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『たからもの』  作者: サファイアの涙
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第107章

 理沙と里香・・・ふたりの優しく、いとしい『天使たち』と、血を吐くような断腸の思いで決別した良作は、また、新たな道を歩みはじめた。


 もう、迷いはない。


 いっさい、ない。


 最後に残った天使・・・最愛の天使、美絵子は、きっと自分を待ちわびている。


 きっと、いま、このときも一日千秋の思いで、ひたすら自分を待ってくれている・・・良作は、そう固く信じていた。


 ところが、美絵子の父、イサオ氏との約束から、二ヶ月たっても、三ヶ月たっても、音沙汰はなかった。


 イサオ氏は、「落ち着いたら、必ずこちらから連絡する」と言ってくれた。


 その言葉を信じて、良作は辛抱強く待った。


 ・・・ただひたすら、待ち続けた。


 ところが、秋が過ぎて冬になり、年が開けて春になっても、連絡はいっこうに来なかった。


 良作は、直感的に、美絵子の身辺で、なにか良くないことが起きているのだと、わかった。


 そしてまた、それは、良作ひとりの力では、どうにもならない、やっかいな・・・そして、悲劇的で絶望的な「なにか」だということも・・・。


 この、つらく、先の見えない不安に包まれた日々を支えたのが、美絵子や理沙・・・そして、里香との、美しい、そして、どこか切ない想い出の日々の記憶・・・そして、美絵子と理沙、それぞれとたびたび歌った、「松本聖子」のヒット曲の調べだった。


 良作は、つらいとき、悲しいとき、ひとりで耐えているときには、かならず「聖子」のなつかしい歌を聴き、心のよりどころとしていたのだ。


 それを聴いていると、彼女たちのいとしい姿が、目の前に鮮やかに浮かびあがり・・・いまのつらい現実を、つかの間の短い時間だったが、忘れさせてくれた。


 そしてまた、学生寮の読書ルームにて、ひとり孤独に書き綴った、彼女たちとの貴重な「思い出ノート」をめくっては、日々、急速に薄れつつある、彼女たちとのきらめくような、ほおっておけば消えていってしまう、はかない記憶たちが忘却の淵に落ちてゆくのを、精一杯、引き止めながら・・・BGMの聖子の歌とともに、「おもいでの旅」に出かけるのだった。


 そして・・・気がつくと、2年もの歳月が流れていた。


 良作の脳裏に、「あきらめ」の四文字がよぎり始めた、ちょうど、そのころ。


 彼の自宅に、一通の手紙が届いた。


 それは・・・美絵子の母、時子からの、良作宛の手紙だった。

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