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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第89章

 ふたりが再会して、限りなく強く・・・そして、ゆるぎない愛をふたたび誓い合ってから、はや、一ヶ月あまり。


 良作の母校である「農業大学校」では、一年生の、北海道への「農業実習旅行」が出発の時期を迎えていた。


 この学校では、毎年のように約二週間もの期間、一年生時に、この「北海道農業実習」が全員に課されるのだ。


 学生一人ひとりがバラバラに振り分けられ・・・それぞれが、学校から割り当てられた向こうの農家に「農業実習生」として入り、そこで農作業の手伝いをしながら寝食をともにする・・・このような制度であった。


 良作が住むT県からは、北海道は遠い遠い、北の大地。


 この「実習旅行」では、航空便は使用せず、東北新幹線と鈍行列車による、現地までの長い長い列車の旅路になっていた。


 学校が、税金でまかなわれる「県立」ということもあり、旅費の経費削減が徹底され・・・寝台車も用意されなかった。


 1989年9月当時は、「はまなす」という名前の夜間急行列車が、青森駅から札幌駅まで、青函せいかんトンネルをくぐって運行されていた。


 これは、あの「青函連絡船」が廃止されるのにともなって、一般列車の客車を使用した、いわば「寝台車の代役」として、2016年まで、本州ー北海道間を鉄道で結ぶ、貴重な連絡手段となっていたのだ。


 良作たち一行が、青函トンネルをくぐりはじめたとき・・・ちょうど深夜だったので、彼らが乗った客車の照明が、「夜間照明」のオレンジ色の光に変わり・・・良作たち乗客は、仮眠をとることとなった。


 これは、いわゆる「寝台車」ではなく、普通の客車を寝台車代わりに夜間に使用したものだったので、一般乗客も同じ車内にいたし、前後に学生が座っていたため、椅子を倒して寝ることもできず、脚も伸ばせず・・・狭い空間で座った姿勢のまま仮眠せざるをえない、きわめて不便かつ不快な状況なのであった。


 また、「夜間照明」が煌々(こうこう)とともっていたため、睡眠に入らずにぼそぼそと談笑する学生も、車内のあちらこちらにいて、ふだん、他人の話し声のいっさい聞こえない静かな環境で寝起きしていた良作にとって、この夜行列車での一夜は・・・ほぼ一睡も出来ない、苦痛そのものの、嫌な思い出となってしまった。


 こうして、ロクに睡眠もとれぬまま、長時間の不自然な姿勢による肩や腰の痛みにさいなまれながら・・・良作たち一行は、実習先への玄関口である、「札幌駅」に、まず足を下ろしたのである。

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