第34章
雨音が、薄暗い図書室の窓をたたく。
濡れそぼる校庭からいつもの「居場所」を奪われた新一年生たちも、退屈な教室から、絵本の並ぶこの図書室に移動していた。
かつて良作と美絵子が一番好んで何度も何度も繰り返し読んでいた、一番のお気に入りの「あの絵本」も、傷ついた良作と遊び、次々と仲間が集団を去っていく中で最後まで残ってくれた「あの一番かわいい女の子」に独占されていた。
・・・それはあたかも、あの美絵子がその子に渡した「バトン」のようだった。
そう・・・美絵子から、その子に託された、愛のリレーの「バトン」・・・。
去年と違い、大幅に児童の増えた新一年生たちが、雨の日は大挙して、この広くてアンティークな部屋に押し寄せる。
しかし、良作と美絵子が仲良く並んで座っていた、窓際の角の席・・・あの二つの大切な「想い出の席たち」には、なぜか誰も座ろうとはしなかった。
まるで、その二つの席を、良作と美絵子のためだけに、いつまでも「リザーブ」してくれているように・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ガヤガヤと騒がしい室内の隅っこの席に、良作はなつかしい、ひとりの少年の後ろ姿を見つけた。
それは・・・学芸会の翌日の「あの事件」以来目にする、大山少年が一心に読書に没頭する姿だった。
彼は「あの事件」以来、心に深い傷を負い、心身ともにボロボロの状態で、「不登校」の長くつらい試練をようやく乗り越え、今日この日、良作同様「唯一の自分の居場所」である図書室に帰還してきたのである。
良作は、大山少年が図書室から姿を消し、そして学校からも長らく「気配」をなくしていた事実にやっと気づいた。
美絵子のことで頭がいっぱいだった良作も、大山少年が自分同様、この日までずっと必死に自らと闘ってきたことに思いが至った。
そんな大山少年に、かつての自分へしてくれた行為への「恩顧」を改めて伝えるべく、そっと背後に歩み寄った。




