いつもとちがう
「やべえ、寝坊だ、寝坊!!!」
デート当日。
俺は美琴との待ち合わせまで全力を決めていた。
昨日の夜、デート用の服を結局、ああでもないこうでもないとズルズル選び続けてしまった。
結局、最後は無難なシャツとパンツに落ち着いたが、そこまでたどり着くのに何時間かかったのだろう。
最後の方は眠すぎてよく覚えていなかった。
おかげで、おしゃれなセットも何もできないまま急いで家を飛び出した。
まあ、髪のセットとかよくわからないんだけどね!!
というか、美琴も美琴だ。
昨日の夜、突然デートに誘ってきたかとも思えば、細かい話はほとんど決めていなかった。
美琴 : それじゃあ、また明日ね
とだけ帰ってきていたので、俺はてっきり、今日も朝から美琴が家までやって来るものだと勘違いしてしまった。
しかし、目が覚めてみると美琴から待ち合わせ時間と待ち合わせ場所が書かれたメッセージが届いていた。
まったく、この辺も彼女は気まぐれだ。
まあ、確認しなかった俺も悪いんだけどさ。
……思えば、心の中でどこか、今日も美琴が迎えに来てくれるのだろうと期待してしまっていた自分がいた。
この一週間、毎朝美琴は家まで来てくれた。
学校に行く前のささやかなひととき。
そんな時間が俺にとっては、気が付けば日常になりかけていたのだ。
(そういえば、今日は俺、縛られていないんだよな)
焦って家を出てきたから、その違和感には気づいていなかったが今日の俺はフリーだ。
亀甲縛りされていない、ありのままの姿で服を着ている。
それが普通のはずなのに、意識し始めると急に体がスースーし始めた。
(おかしい、これでいいはずなのに……!!)
慣れというのは怖い。
初めはあんなに抵抗していたのに、一週間も続けてみると逆にこの体の感覚の方が違和感と感じるようになってしまったわけだ。
って、そんなことをしみじみ考えている暇はない!!!
とにかく走れ!
初デートで遅刻なんて許されないのだ!!
そうして、かつてない全力疾走を繰り広げ、俺は何とか美琴との待ち合わせ場所まで到着した。
美琴は俺がついたころにはもうすでに、待ち合わせ場所の駅前で待っていた。
「はあ、はあ、お待たせ……」
「ふふっ、待ち合わせ時間ギリギリだね」
「美琴がもう少し早く連絡をくれ、れ……ば」
なんて言おうとしていたんだっけ。
美琴に文句のひとつでも言っておこうと思ったんだ。
「なんで今日起こしに来てくれなかったんだ」って。
でも、息を整えて顔を上げた瞬間、そんな言葉はどこか彼方へと飛んでいってしまった。
視界いっぱいに飛び込んできた美琴。
いつも見ている紺の制服とは全く違う、白いワンピースを彼女は身にまとっていた。
ツヤツヤに整えられた髪からは風に乗って爽やかないい匂いが漂う。
前髪にちょこんと付けられた、ひまわりの髪留めが彼女の女の子らしさを強調してくれていた。
一言で言ってしまおう。
どうしようもなく、かわいい。
これまでの文句なんてどうでも良くなってしまうくらいに。
俺は彼女の姿に見とれてしまった。
「どうしたの? そんなに見つめて」
「いや……」
「もしかして、見とれちゃった」
「……うん」
気の利いた言葉は思いつきそうになかった。
多分俺はかなりアホな顔をしてるだろう。
目が美琴を捕まえて決して離そうとしなかった。
「ふふっ、それなら良かった」
てっきり馬鹿にでもされるのかと思ったが、彼女はただ微笑んで受け止めてくれた。
白い肌にほんのり赤めく頬に、また心が揺らされた。
「ねえ、あそこにいる娘すごい可愛くない?」
「ホントだ……きれい。モデルさんかな?」
「肌真っ白でうらやましい〜〜!!」
道行く人達が美琴に目を止めては、彼女の姿に惹かれていた。
美琴の可愛さに心惹かれているのは俺だけではないのだ。
「さあ、行きましょう!」
そう言って美琴は手を差し出す。
白いワンピースから覗く絹のような細やかな手。
ほんとに綺麗だ。
俺は差し出された手のひらを、恐る恐る手に取って、離れないようにしっかりと握った。
もう何度も彼女の手を握っているはずなのに、緊張が留めるところを知らなかった。
……これが、デート効果というやつなのか!!!
「なんだよ、彼氏いるのかよ!!」
「あんな可愛い子と付き合えるとかうらやましいーー!!」
「諦めな。彼女さんもなんだか楽しそうだし、お前の入り込んでいく隙なんてねえよ」
様々な声を背中で聞きながら、ついに俺たちのデートが始まった。
麦わら帽子でも被らせてあげたい!
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