第70章
封筒から取り出した写真には・・・なつかしい美絵子と、先に北海道に引っ越していった田中理沙が写っていた。
並んで写っており、向かって右側に、実に三年ぶりに見る美絵子の姿が。
それは・・・良作と知り合って間もなくの頃の、遠足先の遊園地で撮られたものだった。
背景に、アトラクションの馬車の乗り物とお化け屋敷の建屋・・・そして観覧車が見える。
美絵子が真ん中に位置し、理沙は、控えるようにその隣に立っている。
二人とも笑みを浮かべながら、「気をつけ」の姿勢で、かしこまって立っていた。
美絵子の姿を見た彼は・・・一瞬にして、涸れて干からび、記憶の彼方に去りつつあった美しい想い出の数々が、まるで湧き出る泉の澄んだ水のごとく、こんこんと記憶の泉によみがえってくるのを感じた。
初めて校庭の記念撮影で彼女を見て、ひとめで心射抜かれた、あの記念撮影のときのこと・・・。
鉄棒にぶらさがる彼女に緊張でドキドキしながら、思い切って声かけした、あのなれそめの日のこと・・・。
追いかけっこやかくれんぼ・・・そして、ブランコに二人で揺られた、あのひととき・・・。
雨の日の図書室で、仲良く並んで絵本を読んだ、あのバイオレットのような、いい匂いの彼女のうれしそうな横顔・・・。
手をつなぎ、お互いの手の感触、体温、相手への限りない愛を強く感じながら、幸せいっぱいに歌いながら歩いた、通学路での彼女の面影・・・。
それらが、一気によどみなく、良作の心に、染み入るように流れ込んできたのだ。
(ああ・・・そういえば、あのときの美絵子ちゃん、俺と初めて目が合って、にっこり笑ってくれてたっけ・・・)
(そうだったよ、鉄棒にぶらさがってさ、美絵子ちゃん、パンツ丸見えになってたっけ・・・うふふ。)
(あっちこっち走って、ふたりでおっかけっこしたなぁ・・・俺のほうが走るの速いから、ちょっと待っててあげてたっけ・・・)
(ブランコの美絵子ちゃん・・・とってもいい匂いしてたよなぁ・・・ああ・・・なつかしいなぁ・・・)
(美絵子ちゃんの手・・・やわらかくて、あたたかかったなぁ・・・)
(美絵子ちゃん、背が伸びたんだね・・・いま、どんなふうになってるんだい・・・? 俺も、ちょっとは伸びたんだよ。)
(美絵子ちゃん・・・美絵子ちゃん・・・あぁ・・・美絵子ちゃん・・・)




