好きなのは本当です②
美琴は言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。
「……私、昔から何かを縛るみたいなそういう行為に純粋な興味を持っていたんです。自分でもよくわからないけど、縄なんかを見ると嬉しくなっちゃったりして」
「最初は人形なんかを縛ってみたりしてひそかに楽しんでいたのだけど、だんだんそれだけじゃ満足できないようになっていって……でも、そんなの他の人に押し付けちゃいけないと思ってずっと我慢していたの」
美琴は途切れ途切れになりながら、自分のことを説明し始めてくれた。
彼女のファンが聞けば飛んで驚くような趣向の暴露だ。
彼女の今後の印象にも関りかねない重大な秘密だ。
「でも、抑え込もうと思えば思うほど興味も強くなってしまって、いつしか周りに居る人の体を観察するようになった。『この人の体つきは縄がはちきれてしまいそう』とか、『これだけ身長差があると結ぶのが大変そう』とかって」
「それで、最終的に俺を見つけたってわけか」
美琴は顔を赤くしてうなずく。
正直、かなり恥ずかしさは限界に来ているのだろう。
後ろめたさというのもあるのかもしれない。
「彰人を初めて見た時は運命だと思ったわ。身長、体つき、全てが私にとっての理想の体型だった。一目見て、この人しかいないって確信した」
「彰人を見つけてしまってからは、もうずっと彰人のことしか目に入らなくなって。彰人とすれ違うたびに目で追ってしまうようになった。気が付けば、学校の中から彰人を探すようになった」
「……それで、彰人のことしか考えられなくてどうしようもなくなって、彰人に告白したの」
美琴はスカートをいじりながらずっと話を続けてくれた。
彼女が握っていたスカートはだいぶしわができてしまっている。
誰にでも優しい優等生。
どんな時でも表情を崩さない、透明感あるクールビューティ。
そんなのが、彼女によく使われる代名詞だ。
でも、美琴はそんな涼しげな表情の裏側でどうしようもない衝動と戦っていたようだ。
……やっぱりここまで聞いても、彼女のことを嫌いにはならなかった。
多分、俺だって美琴のことを批判する資格はない。
学校一の美少女と名高い美琴から告白されて、舞い上がって二つ返事でOKを出したのは俺だ。
「俺は美琴のこと嫌いにならないよ」
「本当?」
「ああ。俺を縛っているのも苦痛を与えて苦しませようとしているわけじゃないっているのは、なんとなく伝わるから」
「彰人……」
なんて、亀甲縛りしている変態が格好つけてみても全て台無しなわけだが。
しかし、美琴はほっとしたようにまた笑ってくれた。
彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
これも全て演技だと疑うことはできるんだろうが、俺はそんなことはしたくなかった。
「ありがとう」
美琴は涙を拭いて震える声で礼を言う。
まったく、彼女のことをクールビューティなんて言いだしたのはどこの誰なんだろう。
そいつらに、この姿の見ことを見せてやりたい。
お前らのあがめる美琴は、こんなに感情豊かな美少女ですよって。
今なら、何のためらいもなく「美琴は俺の彼女だ」と宣言できそうだ。
いっそのこと、後ろの野次馬たちに宣言してこようか……
「後ろの観客たちいなくなっちゃったね」
「本当だ」
しかし、気が付いた時には後ろから見ていた野次馬たちはどこかへ退散していた。
誰かが気を付かせてくれたのか。
それとも、イチャイチャしていた俺たちに耐えられなくなったのか。
どちらにせよ、こっちとしては嬉しい展開だ。
「ふふっ」
声を上ずらせて楽しそうに微笑む美琴。
「どうしたんだよ?」
「……やっと二人きりになれたね」
「お、おう」
昼休みもあと少し。
今度は俺が美琴の顔を直視できなさそうだ。
縛りたいほど好きになっちゃいました。
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