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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第94章

 良作は、玄関で、健一氏の奥さんに出迎えられた。


 理沙の母は、健一氏と同級生で、名前を夕子と言った。


 「良作君じゃないの・・・! 久しぶりねぇ・・・何年ぶりかしらね。なつかしいわぁ。」


 「ご無沙汰してます。・・・すみません、連絡も取らなくなってしまって・・・」


 「いいのよ。誰だって、いそがしいんだもの。個人個人の事情だって、変わるから。でも、良作君、ずいぶん、がっちりした体格になったわねぇ・・・。理沙も大きくなったけどね。」


 「まぁ、夕子。積もるハナシは、リビングでやろうや。良作君を立ちっぱなしにしちゃあ、申し訳ない。長旅で疲れてるんだからな。」


 「そうね・・・気が利かなくて、ごめんなさいね。良作君、ゆっくりしていてね。夕方には、理沙も帰ってくるからね。きっとね、良作君に会ったら、すごく喜ぶわよ。会いたい、会いたいって言ってたから・・・」


 良作と理沙の父は、これまでのお互いの状況や経過を、お茶菓子をつまみながら、世間話とともに楽しんだ。


 もちろん良作は、美絵子と里香のエピソードには、ひと言も触れなかった。


 理沙には・・・特に、美絵子との感動的な再会を報告してはならない・・・彼は、固く、自分に誓っていたのだ。


 そんなことを話せば、理沙本人はもちろんのこと、こうして、明るく、あたたかく迎えてくれた理沙の両親にまで悪い印象を抱かせることが明らかだったからだ。


 ・・・夕方。


 玄関のドアに付けられた鈴の音が「リーン」と聞こえ、理沙が中学校から帰宅した。


 「・・・ただいま。」


 「おう、理沙、おかえり。・・・今な、うちにすごい、スペシャルゲストが来てるんだ。誰だと思う・・・?」


 「え・・・? だれ、だれ??」


 「パンパカパーン♪ 良作君の、おなーりぃ・・・!」


 「良ちゃん、ですって?? ウソー、ほんとに?」


 「あ・・・理沙ちゃん、ひさしぶり! 元気だった・・・?」


 「びっくりしたぁ・・・。ほんとに、良ちゃんだぁ。うれしい! 何年ぶりなのぉ!?」


 理沙はそう言って、走り寄り、リビングのソファーに座る良作の首に両腕をまわして、からだをピッタリ密着させた。


 「理沙ちゃん・・・健一さんも、夕子さんも見ているじゃないか。はずかしいよ、僕。」


 「どおして・・・? だって、良ちゃんが、あたしの宿題の漢字の書き取り、代わりに書いてくれてたとき、いっつも、こうやって、あたし、抱きついてたじゃん。」


 実は理沙は、漢字の書き取りのような、めんどうで退屈な作業は、良作にやってもらっていたのだった。


 彼が一心不乱で代筆だいひつで書いてあげている最中、きまって理沙は、良作に、毎回このように甘えて、うしろから抱きついていたのだった。


 「・・・理沙ちゃんの甘えんぼぶりも、変わってないなぁ・・・。理沙ちゃんのヘタクソな字に似せて書くのって、けっこう大変だったんだゾ。」


 「ああー、言ったなぁ。良ちゃんの字だって、あたしに負けないくらい、きったなかったじゃん?」


 「ははは。ちがいないや。こりゃまた、一本取られたわい。」


 良作と理沙は、すっかり、あの頃のふたりに戻ったようだった。


 そして彼女は・・・美絵子ほどではないにしろ、最後に会った、あの日から、ずっと背が伸び・・・ショートへアの似合う、美絵子に負けないくらいの美少女に成長していた。


 声も、美絵子同様、幼い頃のトーンを残しつつ、すっかり大人の女性の魅力を有した、素敵なソプラノボイスに変わっていた。


 夕食時には、良作を歓迎するための、豪華な「食事会」となり・・・健一氏の知り合いの「マタギ」が撃った鹿と猪の肉も、食卓に並んだ。


 良作は、鹿も猪のどちらも食したことがなかったので・・・初めて食べる、その美味に感激し、さらに、こうしてあたたかく迎え入れてくれた、理沙一家の真心に感謝し・・・ときおり、涙を見せながら、夢のようなひとときを過ごした。


 そして良作は、地元の「十勝ワイン」も、ご馳走になり・・・ほろ酔い気分で風呂に入り・・・鼻歌交じりで洗髪していると・・・その背後に、誰か立っている気配を感じた。

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