表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『たからもの』  作者: サファイアの涙
33/126

第32章

 初夏の爽やかな空気が薄れ、だんだんと「梅雨つゆ」の足音が近づいていた。


 良作も、トタンきの屋根や軒先に放置してあるバケツに当たる雨音で目覚める朝が増えてきた。


 ・・・まだ夜でもないというのに、もう蛙たちのにぎやかな合唱が、裏の田んぼからたえず聞こえてくる。


 良作は、雨の日が好きだった。


 以前までは・・・。


 しかし今は・・・美絵子がいなくなった今となっては、良作の居場所は、あの「図書室」しかなかった。


 新一年生たちが、「わが世の春」を謳歌おうかし、思い思いにたわむれる校庭の空間は、良作の「存在感」を、美絵子の面影おもかげとともに、静かに消し去ろうとしていた。


 自らの居場所を失いつつあった良作が、最後に求めた「救いの場所」が、雨の日に愛しい美絵子と絵本を読んだ、なつかしい「図書室」だったのだ。


 六年生になってからの良作は、新一年生との「つかの間の甘い夢」を見て、わずかな期間ではあったが、かりそめの心の安らぎを得ることができた。


 ・・・しかし、その新一年生たちからは、本物の「愛」を得ることはできなかった。


 まだ完全に心の傷のえていない良作が、かつて二人を包んでくれた優しい空間である「図書室」を訪れ、日ごとに急速に色あせていく「美絵子のにおい」を必死に追い求めたというのも、自然ななりゆきだったといえる。


 美絵子とともに、校庭に居場所を失いつつある彼にとっては・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ