第117章
「やっぱり・・・あなたは、高田良作さんでまちがいないわ。イサオさんの言ったとおりだった。良作さん、あなた、美絵子ちゃんとイサオさんが、いま、どうなっているか、ご存じなのかしらね・・・。」
「良子さん・・・」
「その表情は、もう、ご存じなのね。・・・良作さん、つらかったでしょう。あなたのいまの心中、お察しするわ。」
そう言って良子は、良作の隣に座り、彼の背中を優しくさすった。
そのとたん、良作の胸に、何かが熱くこみあげてきて・・・彼の目には、とめどなく涙があふれていた。
(美絵子ちゃん・・・君は・・・君は、本当に死んでしまったんだね。僕は・・・僕は、君の最後の顔も、愛らしい姿も見ることなく、今度こそ本当に、君と永久に離れ離れになってしまったんだね・・・美絵子ちゃん・・・ああ・・・美絵子ちゃん・・・)
良作は、美絵子の母、時子からもらった手紙を読み、そのとき「情報」として受け取っていた「美絵子の死」というものが、いま、胸に迫る現実の感覚として、自身を襲ったのである。
彼女の「死」という事実を知って以来・・・ようやく彼の心に、目に、美絵子の死を悼む、悲しい悲しい涙が、涸れていた泉の底から、次々と湧きだすがごとく、熱く・・・そして、激しく、ほほを濡らすのだった。
・・・もう、二度と彼女と抱き合うことはできない。
もう、彼女と、くちづけすることもできない。
もう永久に、ふたりで、愛を語らうことも、できない。
もう二度と・・・そう。
もう、二度と。




