デートに行きましょう
美琴 : だから、近藤先生も絶対に束縛好きだと思うの
彰人 : これ以上被害者を増やすんじゃない
ーーここまで既読
美琴 : 彰人、明日って空いてる?
彰人 : 明日なら1日暇だけど
美琴 : そう、
美琴 : それなら明日、デートしましょう
ーー
「ふえっ?!」
美琴から来た突然のメッセージに、俺は思わず変な声を出してしまった。
時刻はもうすでに22時。
「ちょっと彰人、こんな時間に大声出さないで」
「あ、ごめん」
母さんの苦情が聞えてくる。
だけど、こんな時間に不意打ちしてくる美琴が悪いんだ。
突然やって来た美琴からのデートのお誘い。
正直、付き合ってるんだしデートくらいして当たり前ではあるんだが。
やっぱり、改めてデートと言われると急に緊張してきてしまう。
美琴と付き合い始めてからもうすぐ一週間。
学校がある日は、美琴は毎朝俺の家までやってきては眠っている俺に自慢の”束縛”を披露してくれた。
そして宣言通り、毎朝お味噌汁を作り続けてくれている。
4人で食卓を囲むということもかなり慣れてきた。
朝の日常もこの一週間でかなり変化したものだ。
毎日登下校も一緒に居るせいか、美琴と一緒に居る時間をデートだとはあまり思っていなかった。
だから、改めて「デートに行こう」なんて誘いを受けると、急に意識し始めてしまった。
美琴 : 私とデート。嫌?
彰人 : 嫌じゃない。行く!
かくして、美琴とのデートが決定した。
思い返してみれば、1週間がたったとは言え美琴と会っていたのは学校のある日だけだった。
明日は休日。
学校の用事なしで美琴と会うというのはこれが初めてだ。
学校に居る間は、クラスが違うし、周りの生徒の目もあるからずっと一緒に居るということはできない。
だけど、明日は正真正銘、美琴と会うだけに時間を使う。
その時間を考えると胸が高鳴っているのを自分でも感じた。
「ええっと、デート用の服なんて持っていたっけ?」
俺は急いでクローゼットをあけて、ファッションショーを始める。
これまで、彼女がいた経験なんてない。
女の子とデートするときなんて、どんな服を着ればいいのか意識したことなかった。
「うーん。このパーカーはずっと来てたものだからよれっているし、Tシャツ一枚で行くのもさすがになあ……制服で行けたら楽なんだろうけど、さすがにダサいよなあ……」
ああでもない、こうでもないとクローゼットから服を引き出しては放り投げていく。
美琴のやつ、もう少し早く連絡をくれれば、まだ服を買いに行くことも出来たのに。
この一週間付き合ってみてわかったのだが、美琴はかなりの気分屋だ。
それも本気で思い立ったらすぐに行動してしまうレベルの。
俺への告白も、早朝に俺の家に駆けこんできたのも、話を聞いてみると気分で動いてしまったところが大きいらしい。
それだけ、俺への思いがあったということで嬉しいこともあるが、たまにこういう風に振り回されることだってある。
きっと、これから先も俺は彼女に振り回されていくのだろう。
「まったく……束縛だけじゃなくて、振り回しすらするのかよ」
美琴の気分に振り回されて、すっかり右往左往させられている俺。
今、鏡の前で焦って服を探している姿を美琴が見たら、きっと楽しそうに笑うんだろうな。
ご機嫌なやつだ。
「ふふっ」
気が付けば、俺は鼻歌を歌っていた。
明日、どんな服を着て美琴と会おう。
そんなことを考えていたら、部屋中の服を漁っている時間も不思議と楽しいもののように思えてきてしまった。
俺はもうとっくに美琴に心を掴まされてしまっているんだろうな。
……もう少しだけ、かっこいい服を探してみようか。
「ちょっと、彰人、こんな時間にドタバタして何しているの?!」
「なっ、かあさん!!」
「……あら~??」
母さんは部屋のドアを開け放つなり、部屋の中の様子を見てニヤニヤし始めた。
部屋に広がっている無数の服の数々。
その中には、いくつかセットでコーディネートしておいたやつも置かれている。
血の気が引く俺の表情を見て、母さんのニヤつきは最高潮まで達していた。
「あら、楽しい時間にごめんなさいね♪」
「うるせえ!!」
「ふふふ、お邪魔しました~」
ああ、最悪だ。
いくつか候補も決めたし、今日は早めに寝よう。
「あ、今着ている服はさすがにダサいから、やめた方がいいと思うわよ」
「うるせえ!!!!」
わざわざ扉をまたあけてちょっかいを出して来る母。
俺は、すぐに扉を閉めて母さんを追い出した。
……もうちょっとだけ、服選んでから寝るとするか。
ソワソワし始めた時点でデートは始まっている?
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