第23章
良作は、またひとりぼっちになった。
いつもそばにいてくれた美絵子が、もう校庭のどこにもいない・・・。
どこを探しても。
日に日に増してくる孤独感、そして喪失感。
良作は、美絵子の「痕跡」を求め、校庭をさまよい歩く。
そして彼は、鉄棒のところへ。
・・・そこは、初めて彼が美絵子にアプローチした、大切な想い出の場所。
「そうだった。美絵子ちゃんさ、ここにぶら下がって、パンツが丸見えになってたっけ・・・。」
良作は、まるで夢を見ているような表情で、独り言をつぶやいた。
ブランコのところにも行ってみた。
二人で並んでブランコに揺られながら、おいかけっこの疲れを癒した、あの大切な場所。
「あのとき美絵子ちゃん、とってもいい匂いしてたよなぁ・・・。」
だが、その美絵子の匂いがしない。
・・・もう良作には嗅ぐことができない。
図書室にも美絵子の姿はない。雨の日、ふたり並んで絵本を読んだ、想い出の場所・・・。
「そうだ。ここで初めて、美絵子ちゃんの名前を知ったんだっけ。」
窓の外を眺めると、広い校庭に良作がひとつひとつ、美絵子との想い出を、そして彼女の痕跡を探し求めた大切な場所場所が絵巻物のように広がった。
ひとつひとつの大切な想い出が、また幻想的によみがえってくる。
良作は、夢見心地で、その想い出の中で、美絵子と遊ぶ。
・・・でも、彼女の「匂い」は、どこにもなかった。
やがて良作の目は、鉄棒の少し先・・・「あの場所」へ。
瞬間、あの日の美絵子の「真っ赤な目」が脳裏に浮かび、楽しかった想い出の「甘い香り」が消し飛び、良作は我に返った。
校門を出た良作は、なつかしい通学路へ。
きのうも、そしておとといも歩いて帰った道のはずなのに、もう「なつかしい」。
ここにも、美絵子はいなかった。
いつも手をつないで、ときには肩を抱いて歩いた、愛しい美絵子が・・・となりにいない。
「美絵子ちゃんの手・・・やわらかくて、あったかかったなぁ・・・。」
でも、その手を握ることは、もうできない。
・・・こうして良作は、それからというもの、来る日も来る日も、美絵子との想い出を求めて、孤独にさまよう日々を送った。




