第26章
会場に立ち尽くす良作。
そして彼の目は、あの日美絵子が書いてくれた「愛のメッセージ」を掲げた笹のあった場所へ・・・。
良作がうなだれて、美絵子への懺悔の気持ちを新たにしていたとき、背後で声がした。
そこには、美絵子の担任の鈴木教師が立っていた。
体育館の放送室で、残ってあと片付けをしていたのだ。そして、二階にあるその部屋の窓から、良作の様子をじっと見つめていたのである。
「・・・高田君、そろそろ教室に戻ろう。」
しかし良作は、先生にうながされても会場を去ろうとしなかった。
「先生ね、高田君の今の気持ちが、よく分かるの。ここには、峯岸さんの想い出があるのよね。大切な想い出が・・・。」
「先生・・・美絵子ちゃんはいま・・・」
良作が言いかけると、先生はその言葉をさえぎり、良作をじっと見つめた。
彼が何を自分に尋ねたいのかは、痛いほど分かっていたのだ。
「ううん。だめよ、良作君。いまは、まだだめ。そっとしておいてあげて。
ね、わかるでしょう? 峯岸さん、まだ傷が癒えていないのよ。」
・・・先生の目には、涙が。
そしてひとすじ・・・すーっと先生のほほを伝う。
「先生には分かるわ。きっと、あの日の良作君、魔がさしちゃったのよね。でもね、いま二人が会ったら、もっとつらくなっちゃうんじゃないかな・・・? だから良作君、いまだけは、そっとしてあげてほしいの。先生からのお願い・・・。」
良作の目にも、涙があふれた。
「いいのよ、良作君。思い切り泣いていいの。そして、傷が癒えるまで待ってあげてね。時間が・・・きっと時間だけが解決してくれるわ。」
そう言って、先生は良作をぎゅっと抱きしめた。
良作は、美絵子の最後のメッセージを読んだときと同じように、先生の胸で思い切り泣いた。




