第28章
つつがなく卒業式が終わると、翌日は、あわただしく三学期の「終了式」だ。
六年生たちは、昨日の卒業式を無事に済ませ、「新中学生」として新しい世界へ明るく旅立っていった。
そして、四月になれば、良作たち五年生も、今度はいよいよK小学校の最上級生となる。
このK小学校では、終了式のあとに「離任式」が続いて行われる。
今年度で学校を去る教師たちが、在校生全員に別れのあいさつをするため、次々と壇上に並ぶ。
・・・その中には、良作たち五年生の担任の北野先生だけでなく、美絵子が在籍していた一年生の担任の鈴木よし子先生の姿もあった。
北野先生は、県南の中学校教員としてA中学校へ・・・そして鈴木先生も、同じ市のA小学校へ、それぞれ異動することになった。
いよいよ先生たちとのお別れの時間・・・北野先生は良作の肩を、力強くポンとたたき、ただ一言。
「・・・しっかりやれ。」
淡白な北野先生らしい、あっさりした別れの言葉だった。
でも、これまでの「厳格な」まなざしではなかった。
良作の担任になってから一度も彼に見せたことのない、とてもあたたかな、そしてやわらかい「まなざし」だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして良作には、美絵子との別れの日以来の、とてもつらい別れの瞬間が訪れた。
良作を今日まで支えてくれ、励まし、つらいときにはいつも寄り添ってくれた、敬愛する鈴木先生が、学校からいなくなってしまう・・・。
(あのつらい「喪失感」を、俺はまた味わわなくてはならないのか・・・。)
良作にとって最大の味方であり、そして再来した「魔物」のよごれた手から彼を守ってくれた、強く、優しい恩人。
「・・・良作君、元気でいてね。実は私ね、ずっと良作君をわが子のように感じていたわ。とってもかわいかった。良作君、気持ちがまっすぐで優しい子だもの・・・。」
そう言って先生は、あの日のように良作をその胸に抱きしめた。
・・・とってもいい「匂い」がする。
美絵子とはまたちがった、桃のような優しい香り・・・。
「峯岸さんが、なぜ良作君を選んだのかが、先生には分かる気がするの。彼女ね、毎朝私に会うたびにうれしそうに『良作君と、今日も遊ぶの!』って報告してきてたのよ。良作君のこと、愛してたのね・・・。」
先生は、そう言いながら、いとおしそうに良作の頭をなでた。
「彼女ね、きっと回復して、元気な姿を良作君に見せてくれるわ。・・・あとで、峯岸さんの転校先と、住所を手紙で教えてあげる。それまで・・・しばらく待ってあげてね。いまは、まだ我慢してね。ごめんね、良作君・・・。」
先生の目には、あの日のように熱い涙が・・・そして良作の目にも。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日、夜空を見あげた良作の目には、無数にまたたく星ぼしのきらめきが・・・。
ひときわ明るく輝く星・・・これはきっと、鈴木先生の星。
そして、その下で、寄り添うように輝く二つの星・・・先生の、優しくも力強い星に見守られながらいっしょに仲良く輝く二つの星・・・。
・・・良作は、そのふたつの星に願いをかけ、美絵子への愛を、ふたたび力強く誓った。




