第14章
かように良作と美絵子は、もう立派な「小学生カップル」といえる間柄であったが、年間の学校行事などを通じて、さらにお互いの愛を大きく、強いものにしていった。
運動会、芋掘り大会、凧揚げ大会、学芸会・・・それぞれ二人にとって交流を深める大切なものばかりだった。
そんな良作の想い出の中でも、とりわけ忘れがたい行事になったのが「七夕祭り」であった。
この章では、七夕の日の二人の様子を描き、幸せいっぱいの彼らの心のうちをのぞいてみたいと思う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
七夕のこの日、K小学校の体育館の中には、学年ごとに願い事の短冊をいっぱいぶらさげた笹が、あちらこちらに立てかけてあった。
良作が一年生の集団の中の美絵子を見つけると、彼女はニヤッと笑って、短冊のぶらさがっている枝のひとつに目くばせした。
良作は、美絵子の書いた短冊を見つけると、顔が真っ赤になった。
『たかだりょうさくくんのおよめさんになりたい。 みねぎしみえこ』
それは、良作に対する美絵子のこれ以上ないほどストレートな愛のメッセージであった。
良作は、改めて自分の口から名前を告げてはいなかったのだが、きっと良作の漢字のネームプレートを見て、担任の鈴木教師から読みを教えてもらっていたのだろう。
そんな美絵子のけなげな気持ちまで察した彼は、顔だけでなく全身がほてり、思わず体育館の外にシューズを履いたまま飛び出し、大きく肩で息をした。
呼吸と気持ちが落ち着いてくると、良作はまたあわてて駆け出し、自分の書いた短冊のほうへ。
そして、『プロの小説家になって、難しい小説をいっぱい書きたい。 高田良作』という自分の短冊を枝から引きちぎり、そばにいた自分の担任に新しい短冊の用紙とペンを求めた。
『みねぎしみえこちゃんといつかけっこんしたい。 たかだりょうさく』
あわてて書き直した即興とはいえ、日頃から美絵子に対して抱く、良作の素直な愛の気持ちであった。
これは、期せずして、美絵子の愛の短冊に応えるベストな『返歌』となったのだ。
やがて良作のメッセージを見つけた美絵子は、ちょっと恥ずかしそうな、それでいてうれしくてたまらないという笑顔を良作に見せた。
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その日の下校時。
いつもよりもぎゅっと固く手をつなぎ、そしていつもよりもぴったりくっついて歩く二人の姿があった。
曇天ではあったが、きっと『おりひめさま』と『ひこぼし』が、ふたりの肩に舞い降りたのであろう。