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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第49章

 中野校長は、続ける。


 「よし子君はね・・・A小学校に赴任して、また私と話すようになってから・・・毎日のように、このK小学校の思い出を話してくれた。自分の担当するクラスの児童ひとりひとりのことをうれしそうに、キラキラした瞳で話すんだ。私も、それを聞いているだけで、とても幸せな気持ちになったよ。」


 良作は、鈴木先生が、いかにこのK小学校を愛し、自分にとっての大切な「心のよりどころ」としていたかを知った。


 「いろいろな行事、児童との交流、教職員どうしのふれあい・・・どれも、よし子君にとっては、自分のかつていたA小学校時代の楽しかった思い出に負けないくらい、かけがいのないものだったんだな。でもね、良作君。だんだんと七夕祭りが近づくにつれ・・・君の話題が増えていった。しまいには、彼女、君の話しかしなくなっていたよ。よほど良作君のことが気にかかっていたんだろうな。」


 校長先生は、そう言いながら、ふところのハンカチを取り出した。


 「よし子君はね・・・いつも、君のことをほめていた。あんな優しくて、まっすぐな子は、めったにいない、ってね。まるで、自分の子供のようだと、ときには涙を見せながら語っていた。」


 先生は、そっとハンカチで目頭をおさえると、こう続けた。


 「実はね、良作君。君の担任だった、北野先生・・・彼もまた、私のかつての教え子だったんだよ。よし子君と北野君は、年齢が離れてはいたが、それは仲良しでね・・・いつも休み時間にいっしょに遊んでいたよ。六年生の北野君が、一年生だった、よし子君のところに、いつも遊びに行ってね。よし子君は、いつも北野君のことを、『おにいちゃん』と呼んで慕っていてね・・・まるで、本当の『恋人どうし』のようだった・・・。」


 良作は、その意外な事実に驚いた。


 かつての良作と美絵子のようではないか・・・!


 「・・・そのうちにね、六年生の秋に、急にお父さんの仕事の都合で北野君は、東京の小学校に転校していったんだ。よし子君に別れを告げる間もなくね・・・。彼女は、それからというもの、毎日泣き暮らしていたよ・・・『おにいちゃん、さびしい!』ってね。私は懸命になぐさめ、励ましていたんだが・・・何ヶ月も彼女の心に開いた穴を埋めることはできなかった。」


 良作は・・・自分と美絵子のたどってきた「運命」と同じような道を、鈴木先生と北野先生がたどっていたのだと、さらに驚きを強くした。


 「・・・やがて、二人は、おなじ『教員』として、このK小学校で再会した。出会った当初は、二人とも、休み時間になると、我を忘れたように、思い出話に花を咲かせていたそうだ。・・・同僚の市川先生によれば、ときどき二人とも、大泣きしながら話す場面もあったらしい。子供時代に戻ったみたいだ・・・って。」


 校長先生は、ここで一息ひといきついた。



 「・・・良作君。君にお願いがあるんだ。明日のバスツアー・・・2年生のみんなと、いっしょに行ってやってはくれまいか。」


 「・・・えっ?」


 「今回の鈴木先生への手紙と墓参ぼさんの件・・・北野先生に電話で話したらね、『そうですか・・・では、中野先生、六年生の高田良作君にも、ぜひ参加してくれるよう、お願いしていただきたいのですが・・・。』と言ったんだ。北野先生はきっと・・・よし子君と自分の仲むつまじかったことを思い出し、君に、かつての自分を重ね合わせていたのかもしれんな。よし子君はよく話していたよ。ある、ひとりの少女を、良作君が、それは大切にかわいがっていた、ということをね。それ以上、詳しくは話してはくれなんだが・・・。」


 良作は、以前、体育の授業をこばんだとき、北野先生が、かわりに「未提出の宿題消化」という名目で、それとなく授業からはずしてくれた配慮を思い出した。


 自分と美絵子との関係の変化にそれとなく気づき・・・良作の心の傷まで見通した、北野先生なりの優しさと気遣いだったに違いなかった。


 「・・・2年生は、よし子君にあてて書いた手紙を持っていくんだが・・・彼らも、何日もかけて、じっくり手紙を書いてきたのだからね・・・急に書け、といわれても、なかなか書けるものじゃないしな。良作君、君は、体ひとつで参加してくれればいい。きっと、よし子君は、君が来てくれるだけで、喜んでくれることだろう。」


 「校長先生・・・僕、今夜、手紙を書きます。・・・いや、ぜひ、書かせてください! 僕、一生懸命書きますから・・・。」


 「そうか・・・。きっと、君なら、そう言うと思っていたよ。では、明日、8時出発だから、遅れないようにね。手紙を書いたら、ゆっくり寝なさい。睡眠不足の良作君じゃ、よし子君だって、面食らうかもしれんからな。」


 「・・・はい!」

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