第71章
良作の目に、とめどなく涙があふれ・・・机の上には、ぽたぽたと落ちたしずくで、小さな泉ができていた。
あの美絵子の愛らしい面影の数々・・・鮮やかによみがえった、かわいらしい笑顔、そして声・・・彼女のうるわしい香り・・・その、あまりにもなつかしい想い出の波に圧倒され、恍惚とする良作・・・。
・・・静かに時は流れる。
せまりくる無数の想い出が心に織りなす饗宴に身をゆだねた彼は・・・やがて、大きなためいきとともに元の自分に戻り、美絵子の隣に、彼女同様、無邪気な笑顔で立っている田中理沙に想いをはせた。
(理沙ちゃん、元気にしてるかい・・・? 俺は今日ね、写真とはいえ、こうして美絵子ちゃんにまた会えたよ。美絵子ちゃんね、背が伸びたんだって。こうして見るとさ、理沙ちゃんも大きくなったよね・・・毎日のように会ってたから、理沙ちゃんがおっきくなっていたのに気づかなかったよ・・・。いつか会いに行くから、待っててね。理沙ちゃん・・・。)
そして良作は、美絵子と理沙が初めていっしょに校庭で記念撮影をし、ふたりが顔を合わせて仲良くなった様子を思い浮かべていた。
(むじゃきでかわいい美絵子ちゃん・・・そして、とっても優しく、彼女がいないつらい状況で、俺をずっと支えてくれた理沙ちゃん。・・・ふたりとも、ありがとね。俺は、会えて本当に幸せだった。また三人で会おう。そして、また仲良く話そうよ。きっといつの日か・・・。)
そう思った良作は、その入学式の日の校庭での記念撮影の写真を、理沙が持っていることにも気がついた。
むしょうに、その写真も見たくなった彼だったが・・・同時に、理沙がずっと良作を想いながらも「美絵子の代役」として、控えめに自分を支え続けてくれた、けなげでいじらしい、陰の努力を思い出し・・・そんな理沙に、入学式の日の美絵子が写った写真まで見せてくれ、などという、デリカシーも配慮のカケラもない、エゴの見本のような要求などできなかった。
欲張らなくとも、目の前には、なつかしいふたりの姿がちゃんとあるではないか。
屈託の無い、けがれなき無邪気な笑顔で、自分を見ていてくれるではないか・・・。
良作は、ふたりの魅力的で明るく、そして天真爛漫な姿を交互に思い出しながら・・・おだやかな気持ちで、ふけゆく静かな夜・・・心地よい眠りについたのである。




