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黒金のコントラスト  作者: むみょう・あーす
【第一部:旅立ちの序曲】第一章:邂逅篇
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星刻暦概略

 歴史の分岐点から現在に至るまでの概略です。

 星刻暦が西暦に代わって用いられるようになったのは第二次世界大戦後のことだった。

 アドルフ・ヒトラー率いるナチス第三帝国のポーランド侵攻と共に幕を開いた二度目の世界大戦は、米英などをはじめとする連合国と日独伊の枢軸国の二陣営に分かれて行われた。

 しかしナチ党主導のもと行われたユダヤ人虐殺の報を受け、日本はこれを脱退し、大東亜共栄圏加盟国を率いて第三勢力とした。

 共栄圏側は明らかに劣勢ではあったものの、極秘編成された特殊部隊による陸上戦での快進撃によって中国大陸から一気にトルコを抜け、欧州まで突き抜けることに成功した。

 また資材の確保を綿密な計画を立てて実行したことによって超弩級戦艦と正規空母や軽空母の建造に着手した帝国海軍は、進水を終えた軍艦をスエズ運河に展開し、これを攻略。二か月後に南アフリカの喜望峰も制圧し、欧州勢力のアジア方面展開に対して大きな制限をかけることに成功した。

 これが限界と踏んだ帝国上層部は早々に両陣営との対等な講和条約にごぎつけ、組織的な戦闘も含め開戦から八年後――一九四七年、遂に終戦の日を迎えた。

 官民問わず戦争に参加した所謂〝総力戦〟や大量破壊兵器の使用は無論被害を拡大させる要因であったが、西暦一九四〇年代に開発された新兵器〝原子爆弾〟の威力はそれらを遥かに上回る残虐性を持っていた。

 日本だけでなく各大陸に点々と投下されたそれは眩い閃光と共に炸裂した熱線と爆風は人々を骨も残さず焼き尽くした。

 投下後の街の半径数十キロ圏内では黒い雨が降り、それが放射線を含む死の雨であることを民間人はおろか、前線の兵士たちも知らされてはいなかった。

 敵を殺す――。

 その一点において原爆は高く評価された。一瞬にして多くの命を奪い、その後も辛うじて生き残った人々も、心配して街に入った人々も皆放射能の雨で身体は破壊され、次の世代に出る影響に何年も経ってから気付く。

 人間とは予想よりも遥かに残酷な行為ができる生き物であり、それは輝かしい歴史の裏側にある。

 星に刻み付けた人類の栄光と負の歴史。それを忘れぬようにと西暦一九五〇年、改暦式を執り行い、星刻暦一年とされた。これからは星に刻む栄光の歴史を増やそうではないかと志を新たにし、それの影響あってか人々は戦後復興に力を注いだ。彼らは直接の対立ではなく戦後三大陣営の技術競争へと形を変えつつあった。

 資本圏、共産圏、共栄圏――。彼らは三つの旗を掲げるようになった。

 大英帝国を軸として欧米列強、南米とアフリカを統べる<ブリタニア帝国>。

 大日本帝国を中心とした東西アジアを併合せし<東亜連合>。

 ソ連解体後、彼らを継ぐ社会主義国家の連合体として躍進する<プラールヴァル連邦共和国>。

 武器を取らず情報が凶器にも弱点にもなり得る新たな時代へと、人類は一歩ずつ近づいていった……。

 それを民衆が知った頃――星刻暦四九年、ある一人の男が遺した予言が現実のものになろうとしていた。

 ――ノストラダムスの大予言。

 空から恐怖の大魔王が降りてくる、と言われたその予言は一世を風靡した。世界の破滅、人類の滅亡を予言する書物は今までも幾つかはあったが、しかしそれらには具体的な日時などは記載されておらず、加えてあまりにも抽象的すぎたが故に眉唾物として誹られてきた。

 四九年七月……。異変は起きた。まず大地震がプレートの境界に沿って世界各地で発生し、それによる津波の被害は世界のおよそ二割弱を水没させた。続く火山の噴火によって雲は覆われ

 ――ここまでが各国や国際連合の公表する正式な記録である。

 何人が後に<大凶変>と呼ばれる天変地異に巻き込まれ命を落としたのか――それは二〇二二年になっても正確な数はわかってはいないが、およそ人類の半分を失うこととなった。

 全世界が壊滅的――そんな言葉も生温いほどの――被害を受けるも、年末から年始にかけて世界を三分割した大国の宗主たちは続々と行動を開始した。

 実用化まであと一歩の気象兵器や最先端の科学技術を用いて天候の操作や怪我人などの治療にあたった。地上に居住区域のない人々のために秘密裏に開発していた宇宙航行用の居住船を出港させた。

 極秘に開発され、都市伝説や陰謀論の中でしか語られなかった最新技術を用いて、戦争だけではなく災害すらもビジネスや残りの二大国への牽制として利用し尽くしたのだ。

 反重力装置などの重力制御技術の確立と慣性制御の実現が成ったと大々的に報道され、それらの技術は人々の居住と搬送面において大きな成果をあげたのだ。

「人類の輝かしい技術発展で世界を再建に導こう!」

「復興のカギは宇宙技術!」

 団結を知った人々は国籍や宗教、言語、文化――神が「バベルの塔」建設の罰として撹乱させたあらゆる〝違い〟を再統合していく風潮、即ちグローバリズムへと社会は変容していくかのように見えた。

 しかし光ある所には必ず影はある。昼を生み出したとて夜を消すことは叶わない。

 五年後の五四年には軍事転用の情報がブリタニア政府から漏洩し、人々はまずブリタニア――すなわち欧米連合への懐疑感を露わにした。これには主に領土保全を確約し、結果的に反故にされた中東地域からの反発があった。とりわけ国連直轄地のエルサレム周辺では絶えず暴動が起こっていた……。

「また大英帝国が仕組むのか!」

「やっと掴んだ平和だろう! 新時代――宇宙の開拓者となるべき我々が軍人になったり、殺戮兵器を作らなければならないなど認められない!」

 そうした民衆の声は王室を大いに焦らせた。不覚と後れをとったと思ったブリタニア帝国であったが、同様の現象が残りの二カ国にも起こった。

 民衆の混乱の矛先を変えるため、各国に再び緊張状態が訪れることとなる。軍拡競争が頂点に達した六年後の六〇年に彼らは南極圏に建設した都市「クロセル」で軍拡禁止条約を結び、表面上は事なきを得た。

 その後九年間は「ソロモン」と呼ばれるクロセルをはじめとする七二群の都市連合を世界各地――無人島や海の埋め立て等で建設し、クロセルと同じく完全な中立都市として経済や政治的なしがらみから解放されたかのように思えた。

 人類は条約締結から六九年まで、「漣の九年間」という〝言葉だけの〟平和の時を過ごすこととなった。自由で中立の都市が完成に向かっているからと言って、決して無条件に安心し喜ぶことはできなかったのだ。凶悪、あるいは大規模な犯罪事件の首謀者がそこへ亡命するという事件も発生した。都市内に治安維持組織はあったものの、それでは対処しきれずに、やがて都市は都市国家へと変わり、自治領となる。

 都市国家群ができれば既得権益や保身、自治権維持のために都市国家同士の関係が密接になっていくのは世の常だ。彼らが特化したのは主に海洋資源の輸出であった。経済的に大国を支える存在となり、三大国にそれぞれメリットを感じさせる商売であれば生存は見込めたのだ。

 ――〝ドラコナイト〟と呼ばれる鉱物が産出したのは、都市国家群にとってとても丁度いい頃合いだった。

 特殊な鉱物であり、地層ごとに取れる種類は異なるとの報告が専門家の意見として出されていたが、調査を重ねて行って共通した結果は「特殊な未知の粒子が付着、あるいは鉱物の中に存在している」というもの。

 三大国はこれに興味を示し、まずは海洋の〝ドラコナイト〟を徹底的に買収した。自分たちが少量を買っても残りの二カ国は目をつけているだろう――という政治的な理由であった。未知の粒子と発表されたため対立する国々を出し抜く可能性が秘められていると踏んだからだ。

 漣の九年間において水面下では潮の流れが変わるというのは珍しいことではなかった。「東亜連合が……」、「ブリタニアが……」、「連邦が……」と大国から漏れ出した軍事情報がメディアを通じて民衆に知らされることも、彼らにとってはもう慣れの対象となってしまった。

 熾烈な情報戦が繰り広げられ、二十世紀後半よりも諜報部員たちは熱心に、慎重に、大量に仕事をこなし続けていたのだ。

 冷たい戦争、冷戦――カインとアベルの頃より絶えぬ「争い」は遂に過酷な情報戦争の時代へと完全に移行したのだった。誰よりも国や組織の上層部にいる者たちがこの事実を叩きつけられた。

 国あっての民ではなく、民あっての国。いかなる王であろうと、人がいないのであれば治める民もなく、王の肩書は自負に成り下がる。

 これならばいっそ再び戦火を交える戦争に――と思う政治家や資産家、商人は確かにいた。しかし民主的な側面を前面に打ち出し三つの国々までまとめあげた三陣営は、今更国民の声を無碍にしてまで旧時代の戦場に戻ることはできなかった。政治的、経済的に民衆を蔑ろにした者たちは革命という形で一掃されるのを歴史から学んだ。あるいはソ連邦から共和国への移行というニュースで彼らは知った。

 そんな各国上層部に入り込んできたニュースにとても興味深いものがあった。

「ナチス残党が南米とアフリカにて潜伏中」

 提供された情報として送られてきたのはあるジャーナリストからの写真と文書だった。長年ナチ残党の都市伝説を信じて調査を続けてきて、ようやく見つけたとのことだった。当然秘密を知ってしまったとなれば、その残党は秘密を探ってきた記者に容赦などしない。命の危険を感じたその記者は急いで三大国に情報を同時に提供したのだ。

 この知らせを喜んだのは再武装の口実を得た上層部だけでなかった。武器の製造や密売などを行う武器商人たちにもこれほど美味しい話はなく、積極的に三大国に武器の購入を進めた。都市国家群連合「ソロモン」に所属する七二の自治領主たちにも商談を持ち掛けたともいう。

 だが実際にその残党を討つ、という具体的な作戦案の提出は三カ国ともなされなかった。そもそも当該地域を治めるブリタニアの帝国議会では出兵自体に否定的な者たちが多かった。今は泳がせておくべきだ……と。結果、公爵のウィンドセアリス卿のみが討伐案に賛同したが多数決で否決されたのだった。

 こうしてナチ残党の一時的な静観が決定された――。

 争いはなくならない。

 個人間であればそれは互いの考え方の齟齬で生じる。組織間であれば考え方だけでなく、利潤追求や保身のために争うこともある。

 民衆は哀れみ、嘆き悲しんだが、戦争はビジネスである――それが彼らの直面する人類の性という歴史の積み重ねだった。

 ……六九年までの漣の九年間では重力核融合エンジンを搭載した宇宙戦闘艦群の開発などは禁止されており、軍艦の増加は見受けられなかったが、白兵戦部隊の装備や無人攻撃機の増産は行われた。大量破壊兵器の搭載が確認されていなければ条約違反とされることは無かった。戦争をやるにしても規模は小さくお利口にやれ――クロセル条約の抜け目をわざと作ったであろう上層部の人間たちに対して、民衆はそろそろ我慢の限界が近いことを自覚し始めていた。

 漣は高波を経て、やがて津波へと豹変する。形式的で書面や言葉としての平和は虚しく終わりをつげ、七二年現在までの三年間は国際法に則った戦争が局所的に起こるようになった。

 日中戦争の時のような事故が原因で起きた地上戦もあれば、航空編隊による領空侵犯による制空権争い……。

 苛烈な情報戦だけでなく、前時代の愚行と罵ってきた戦争のある時代に遂に彼らは突入してしまったのだと自覚する者は多かった。

 大凶変による人口の激減は産業や軍事、社会の機械化をもたらした。その過程で無人機の開発も盛んにおこなわれた結果、徴兵される人間が減少しているのだ。だが戦争をしている以上民間人は真っ先に死ぬ。戦うことを完全に放棄した人々は抵抗することなく戦火に呑まれると知りながら。

 ……大都市には防衛戦力が割かれており自動追尾型の迎撃兵器も置かれてはいるが、地方になればそうはいかない。

 国のすることは人々の要求に応えることなく、最早三国上層部による熾烈な勢力争いでしかなかった。やがて人民は〝強力な指導者〟を求めるようになった。腐敗し、庶民を見ようとしない権力者に牙を向く者が必要になってしまった。これを嘆かわしく思うのは歴史に学んだ者のみだった。

 黒ノ宮源焉が「大蛇」の名を襲名し、大日本帝国宰相として<東亜連合>の国民に対して呼びかけたのは、七〇年のことだった。

「私に諸君らの力を貸していただきたい! 第二次大戦――大東亜戦争の時も、天皇陛下は戦争をお望みになられなかった。今も平和で豊かな時代を実現するため国事をおこなってくださっている。我々もまた平和を勝ち取るために、早く戦いを終わらせるためにありとあらゆる形で抗おう!」

 和平交渉へと持ち込む姿勢を見せる大蛇や国民に対して裏があると深読みしたブリタニアと共和国は同盟を組んで連合に攻め入ろうとしたが、ここでブリタニアは戦線から離脱、早期に連合との停戦条約を結んだ。

 ――ナチ残党勢力に動きアリ、という報が舞い込んできたのだ。泳がせていた彼らを制御するのはブリタニア政府の義務であった。

 そこで以前から少数精鋭の軍隊と名高い大日本帝国に英国からナチス残党討伐作戦への参加要請がなされた。

「西暦一九一九年に当時の国際連盟で大日本帝国が提唱した人種差別撤廃や第二次大戦時での特殊部隊による第三帝国蹂躙などの功績をまた一つ増やせれば、大日本帝国の優位性は保たれ、また一歩世界の宗主に近づける」

 という言葉に惑わされた帝国政府は宰相である大蛇の許可を得て、イギリス政府に了解の意思を伝えた。

 かくして第二次日英同盟は結成され、世界を三分する国のうち二カ国が同盟を結んだも同然となった。圧倒的な物量を誇る共和国と進歩した技術のブリタニアと少数精鋭の連合が敵対していく形へと戦況は変化していく。その記念すべき証として大日本帝国元帥黒ノ宮大蛇の副官となる女性将校が特使として派遣されるとの連絡が一週間前に届いた。

 時は星刻暦七二年、四月一日のことであった……。

 主人公の行動理由を描いたところですぐ物語に入った方がスピードはありそうなんですがね……

 混乱するところがあったらここに戻ってこれるように概略を乗せておこうという感じですが、大戦中に関しては戦局が途中から変わるだけなのであまり分量はいれてません。しかし戦後史は史実と大きく文明レベルすら異なるので割と重めに書きました。


・第二次大戦で日本が一撃講和モドキでなんとか和平に。超ギリギリ。

・世界が三分割される。ソビエトは組織体系は残り、名称や政治家が変わる。

・戦後五〇年を迎えた後大災害が起こる。人類半数以上が死滅。

・復興作業と称して各国の技術発展の宣伝が行われる。

・三大国の技術の軍事転用が問題となり、反感を逸らすため三大国が緊張状態に。

・軍拡禁止条約を結ぶも、都市国家群の海洋からの「ドラコナイト」の採掘とナチ残党の発見で再武装の口実ができる。

・事故で起きた地上戦や遭遇戦などの戦闘行為が星刻暦六九年(西暦二〇一九年)から行われるようになる。

・ブリタニアはナチ残党の行動活発化に伴う三大国間の戦闘からの離脱と第二次日英同盟の締結。


 出来事を考えていくとこれくらいなのでやっぱりウェイトはこちらにかが向けていて正解でした。

 後々の話でわからないところがあればまずはこの後書きを見ていただいて、詳しいところは本文で確認していただきたく書き残しました。どうぞご活用ください。

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[気になる点] 何言ってるか分からないし、架空の歴史の説明見たところで全く分からない固有名詞出てきてたり、それが1000文字以上続くの読む気失せます。星刻暦って結局なんで西暦から変えたんですか?それで…
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