第15章
季節が流れ、冬の終わりごろに学芸会があった。
良作も美絵子も、自分の学年の劇中では端役だったが、他の学年の出し物の観劇中は学年ごとに区分けされた自らの席を抜け出し、二人並んで座って肩を組み、あいもかわらぬ仲良しぶりをアピールしていた。
そうして美絵子を愛してやまない良作であったが、実はこの学芸会の数日前あたりから、悪い夢を見るようになっていた。
連日のように見る悪夢。
びっしょりと脂汗をかいて飛び起きる朝が続くようになり、日中も疲れが残るようになっていた。
しかし、美絵子に無用な心配をかけたくなかったのと、そんなつまらないことで悩んでいる時間がもったいないと思った彼は、体中に残る疲れを必死に隠して、これまでのように努めて明るく振舞っていたのである。
その悪夢だが・・・不思議なことに、あれだけうなされて苦しめられていたというのに、目が覚めると全く内容が思い出せないのだ。
内容自体は短いものだったようだが、それが夜通し繰り返し繰り返し、まるで「無限ループ」のように良作に襲いかかってくるのだ。
悪夢が自分に、何か大切なメッセージ、いや知っておかなくてはならない「警告」を示唆するものであることは、直感的に良作も察知していた。
・・・しかし、その肝心の内容がどうしても思い出せないのだ。
夢の内容が分からなければ、良作とてどうしようもない。きたるべき「変化」に対応するべくもないのである。
こうして彼は、言い知れぬ不安と、不気味に忍び寄る「何か」を感じながらも、日ごとに増す体調の悪化を必死で隠し、意地と根性で美絵子との愛を守り通していた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それにしても奇妙だったのは、良作がこれだけ体調不良でずっと苦しんでいたというのに、両親が全く気づかなかったという点だ。
食卓に料理は並べるものの、ただのひとことも良作に話しかけはしなかったのだ。
食事もロクに取れない良作に対し、心配して声をかけることもせず、いつもと何も変わらないように自分たちは淡々と食事をしていた。
異変に気づいて、登校しようとする良作を引き止めようという動きもなかった。
いくら必死で隠していたとはいえ、気づかないはずはないレベルの状態だったのだが・・・。
しかし良作自身、「なにか」のチカラが不気味に作用しているのを肌で感じつつも、両親の異常な様子に頭を悩ませている余裕はなかった。
彼の脳裏に浮かんでいたのは、美絵子。
彼女のことしかなかった。