一話終わりはいつだってあっけない
セカンド・ライフ・オンライン、
略してSLOと呼ばれるこのゲームは、2025年に発売され、
当初は、広大なマップや幅広いファンタジ―要素が世間の注目を浴び、
リリースされてから一か月経った日の同時アクセス数が一千万人をを超えるなど、
日本を代表するオンラインゲームと海外のニュースサイトはこぞって称賛した。
しかし、そんな大人気ゲームは突如として終わりを告げる。
【チュートリアルサービス終了】
2026年11月13日AM00時00分00秒
いつもどうりSLOをプレイしていた自宅警備員ことひきこもりの
徳川大志は、天井を見つめる。
「今日は俺の誕生日か。まあ...、そんなのどうでもいいけど。」
真っ暗な部屋で、パソコンの光が彼を見つめている。
そして彼もまた、パソコンを見つめる。
しかし彼が見つめた瞬間、突如として画面が真っ白になる。
そこに一言文字が現れる。
「サービス終了?…。はあああああああああああ??」
突然のことに驚きながらも内心は煮えたぎる怒りで埋め尽くされていた。
彼は検索サイトで調べる。
どうやら、彼と同様の現象が調べられる限りのすべてのプレイヤーに
起こったようだ。
彼は運営サイトにキーボードを汗で痛めながら飛ぶ。
しかし、調べても運営サイトは出てこなかった。
彼はこのどこに向ければいいのかわからない怒りをかみしめながら、
じわじわと視界がぼやけていくのに気付く。
なんせ、彼の一年が泡となったのだ。
彼が高校一年生で青春するはずだったこの一年を全てこのゲームにささげてきたのだ。
学校では赤点以下で補習になろうが学年最下位になろうがこのゲームをすればすべて忘れられ、
こここそが自分が求めていた理想郷だと妄信していた。
それが泡となったのだ。
こうして、彼のセカンドライフのチュートリアルが終了した。
彼の精気全てがSLOにおきっぱとなり彼はベットにうなだれる。
パソコンからメールが届いた音が聞こえる。
しかし、彼は、0になっていた。
彼は眠れない夜を過ごし、朝を迎えた。
彼はあまりに重い体を起こし洗面台に向かう。
彼は、ガラスに映された醜い顔をよそに歯みがきをして顔を洗う。
そして鏡に向かって笑みを浮かべる。
だけどもどんなにやっても映されるのは醜い顔。
前みたいに、
中学の時みたいな笑った顔ができない。
あの頃はリアルこそが彼の理想郷だった。
………でだよ。
なんでだよ!!!
気が付いたら頭からどす黒い血があふれ出ていた。
あれ?
何しているんだ俺。
姉が泣き叫んでいる。
母さんにきつく体を抱かれている。
朦朧とした意識の中視界が赤くなっていく。
ごめんなさい。
気が付くと彼は病院にいた。
目を覚ました僕に看護師さんが気づき、声をかける。
適当に会話をした後看護師さんが去っていく。
そして数分経ち、姉が来た。
「調子はどう?」
姉は手に持っていた袋を俺に渡す。
「おお。わかってんじゃん。(ないしん嬉しいが素直に言葉にできない。)」
「ありがとうございます!でしょう?」
「...はい。」
俺は袋の中にあったバナナを手に取って皮をむく。
そんな様子を姉、芽愛が見てため息をつく。
「本当に心配したんだからね!!!!」
「ごめん...。心配かけて。本当に。」
今でも正気を失うほどではないが悲しいしムカついている。
SLOにも。
自分自身にも。
あっ、と何かを言いたかったのを思い出したような顔を芽愛がする。
「SLO。なんか消えちゃったらしいね。
まあ無料ゲームだったしお金が無くなったとかじゃないけどさ。
さすがにこれはひどいよね。わたしもけっこーやってて楽しかったのになあ。」
俺はただうなずく。
「なんで突然消したんだろう。あんだけ人気だったのに…」
芽愛は何かを思い出したように口をふさぐ。
「そっそういえばさ!仮想現実世界が発明されたみたいだよ!!」
仮想現実世界という言葉に彼は飛び上がって姉の肩に両手を置く。
「それマジ!!!!?」
彼の重かった体はみるみる軽くなっていく。
姉は彼がしっぽをふりふりさせている子犬に見えフフッと笑う。
「マジだよ!」
俺はあまりの嬉しさにガッツポーズを決めるが直後に激しい頭痛が襲った。
「入院中なんだから安静にしていないとだめだよたーくん。」
「う、うん。」
その後も色々話していると母さんがやってきて泣きつかれる。
何度も母さんに謝り二人は去っていった。
一か月後、彼は無事退院して家に帰る。
しかし病院の人には精神的な傷を負っているだろうから
カウンセリングを定期的に受けるように勧められた。
病院近くのハンバーガー屋で退院祝いの
ダブルチーズバーガーを買ってもらい車で家に帰る。
自分の部屋に入ると生ごみのようなにおいが部屋を支配していた。
自分でもこんな部屋に住んでいたのかと驚き大掃除を始める。
入院生活を通して彼の生活習慣はよくなっていった。
机の上を残してすべてを片付け終わった彼は
机の上を片付け始める。
学校での勉強の痕跡は何一つないが膨大な時間をかけ書かれた全12冊のノートを
ぺらぺらとめくってみる。
そう。SLOの勉強&発見ノートだ。
ああ。楽しかったな。
すでに気持ちの整理を終えた彼は懐かしむようにノートを見る。
一通り見終わり、記念に取っておこうと彼は何も入っていなかった引き出し
の中に入れる。
そしてパソコンを開く。
しかし、キーボードが反応せず、仕方なくパソコンを買ったときについてきていた
キーボードに変えパスワードを入力する。
開くとメールが一通送られていることに気づく。
なんだろうと彼はメールを見る。
送り主は、なくなったはずのSLOからだった。