第24章
この年の卒業式の前日。
六年生のために翌日に挙行される本番に向けて、予行練習が全校生あげて行われた。
良作は、久しぶりに式の会場となる体育館に入った。
美絵子がいなくなって以来、体育館で行われる体育の授業を、ずっと良作は欠席していた。
ここは、良作と美絵子にとっての大切な想い出の場所・・・。しかし良作は、彼女との想い出を探す旅のさなかでも、努めてこの場所だけをあえて避けてきた。
美絵子が七夕の日に良作宛てに書いてくれた、あの愛情いっぱいのけなげな短冊のメッセージ・・・。
しかしその短冊を思い出そうとすると、どうしても、美絵子の最後のメッセージが書かれた、あの小さな紙切れを連想してしまうのだ。
・・・そこに思いが至ってしまう。
ふたつの美絵子のメッセージの間に横たわる、あまりの距離・・・そして落差。
幸福の絶頂と、限りない奈落の底・・・その両極端の感情を同時に味わってしまう厳しい現実に、良作は耐えられなかった。
だから彼は、担任に自ら申し出て、体調がすぐれないとし、「見学」という形でも体育の授業に参加することを拒んできた。
良作の担任の北野教師も、彼の心中を察してくれていたようで、無理に体育の授業に参加させることはせず、代わりに、ここのところ宿題をまったく提出してこなかった良作に、教室での宿題消化を命じた。
普段は厳格で、感情を表に出さない気難しい担任だったが、良作と美絵子のことをひそかに心配し、言葉にこそ出さなかったが、優しく静かに見守っていたのである。




