第103章
「・・・良作君、ひさしぶり。」
里香は、よそゆきの、シックなスーツ姿で、たたずんでいた。
「里香ちゃん! ・・・ひさしぶりだなぁ・・・。元気だったかい?」
「うん。ご覧の通り、元気元気。良作君だって、元気そのものじゃないの。お祭り用のハッピも、すごく似合っているわよ。その頭に巻いた鉢巻きだって・・・。」
「やだな、里香ちゃんったらさぁ・・・これじゃ、ほめられてんのか、からかわれてんのか、よくわかんないじゃんか。で・・・なんで、僕がこの学校にいるのがわかったのさ・・・?」
「良作君ちに電話したの。そしたら、お母さんが出てくれてね・・・こっちの学校でお祭りやってるから、行ってごらん、って、教えてくれたの。」
「そうだったんだ。ま・・・それはそれとして、と。ほら、里香ちゃん、この子豚の丸焼き、見てごらんよ。すんごく、うまそうな色してるじゃんか、こんがり、キツネ色に焼けてさぁ・・・ほらぁ。」
「丸焼きもいいけど・・・良作君、あたしのスーツ姿には、興味ないの・・・?」
「えっ・・・?」
「昔の良作君だったら、まっさきに、あたしの服装の変化に気づいて、いつも、ほめてくれてたじゃない・・・? 良作君・・・ずいぶん、変わったわよね。」
里香は、少し不機嫌な顔で、良作にチクリと刺した。
(里香ちゃん、ひさしぶりに会ったっていうのに、ずいぶん、ご機嫌ナナメだよなぁ・・・。僕らが会わなくなった最後の頃も、たびたび、こんな感じで機嫌悪くなったことも、そういえば、何回かあった気がするなぁ・・・。)
「・・・良作君、あたしの話、ちゃんと聞いてくれてる・・・?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと、ぼーっと考え事してたんだ。で・・・何の話してたっけ・・・?」
「ううん。もう、いい。なんでもないの。ねえ、良作君。向こうの棟の、静かなところで話しない・・・? あたしたち二人だけでさ。・・・いいでしょう?」
「あ、うん。いいよ。ちょっと抜け出すくらいなら、誰も文句は言わないから・・・。」
そうして、良作と里香は、ふたりだけで、イベント会場の南側にある、誰もいない、静かな「実習棟」に足を運んだのである。




