第38章
・・・良作が少女の後を追う。
少女は、振り向きもせず、徐々に接近する彼に気づくそぶりも見せずに、ひたすら早足で通学路をゆく。
「間違いない・・・!」
良作は確信し、ついに少女に追いついた。
「・・・美絵子ちゃん!」
良作が叫ぶ。
彼の目に、狂いはなかった。
・・・間違うはずがない。
別れてからずっと、片時も忘れたことのない、最愛の恋人。
ひとりぼっちだった良作にいつも寄り添ってくれ、一度は「短冊」で愛を誓い合った、最愛のパートナー・・・。
良作は、美絵子の横顔を見て・・・その表情がかつて彼と仲むつまじかった頃とうって変わり、まるで「曇天」のように、暗く・・・そしてさびしい色に染まっているのに気づいた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「・・・美絵子ちゃん! いつ、戻ってきたんだい・・・? 元気だったかい・・・?」
良作は、はずむ息を抑えながら、横顔の美絵子に話しかける。
ようやく美絵子は、自分の左側に立つ良作にまっすぐ顔を向けた。
・・・やっと会えたというのに、表情は相変わらず暗い。
美絵子は、悲しげな目で、じっと良作を見つめ・・・唇を、かすかに動かした。
何か、良作に告げたようだ。
「美絵子ちゃん! ・・・今、なんて言ったんだい・・・? 頼む、もう一度、言ってくれ・・・!」
しかし、美絵子はもうそれ以上、何も言わなかった。
良作はたまらなくなり、思わず美絵子の左手を、ぎゅっと握った。
・・・そう。かつて、二人がそうしていたように・・・。




