第79章
「・・・良作君、ごめんなさい。あたし、はしたないことしちゃって。」
里香は、まだはずむ息をおさえながら、うつむいて言った。
「いや、いいんだ。・・・里香ちゃん、僕の話・・・よかったら、聞いてくれないか。」
「話って・・・?」
「・・・里香ちゃんは、よく知らないだろうけど、あの子たちと僕との間にはね、いろいろあったんだ。話していいかい・・・?」
「うん。あたし・・・良作君のこと、なんでも知りたいの。・・・教えて。」
良作は、美絵子と自分が初めて会ってから、今日、この日までのいきさつを、理沙との関係も含めて、こと細かく話して聞かせた。
「・・・良作君、ごめんなさい。あたし、そんな事情があったなんて知らなかったから、あのとき、放課後、良作君を責めちゃったりして・・・」
「いいんだ。里香ちゃんは、僕のこと、本当に心配してくれてたんだもんね。僕ね・・・うれしかったんだよ。理沙ちゃんは、僕をずっと支え続けてくれてたけど・・・年下だったしね。本当は、里香ちゃんのように、同い年の味方がほしかったんだ。・・・頼りがいがあって、こうして腹を割って話せる味方がね。理沙ちゃんはまっすぐで優しかったけど・・・やはり、僕にとっては、どこまで行っても、妹のようなものだったのかもしれない。彼女、こんなこと聞いたら、気を悪くするだろうけど・・・」
「ううん。そんなことないよ。理沙ちゃんは、そんな良作君の本当の優しさを知っているはずだもの。だから良作君に魅かれたんでしょう・・・? 美絵子ちゃんだって、今はもしかしたら、良作君をあまり良く思っていないのかもしれないけど・・・時期が来れば、きっと分かってくれると思うの。彼女の家族の人は・・・難しいとは思うけれど・・・」
「・・・やっぱり里香ちゃんだよね。僕のこと、ちゃんとわかってくれてたんだもんね。僕ね・・・あの二人のこと、忘れられそうにない。でも、こうして僕を心配して、他の人だったらめんどくさくて聞きたくもない話まで、最後まで聞いてくれて・・・本当にありがとう。もっと早く、里香ちゃんに話せばよかった。理沙ちゃんと仲良くなる前に。」
「良作君・・・」
「里香ちゃん・・・あつかましいお願いかもしれないけど・・・よかったら、また話、聞いてくれる・・・?」
「うん! もちろんよ。良作君が、美絵子ちゃんなり、理沙ちゃんを想っていても、それでもいいの。あたし・・・そんな純粋であったかくて、優しい良作君が、誰よりも好きなの。・・・愛してるの。付き合って欲しい・・・なんて、そんなわがままは言わないわ。良作君とこうしているだけでね・・・あたし、とってもほっとするの。そばにいられるだけで、本当に幸せな気持ちになるの。」
「里香ちゃん・・・」
良作は、そこまで聞くと・・・あの理沙が、いつの日だったか同じようなことを自分に告白してくれたことを思い出した。
「・・・良作君、今日は本当にありがとう。とっても楽しかった。また、あたしといろいろ話してくれる・・・?」
「うん。また、仲良く話そう。・・・じゃ、里香ちゃん、自転車で送るよ。うちまで送ってく。」
里香は、また良作の自転車の後部に乗り・・・ここに来る前よりも、ぎゅっと、良作の腰にまわした両腕に力を込めて彼を抱きしめ・・・背中に横顔をぴったりと寄せた。
(・・・ああ、いい匂いだわ。良作君、とってもいい匂い。あたし・・・ずっと、こうしていたい。良作君と、このままずっと、いつまでもずっと。ああ・・・良作君・・・)




