第57章
日が傾き、午後の爽やかな空気も、少しひんやりとしたものに変わってきた。
この美しい里山に響き渡るセミの声も、真夏のアブラゼミや夕暮れ時のヒグラシたちから、夏の終わりを告げるツクツクボーシの声に移り変わっている。
良作と北野先生の頭上には、気がつくと赤とんぼの群れが飛び交い・・・秋の匂いが、そこまで迫っていることを感じさせた。
二人が寺の境内に戻るころ、水木先生と2年生たちも、ちょうど寺の見学を終え、ぞろぞろとバスの方へ移動してくるのが見えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「良作君、私はこれで失礼するが・・・明日から生徒たちの定期試験があるんでな、それの準備に中学校へ行かねばならないんだ。」
「先生、今日は僕を鈴木先生に会わせてくださって、ありがとうございました。僕、この日のことは、一生忘れません。」
「いやいや。よし子先生もね・・・きっと良作君に再会できて、喜んでいるはずだよ。彼女にとっては、今も、君はかわいい息子なんだから・・・。」
「はい。」
「その手紙だがね・・・きっと、これから、よし子先生のご自宅へ行けば、謎が解けると思う。だから、心配しなくてもいい。」
「先生・・・」
「良作君、君は私にとって、自慢の教え子だ。君のような心底優しい子は、私が知る限り、君だけだった。峯岸君の件は・・・残念だったが。」
「いいんです。僕、いつかは彼女に会えるような気がするんです。」
「そうだな。決して希望を捨てちゃ、いかん。よし子先生と神様は、良作君のことをしっかり見守っていてくれているはずだからね。」
「先生・・・僕も、先生のような優しくて愛情深い大人になります! 勉強も、いっそうがんばって・・・。」
「そうだ、その意気だ! 良作君なら、中学でも、もっと成績を伸ばし、きっとみんなの模範となる、素晴らしい生徒になるはずだ。良作君、何か悩んだり、困ったことがあったら、遠慮なく私に連絡してくれたまえ。この名刺に連絡先も書いてあるからね。」
「先生・・・本当にありがとうございました。」
「・・・しっかりやれ!」
北野先生は、あの離任式の日と同じように、右手で力強く、良作の肩を叩いた。




