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眺めていたのはあなただけではないんですよ


「あ、彰人くんこっち!」



放課後、俺たちは門の前で待ち合わせをした。

正直、秀寺院さんに告白されてから、午後の授業は全く手に付かなかった。


秀寺院さんの彼氏になったということが、信じられなくてずっと上の空になったまま午後の授業は終わってしまった。

途中何度か先生にあてられていたらしいが、うまく答えられなかったのは言うまでもないことだ。


ホームルームが終わってすぐに門まで駆けつけたつもりだったのだが、秀寺院さんはそんな俺よりも早くから門に到着していた。



「ごめん秀寺院さん、待たせちゃった?」


「ううん。私が早く着いちゃっただけだから。さあ、行きましょう」



彼女はにこりと笑うと、そのまま歩き出す。

秀寺院さんと付き合ってからの初めてのイベント「一緒に下校する帰り道」が今から始まるのだ。



「ねえ。あそこに歩いているのって美琴先輩じゃない?」


「本当だ! いつ見てもきれい……って、一緒に歩いている男の人誰?」


「確か、同じ二年生の先輩じゃなかったっけ?」


「え?! じゃあ、美琴先輩、あの人と付き合っているってこと!!」



後ろから後輩らしい女の子たちの声が聞こえる。

彼女たちだけじゃない。

俺たちの姿を見ている学校の人達が徐々に、俺たちを見てざわつき始めた。


俺を見て、というよりかは秀寺院さんのことを見てざわついているというのが正しいんだろうけど。



「……なんだか、騒がしくなっちゃったな」


「別に言わせておけばいいでしょう。誰に何と言われたって、私たちが付き合い始めたのは事実なんだから」



秀寺院さんは涼しげな顔でそう言いきった。

俺に告白した時もそうだが、彼女は俺以上に肝が据わっている。

自分がそう思ったら、周りのことは気にしないといって芯の強さが光っていた。



「明日はみんなから質問攻めだろうな……」


「そうなったら正直に言えばいいだけよ」


「秀寺院さんはそれで迷惑になったりしない?」


「するわけないでしょ!」



秀寺院さんはなんだか楽しそうだった。

明日からみんなにこの関係をしられることを望んでいるようにも見えた。


束縛しがちといっていたのって、こういうことなのだろうか。



「それから彰人君」


「なに?」


「せっかく付き合っているんだから、私のことは秀寺院さんじゃなくて『美琴』って呼んで欲しいな」


「お、おう。わかった、しゅう……美琴」


「……よろしい」



秀寺院さん……じゃなくて美琴は満足げにうなずいてまた歩き出す。


こうやって名前で呼んでみると、ようやく美琴と付き合い始めたのだという実感が持ててきた。

ずっと遠目でしか見ることができなかった学校一の美少女と、今はこうして隣同士で歩いている。


油断していると、自然と頬が上がってしまいそうだ。



「ニヤニヤしているよ、彰人?」


「え? 本当に?」


「うん。だらしない顔している」



俺は思わず頬を手で隠す。

隠しているつもりだったが、美琴には簡単にバレバレだったらしい。


美琴はそんな俺を見て「かわいい」といって笑ってくれる。



「こうやって一緒に帰っていると、本当に美琴と付き合い始めたんだなって実感してさ。つい嬉しくなっちゃった」


「本当?」


「本当だよ」


「……それだったら、もっと実感させてあげる」



そう言うと、美琴は不意に俺の手を握る。

俺と彼女の間で暇をしていた手が、急に二人をつなぐ架け橋となった。


突然伝わってきた美琴の体温が伝わり、俺の体温は急上昇してくる。



「こんなこと、付き合っていないとできないね」



ドギマギしてしまう俺を見て、美琴は楽しそうに笑う。

学校では見せない、彼女のいたずら好きな笑顔。


「クールビューティ」なんて彼女のことを称する人もいるが、この姿を見たらきっとその印象も変わるのだろう。

付き合っている時にしか見れない、秘密の表情だ。



「彰人の腕ってたくましいんだね」


「そうか?」



美琴が体を寄せて、俺の腕に身を寄せる。

そのせいでまた心臓の鼓動が爆速する。


自分の腕なんて、確かに周りの男子と比べたら多少は筋肉があるかもしれないが、特に褒められたことなんてなかった。

だから、改めて美琴に言われても不思議な感覚になってしまった。



「うん。私の思っていた通り、好みの腕」



頬をちょっぴり赤らめて俺の顔を覗きこんでくる美琴。

遠くで見ていても緊張してしまうような彼女の顔が、すぐ目の前にまでやって来る。


今の俺にとってはそれは特大の爆弾みたいな威力を持っていた。



「もう、そんなに驚かないでよ」


「いや、ごめん。その、美琴が可愛いから」


「ふふ、何それ」



美琴はまんざらでもない様子だ。

彼女にとっては、かわいいなんて台詞は聞きすぎているのかもしれない。

でも、かわいいことは事実なのだから仕方ない。



「美琴は自覚ないかもしれないけどさ、俺なんかは美琴の姿を遠くから眺めることくらいしかできなかったからさ。こんな近くで話せるようになるなんて思ってなかったんだよ」


「彰人も、私のこと見ていてくれたの?」


「そりゃ、美琴はかわいいからな」


「ふふ、そっか。それじゃあ、お揃いだね」


「え?」



美琴は顔を近づけたまま、その口元をそっとおれの耳に寄せる。

告白をしてくれたよりも、さらに秘密の内容を話すように彼女はその先をそっとつぶやいた。



「私も、ずっと彰人のこと見ていたんだよ?」



俺の思考が止まる。

見ていた?

美琴が俺のことを、ずっと?



「それ、本当?」


「本当よ。だから告白した」



美琴はまた頬を赤くする。

普段は色白な彼女は、恥ずかしくなると案外すぐに肌に出るらしい。


でも、きっと彼女の目から見た俺はもっと真っ赤に顔が染まっていることなんだろう。



「さあ、帰りましょう♪」


「お、おう」



楽しそうな彼女に手を引かれながら、俺たちは帰路につく。

正直、この後の記憶はフワフワしていてよく覚えていない。


ただ少しずつ、手から伝わる美琴の体温が上昇していることだけは確かに俺にも伝わっていた。


この瞬間から、俺の心は完全に美琴に掴まれてしまった。



俺が美琴の束縛好きを知ることになるのは、次の日の朝の出来事だった。

お読みいただきありがとうございます!


束縛するほどイチャイチャしたい。


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