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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第119章

 「・・・良作さん、あなたに渡したいものがあるのよ。少し待っててね。」


 良子は、そう言って、奥の寝室に消えた。


 しばらくして戻ってきた彼女が手にしたもの・・・それは、一冊の古いアルバム、一通の手紙・・・そして、小さな、指輪を入れるケースだった。


 「・・・これはね、良作さん。イサオさんが、亡くなる日の朝・・・役所に立ち寄って、渡してくれたものよ。良作さんが役所に来たら、渡してやってくれ、と言ってね。」


 「良子さん・・・。」


 「イサオさんはね・・・いずれ、あなたが、K市の役所を訪ねてくることを知っていたのね・・・。そして・・・自分の命が、もう長くないことも。」


 「・・・・・・。」


 「彼ね、私が、『もし、来なかったら・・・?』って訊いたらね、にっこり笑って、こう言ったの。『来るよ。 ・・・かならず、彼はここにね。』って・・・。イサオさん、心底、あなたのことを愛していたのね。さあ、良作さん。そのアルバムを、開けてごらんなさい。」


 良作が、アルバムを開いてみると・・・そこには、美絵子がまだ、赤子の頃からの写真から始まり、彼女の成長とともに、順を追って、まるで、記録映画のように、彼女の愛らしい姿が、夢のように展開していたのである。


 良作と出会う前の、小さな小さな美絵子。


 むじゃきに父と母、そして、姉とたわむれる彼女。


 良作が持っている美絵子の写真とは、また違った場所で撮られた、あの遠足先の遊園地の写真も。


 K小学校で撮られた、数々の行事での彼女の写真。


 運動会、たこ揚げ大会、学芸会・・・。


 そして、それらの写真には、美絵子のみならず、当時の良作、理沙、里香、亡くなった鈴木よし子先生、矢野校長先生、良作の担任だった北野先生、大山少年・・・美絵子グループの少女たちも、みんな、ニコニコして、美絵子とともに、楽しそうな・・・そして、幸せそうな笑顔で写っていた。


 良作は、その写真たちを見るごとに、忘れかけた、なつかしい想い出の数々が、まるで目の前に鮮やかに浮かびあがってくるような感覚をおぼえた。


 ・・・とても切なく、そして、甘い香りのように、やわらかく、ここちよく・・・。


 そして、一番最後に飾られた写真・・・それは、K小学校での、入学式の美絵子たちを撮った集合写真・・・良作と美絵子が、はじめて会い、お互いの存在を知り・・・そして、目が合った良作に天使のような笑顔を見せてくれた、あのときの写真・・・その、あまりにもなつかしい、いとしい写真が、良作をあたたかく、優しく迎えてくれたのだ。


 ・・・これはまさに、良作にとって、これ以上ない、イサオ氏からの、素晴らしい「バースデイ・プレゼント」であった。 

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