第75章
K小学校の旧校舎は、夏休み期間中の、児童が学校内にいない時期を利用して、備品や、そのほかの必要なものを、新校舎に運ぶ作業の後、新学期が始まる直前に、取り壊されることとなった。
いよいよ取り壊しの当日の朝・・・良作は、やや緊張の面持ちで自転車に乗り、まっすぐK小学校の旧校庭に向かった。
そこには、すでに作業のための何台もの大型重機や、放水車が停車し、校庭の北よりの校舎に近いエリアは、カラーコーンと仕切り棒で囲われ、一般の人が立ち入りできないようになっていた。
そして、黄色いヘルメットをかぶった多数の作業員たちが配置について、すでにスタンバイし、いつでも取り壊し作業が開始できる状態になっていた。
ちょうど日曜ということもあり、良作が現地に到着したときには、もう校庭にたくさんの人が見物に集まっていた。
彼のかつてのクラスメートや教師陣、そして・・・かつて良作を『給食のお兄ちゃん』と呼んで慕っていた、あのかわいい後輩たちも、見物の輪の中にいた。
あれから4年・・・あんなに小さかった彼らも、もう五年生だ。
良作と休み時間に遊んだ、あの子・・・そして、あの子。
みな、一様に成長し、背が伸びている。
中には、良作とさほど変わらないほど、大きくなった子もいた。
良作は、その輪の中に、かつて良作と休み時間に遊び、他の子が次々と良作から去っていく中、最後まで残ってくれた、あの一番可愛い女の子の姿も見つけた。
彼女もまた、背が伸び、顔つきも髪形も当時よりずっと大人っぽくなり、その隣には、彼女のボーイフレンドとおぼしき、ハンサムな男の子もいた。
二人は仲良く肩を組み・・・良作が見る限り、それはまさに「理想の小学生カップル」に見えた。
良作は、彼女が、かつての彼同様、かけがえのない「パートナー」にめぐり会えたことに、喜びと感慨をおぼえ、自分が、美絵子や理沙とたどってきた、楽しく・・・そして、美しい想い出の数々を呼び起こし・・・彼らの仲むつまじい姿に、限りなく幸せだった自分の姿を重ね合わせていた。
彼が、夢見るような幸福感に包まれていたとき、うしろから、右肩をちょんと指でつついた者がいる。
振り返った良作の背後にいたのは・・・K小学校時代のかつてのクラスメート、遠山里香だった。




