表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『たからもの』  作者: サファイアの涙
86/126

第85章

 良作と美絵子は・・・こうして、実に7年余りもの長き年月を経て、感動的ともいえる再会を果たすことが出来た。


 さまざまな「紆余曲折うよきょくせつ」を経て・・・二人は、ゆるぎない強固な愛を確かめ合ったのだ。


 しかし良作は、次の美絵子の言葉に、言い知れぬ「うしろめたさ」を感じた。


 「・・・あたしね、良作君・・・。ずっと、変わらず、良作君を想っていたの。ずっとずっと、ひとりで。あたしに言い寄る男子もたくさんいたわ。でもね、良作君のことがどうしても忘れられなくて・・・誰とも付き合わずに、告白も誘惑も、ぜんぶ突っぱねてきたの。そして、待っていたわ。いつかきっと、良作君が、白馬に乗った王子様のように、まっすぐあたしを迎えに来てくれるからって・・・。あたしには、良作君しかいなかった。良作君のほかに、あたしを幸せにしてくれる人なんかいなかったの。きっと、神様が、そんなあたしの願い事をかなえてくれたのよね・・・。」


 美絵子はそう言って、良作の胸に、父親に甘える子供のようにほほをすりつけた。


 良作は、ふたたび美絵子に、申し訳ない気持ちになっていた。


 7年前の、あの悲しい別れの原因となった、いまわしい行為の謝罪は、一見、済んだかに思える。


 しかし良作は、美絵子がいじめに苦しみ、不登校の憂き目に遭い、それでも自分をけなげに想い続け・・・他の男子の誰にも心許すことなく、まっすぐに自分だけを待つ一方、自分は理沙との甘い日々におぼれ、里香にも励まされ・・・二人で映画鑑賞にうつつを抜かす・・・こうした「癒しの日々」を満喫まんきつしてしまっていたのではなかったか・・・彼は、美絵子の髪をなでながら、そんなことをぼんやりと考えていた。


 美絵子がひとり苦痛にさいなまれる一方、なんのかんの言いながら、自分自身は「安全圏内」にのうのうとあぐらをかき、ひとり苦しむ美絵子を救うこともできず、ただ「安穏あんのん」と、平和な日々を送ってきただけなのではなかったか・・・。


 だが、それでも良作は、美絵子が不在のあの時期・・・理沙と里香、ふたりの強力な「うしろだて」のおかげで今日までやってこられた、その事実を、今こうして、自分に甘え続ける、愛しい美絵子に容赦なく突きつける勇気は湧かなかったのである。


 もちろん美絵子なら、そんな事実を知ったところで、そのいきさつを正直に打ち明ければ、きっと笑って許してくれるにちがいない。


 しかし良作自身は、あくまで「美絵子だけを」、まっすぐに、そして誰の想いも入る余地のない、混じりけのない純粋な愛の心で彼女だけを愛し続けていたのだと、美絵子に認めてほしかったのだ。


 そして、もし次に理沙なり里香と会えたときには・・・この可愛い美絵子に会ったことは、何が何でも秘密にしておこう、理沙や里香と、美絵子を引き合わせてはならない・・・そこまで考えてしまっていた。


 美絵子と良作が、こうして再会の喜びに打ち震えている最中にも、良作の心のうちにひそむ、うしろめたい陰の部分が招きよせた、あのいまわしい「魔物」と「きまぐれな時の神」は、静かに忍び寄り・・・またふたりの間を引き裂こうと、虎視眈々(こしたんたん)とねらっていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ