第84章
「美絵子ちゃん・・・あのときは、本当にごめんよ。つらかったよね・・・苦しかったよね。許してね・・・。」
「ううん。あたし、なんにも覚えてない。覚えてるのは・・・良作君との楽しい想い出だけ。あたしね・・・とっても幸せだったの。だって、良作君、あたしを大事にかわいがってくれてたでしょ・・・? だから、良作君との想い出の中に、悪いことなんて、なんにもなかったよ。」
「美絵子ちゃん・・・君は・・・!」
良作は、美絵子の、自分を気遣う、そんな優しい言葉を聞くと・・・知らず知らずに涙があふれだし、さらに強く、ぎゅっと美絵子を抱きしめた。
「良作君・・・。」
美絵子も、そんな良作の愛に応えるように、良作の肩に頭をのせて・・・気がつくと二人は、いつしか熱いくちづけを交わしていた。
美絵子の父は微笑すると、それを見ないようにして、そっと奥の部屋に入っていった。
「・・・良作君、ごめんなさい。あたし、お盆に何度もここに来ていたの。でもね、お母さんが、良作君とは関わらないように、強く警告していたの。話題にも出すな、絶対に会うなって・・・」
「そうだったのか・・・すまない。僕のせいで、美絵子ちゃんにまで、そんな負担をかけてしまっていたとは・・・。」
「ううん、ちがうの。あたし・・・ずっと、お母さんには苦労かけっぱなしだったから、それ以上、ストレスを与えたくなかったの。それにお父さんがね、いつか良作君は必ずここに来てくれるはずだから、今は辛抱しなさいって、言ってくれてたの。・・・そして、お父さんのいったとおり、今日、良作君、こうして会いに来てくれたわ。・・・本当に、ありがとう。」
「待たせたね、美絵子ちゃん・・・もう、離さない。誰にも、君を渡すもんか!」




