第63章
移動中のバスの中で良作は、理沙が、自分とよし子先生の母親との会話を、もしかしたら立ち聞きしていたのでは・・・このような憶測で考え込んでいた。
座席の一番後ろに座ったのは、ツアーの往路のときといっしょだったが、今は理沙が右隣にいる。
座っていても、ずっと良作の右手を握って離さない。
美絵子グループのメンバーは、すぐ前の席の両隣に分かれて座っていたが・・・ときどきにっこり笑って二人の様子を見守るだけで、ごく自然に自分たちの会話に没頭していた。
(・・・これでいいのか。俺は、このまま理沙ちゃんと仲良くなったまま、美絵子ちゃんに会える日を待ち続けられるのか・・・? こんな状態で美絵子ちゃんに会っても、彼女は俺を許し、受け入れてくれるんだろうか・・・。)
さまざまな考えが、とりとめもなく良作を襲う。
彼は、「逆らえない運命的な何か」のチカラを強く感じていた・・・。
しかし彼はまた、そのチカラの主が、かつて良作と美絵子の仲を容赦なく引き裂いてしまった、あのいまわしい「魔物」のしわざとは、考えたくなかった。
その「魔物」は、よし子先生が命を賭けて良作を守り、退治してくれたはずだった。
・・・彼は、そう強く確信していたのだ。
あるいはそれは・・・別の「何か」が作用しているのではないか・・・そんなナンセンスな考えをも抱くようになった良作は、しまいには、考えるのを・・・すなわち、「悩むのを」やめた。
理沙が自分を好きなら、それでいいではないか。
美絵子と会えないならば、それはそれで仕方ないではないか。
・・・これでも自分は、今、自分にできることを精一杯やっているではないか・・・。
ようやく彼は、かりそめの「正解」にたどり着いたのだ。
それは・・・今現在、彼がとりうる「ベストの選択肢」に他ならなかった。
良作は、その心境に至ることで、ウソのように気持ちが軽くなった。
そう。
今は・・・少なくとも今は、置かれた状況と、与えられた条件の下、やれることを尽くすのみである。
良作の疲れきった魂を今救って軽くしてくれるのは・・・皮肉にも、美絵子の親友だけなのだ。
校庭に到着した良作は、水木先生や、今日一日同行した2年生の仲間たち、そして、美絵子グループのメンバーと挨拶を交わし・・・新たなパートナーともいえる理沙と仲良く手をつなぎ、かつて美絵子と並んで歩いて帰った通学路を、二人で「松本聖子」のヒット曲を歌いながら、やがて家路に着いたのである。




