 またしても自分の言葉を遮る息子が自分の後ろを見てダッシュしたことに気が付いた。

 そこにはゼルマン自慢の愛娘シャーロットがフリッツにぎゅうぎゅうと抱きつかれている。

「シャルだ、シャルだ・・・じゃるぅぅっぅ」

 最後は泣きながらシャルロットを抱きしめ続けている。


「お・兄さま、く、くるし「シャル、俺はシャルを絶対に守るから」」

 えぐえぐと泣きながら妹を抱きつぶしている姿に、ハッと我に返ったグリーはベリベリと二人を引きはがした。

「何するんだ、グリー」

「何をするも何も、お嬢様を殺すつもりか!」

「ころ・・す?」

「いや、おいおい急にどうして?」

 殺す、という言葉に反応したのか、フリッツは床にぺたりと座り込んでしまった。

 そのまま床に蹲るようにして

「俺は絶対シャルを守るんだ・・・」

 と、ぶつぶつ言っている。



「朝から何の騒ぎなの?」

 そう言って現れたのは公爵夫人、エマーリア。


「あぁ、フリッツが朝からなんか変「母上!母上‼‼起きてきては駄目です、すぐにお部屋におもどりください」」

「え?」

「早く、マリー、早く母上を寝室にお連れして休ませるんだ」

 素早く起き上がったフリッツは母親を侍女長に渡した。

「あの、フリッツ?わたくしどこも悪くな「父上!医者を呼んでください、一刻も早く!」」

「は?急に何を言い出す「早く医者を!」」

「えっと、セバス?、バロウズ医師に連絡を「駄目です!」」

 家令にお抱え医師に連絡をするように指示を出す公爵にフリッツはつかみかかるように顔を近づけた。


「父上、バロウズは駄目です」

「いや、しかし我が家専属の「だ・め・で・す」」

 あまりのフリッツの迫力にタジタジになるゼルマン。

 コホンと咳ばらいをして家令のセバスティアンが聞いた。

「ではフリッツ様はどんなお医者様をお呼びしたいのですか?」

 この質問にフリッツはう~んと少しの間考えていたが、パッと顔を輝かせると、

「タンク、タンク男爵だった」

「タンク男爵様?ですか?初めてお聞きしますが」

「うん、でも凄い医者なんだよ。母上を助けてくれる人だ」

 キラキラした瞳でまっすぐこちらを見るフリッツにゼルマンとセバスティアンは顔を見合わせた。


「旦那様、どうされますか?」

「全く聞いたことがないが・・・なぜバロウズじゃダメなんだ?」

「わかりません」

「・・・タンク男爵について少し調べてくれ、呼ぶのはそれを確認してからだ」

「かしこまりました」


「フリッツ様、とりあえずお部屋にお戻りになって、お着換えください」

 グリーがフリッツの襟首を掴むとそのまま引きずっていく。

「わかったから!」

「全く朝から何やってんですか」

「悪かったよ、でも時間が無くて・・・」

「今日は入学式ですよ?」

 グリーに言われてフリッツは慌てて部屋に戻った。




 今日はフリッツが貴族学院に入学する日なのだ。


 本来ならしっかりと早目に起きてゆっくりと準備をする予定だったのだが、フリッツの奇行にスケジュールが狂ってしまった。


 当然、早くに出仕する予定であったゼルマンも大急ぎでの登城になってしまった。




「で?今朝の奇行は何なんだ?」

 大急ぎで支度を済ませ、フリッツとグリーが馬車で出発すると、グリーが質問してきた。

 二人の時はグリーの態度もかしこまることはない。

「奇行?ってひどいな」

「何の説明もなく、いきなりだぞ?で、何なんだ?」

「あ~、そのなんだ、夢で・・・」

「は?まさかの夢?夢の話であんなに大騒ぎ?おまっ、騎士団動かしてんだぞ?」

「あはは」

「笑い事じゃねぇよ。どうすんだよ、夢だったなんて・・・」

「いや、でもあの夢は夢じゃない、本当に起こることだと思うんだ」

「何だよ、その自信は。仕方ない、帰ったら真剣に謝らないとな」

 そう気持ちを切り替えるグリーにフリッツは納得のいかない顔をしていたが、学院に到着し、入学式の始まる頃にはすっかり自信を無くしたようだった。



 帰りの馬車の中では、朝の出来事をどうやって謝ろうか・・・と二人でうんうん唸りながら何の解決策も思いつかないまま公爵家に到着してしまった。


「仕方ない、思い切り謝るしかないな」

 そう言って少し青い顔をしたフリッツはノロノロとした足取りで屋敷に入っていった。


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