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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第62章

 よし子先生の母親から、激励と、これ以上ないほど愛に満ち溢れたメッセージを受け取った良作は、美絵子へのゆるぎない愛を心に誓い、母親と別れ、玄関を出た。


 そこで待っていたのは・・・美絵子の昔の親友の田中理沙だった。


 彼女は、みんなといっしょにバスに戻らず、ひとり、良作が出てくるのを待っていたのだ。


 「・・・理沙ちゃん。どうしたんだい・・・? 他のみんなは?」


 「先に行って待ってるわ。・・・良ちゃん、いっしょにバスに帰ろ。」


 そう言って理沙は、左手を良作に差し出した。


 良作の呼び名が、『良作さん』から、いつのまにか『良ちゃん』に変わってもいた。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 理沙と手をつないで歩きながら・・・良作は、よし子先生の生家に来るとき、いっしょに手をつないできたとき以上に、困惑していた。


 ・・・たった今、よし子先生の母親と話し、美絵子への愛を固く誓ったばかりなのだ。


 それなのに、自分はまた、こうして美絵子ではない、別の女子児童と仲良く手をつないで歩いている・・・そんな皮肉極まりない現実に・・・そして、美絵子同様、自分に想いを寄せる理沙の左手を振り払うことすらできない自分の置かれた状況に、困惑し、混乱していた。


 良作は、理沙が嫌いではなかった。


 むしろ、良作にとって彼女は、好みのタイプだったのだ。


 彼女は、あの美絵子に負けないくらい可愛い子だし、性格もまっすぐで優しい。


 美絵子と別れ別れになって、ひとり孤独にさまよう日々に陰ながら心配し、同時に、こんな自分にもひそかに想いを寄せ続けてくれた魅力的な女の子を嫌う理由などない。


 美絵子と知り合う前に、もし、理沙が良作の前に現れていたのなら・・・おそらく理沙は、良作の良き「パートナー」として、もっと早く、こうして手をつないで仲良く歩いていたはずだった。


 たしかに理沙は、良作と美絵子が仲良く手をつないで帰るのを、うらやましく見ていて、自分もそうしたいと思い、いつの間にか、見ていた対象の良作自体を好きになってしまった。


 しかし彼女には、美絵子同様、良作の芯の部分・・・本当の「心根の優しさ」という大きな魅力を感じ取れるだけのチカラが十分備わっていたに違いない。


 いかんせん、まだ理沙は幼かった。


 良作の心の中に、いまだ「美絵子の存在」というものがどっかりと根を下ろしている事実を知りつつも、自分の、良作に対する熱い想いをどうしても抑えきれず、美絵子ではなく、自分が良作を独占したい・・・そんなストレートな自らの気持ちにまっすぐ応え続けたゆえの素直な行動だったのだ。


 彼は、こんな可愛い理沙にも認められ、さらに愛されることをうれしく思い、光栄だと感じる一方、「この先、いったいどうなってしまうのだろう?」という漠然とした不安を抱えながら、みなの待つ観光バスに乗り込んだのである。

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