第50章
良作はその夜、自分が美絵子と別れたからのつらい日々の最後に、潤いと救いを与えてくれた鈴木先生へ、「手紙」という形ではあったが、その恩顧に対する自分の素直な気持ちをつづった。
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『鈴木先生、お元気ですか・・・?
先生がK小学校を去られてから、早、半年が過ぎました。
先生には、本当に良くしていただき・・・僕は、美絵子ちゃんがいなくなってからの、つらくさびしい日々を、先生のおかげで、なんとか乗り越えることができました。
今日、中野校長先生から、先生と北野先生が、小学校時代にすごく仲良しだったって話を聞かせてもらいました。
先生は・・・北野先生にとって、僕の大好きな美絵子ちゃんのような存在だったんですね・・・。
僕、ただの偶然だったとは思えないんです。
美絵子ちゃんが先生の教え子になったのは、たぶん、神様がそうしてくださったんだと、僕は思います。
北野先生は、僕にとってはすごく厳しくて、とっても怖い先生だったけど・・・本当は、とっても優しい男の子だったんですよね。
だって、先生が「お兄ちゃん」って呼んで慕っていたんですもの。
すごく先生のこと、かわいがってくれてたと思うんです。
僕だって、会ったその日から、ずっとずっと美絵子ちゃんが好きでした。今でも大好きです。
かわいくてかわいくて、たまらなかった・・・。
美絵子ちゃんは、僕とすごく仲良くしてくれてたけど、同時に、自分の友達のことも大切にしていました。
ずっと自分のカラに閉じこもって、みんなを避けていた僕とは、えらい違いでした。
僕は・・・先生が亡くなったあの日、初めてクラスメートと、心から打ち解けることができました。
きっと、先生が、僕たちの間を取り持ってくださったんですよね。
先生は、美絵子ちゃんが元気になったら、僕に手紙をくれると約束してくださいました。
僕はずっと待っていたけど・・・なかなか手紙が来なかった。
でも、誠実で優しい先生のことだから、まだまだ美絵子ちゃんが僕のせいで元気を取り戻すことができずに、七夕も近いというのに、いまだにふさぎこんでいることがわかりました。
もしかしたら・・・美絵子ちゃん、暗い気持ちのまま新しい学校に入って、いい友達がひとりもできずに・・・ひょっとすると、いじめられているんじゃないか・・・そんなことまで考えてしまいました。
全部、僕のせいなんです。
あのとき、美絵子ちゃんは、なんにも悪いことはしてなかった。
僕が勝手に落ち込んで、美絵子ちゃんを困らせてみよう・・・なんていう、場違いのふざけた気持ちになったのがいけなかったんです。
なんで、あんなひどいことしちゃったんだろう・・・。
あんなに僕を慕い、ずっと放課後も帰らずに僕のことを待ってくれてたというのに・・・七夕の日だって、僕のおよめさんになりたいって、けなげなメッセージを書いてくれたというのにです。
でも先生は、そんな僕を責めずに、むしろ励ましの言葉をかけてくださいました。
六年生の卒業式の日には、『自分の子供みたいだ』とまで言ってくださいました。
僕は、先生が好きでした。
『お母さん』としてではなく、もしかしたら、美絵子ちゃんと同じように、先生に恋をしていたのかもしれません。
先生がずっと独身でいらっしゃったと聞いたときは・・・僕が大きくなったら、先生のお婿さんになりたい、って思ったこともあるくらいです。
僕・・・今度美絵子ちゃんに会えたら、大事にします。
きっと、必ず彼女を幸せにします・・・約束します。
美絵子ちゃんに、これ以上さびしくて悲しい思いはさせない。
僕は、先生のことを想いながら、美絵子ちゃんに会える日を待ち続けながら・・・日々、勉強も、みんなとの交流も、おろそかにしないでがんばります。
先生・・・明日、先生に再会できるんですよね・・・?
僕、こんなヘタクソな手紙ですけど、一生懸命書きました。
先生に、僕と美絵子ちゃんがまた仲良くなる姿を見てほしかった・・・それだけがとても心残りです。
でも、美絵子ちゃんにまた会えて、また仲良しになったら、必ずふたりで先生に会いに行きます。
明日早いので、これで寝ます。
先生、おやすみなさい。
1982年9月22日 夜8時 高田良作』




