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一緒に来た方が楽しいでしょ?

「見て、彰人!! これすっごいの!」


「お、おう」


「これ天然素材でできているから、頑丈さには負けるけどその分摩擦には強いんだって!!」



目を輝かさながら、興奮気味に手に持ったロープの性能を説明してくれる美琴。

さっきまで俺がときめいていた輝きはどこへ行ったのやら。

美琴はいつも通りの変態っぷりを発揮させながら、目の前に大量に並べられているロープをくまなく見定めていた。


鼻息荒くロープの性能を説明してくれる美少女の姿を、さっきから店員さんもチラチラと気にしながら覗いてくる。


休日のこんな昼間からカップルでホームセンターにやって来る高校生なんて、店員さんからみても変におもうだろう。

しかも、見ているのがインテリアのコーナーとかではなく、ロープだとは。



美琴が「どうしても買い物したいものがある」と言うから何かと思っていたが、まさかこういうことだったか。


彼女が急に日曜大工にでも目覚めたという訳でもないだろうし、この縄はきっと……俺を縛るための彼女の仕事道具ということだろう。


これじゃあ、デートと言うよりかは彼女の物資調達という感じだな。

なんというか、やっぱり美琴は平常運転だ。



「どうしたの彰人? 疲れた顔をして」


「いや、まさか休日の昼間からこんなロープに囲まれるとは思っていなかったからさ」


「楽しくないの?」


「俺には、まだこの楽しさはわからないよ」



きょとんとした顔を浮かべる美琴。

俺とは反対に、彼女は今も目を輝かせながら目の前に並んでいるロープたちを楽しそうに手に取っている。


麻縄から工事用のフックがついたもの、一見俺たちには縁もなさそうなロープで美琴は1つ1つ手に手ってみては、その感触を吟味していた。

俺も彼女を真似して触ってみるが、そこまで大きな差を感じることはできない。


ロープ検定なるものがあったら、きっと彼女はすぐにでも一級をとれるのだろう。



「ここに試着室でもあれば、すぐに彰人で試すことができるんだけどな」


「そんなこと許されるわけないだろ!!」


「でも、使用感って大事よ?」


「絶対嫌だね!!」



「そう……」



縄を持って寂しそうにうつむく美琴。


やばい。

絶対なんて言ったのは、さすがに言い過ぎたか?



「い、いや……絶対嫌っていうのは、言葉の綾だけど、さすがにここじゃダメと言うか……」


「本当にこんなところでするわけないでしょ」


「へ?」



俺の表情は二転三転と変わっていく。

美琴はそんな俺のドギマギする様子を見て楽しんでいる様子だった。



「まったく、彰人。こんなところまで来て、期待してたの?」


「お前はなあ……」



美琴の考えていることは、相変わらず謎だ。

俺は基本的に彼女に振り回されてばっかりだ。


それでも、彼女が何と言ってこようとも動じなくなって来たのは成長と言ってもいいだろう。

俺も少しは美琴の事がわかって来た。

そう、信じたい。



「でも、ロープを買うくらいだったら、わざわざ俺と一緒じゃなくてもよかったんじゃないのか?」


「こんなところ、1人で来るなんて恥ずかしいじゃない」



あ、そこは恥ずかしいんだ。

けど、その手に持っているロープは別に恥ずかしくないんだな。



「それに」


「それに?」


「……せっかくるんだから、彰人と一緒に来た方が楽しいじゃない」


「お、おう」



不意打ちのごとき一撃。

こういう言葉を放つとき、美琴は決まって頬を少しだけピンクに染める。

その表情で、俺はそれまで考えていたことが全てどこかへ吹き飛ばされてしまうのだ。


物資調達なんて言ったことは撤回だ。

これは、俺と美琴の紛れもない初デートだ。


真っ白になってしまった頭をフル回転させながら、何とか俺は話題をもとに戻す。



「でも、こういうロープを買うのなら、もっと専門のところとかで買った方がいいんじゃないのか?」


「専門のお店って……彰人もエッチなこと考えるのね」


「な、えっちょ、違うぞ!! 専門ッていうのは……通販みたいな」


「それ、結局エッチなお店じゃない」



墓穴を掘った。

人を縛るような縄を売っているお店なんて、俺らじゃまだ入れない店ばかりだ。

美琴ほどなら、それくらいも知っているのだろうし、まさか俺の方から自爆してしまうとは。



「ふーん、彰人もなんだかんだ興味あるんだね、よかった」


「もう、なんでもいいよ」



別に美琴をからかおうとしていたわけじゃないけど、やっぱり彼女の前だとからかわれるのは俺の方だ。



「通販なんかで買わなくても、ここで必要なものは手に入るから十分よ」


「そうか」


「それに、通販なんかで買って、お父様たちに見られたらそっちの方がめんどくさいわよ」


「あ、それは確かに」



そうだ、美琴の家は確かこのあたりでも結構いいところの家柄なんだよな。

美琴を家まで送ることがあるが、俺の家の倍くらいはありそうな敷地に豪邸が立っている。

名家と言った感じだ。


いつも家の外まで見送るだけで、彼女の両親とは合ったことがない。

けど、きっと厳しい人なんじゃないかと思う。


その反動で美琴がこんな風になってしまったとしたら……


なんとなく想像ができてしまうのが恐ろしいな。



「どうしたの? 難しい顔をして」


「あー、いや。美琴のお父さんたちってどんな人なのかなって考えていた」


「確かに、彰人はまだ会ったことがなかったわね」



美琴はしばらく何かを考えこんだ後、ふと思いついたように俺の顔を見つめる。

こういう時は、たいていぶっ飛んだ提案が飛んでくる。



「それだったら会ってみる?」


「え?」


「お父さまに」


「いつ?」


「今から」



「……ふぇ?!?!」




うんうん、それがいい。と何度もうなずく美琴。


事態は思わぬ展開へと急発進し始めた。

お読みいただきありがとうございます!


どんなところだって、一緒なら楽しいもの。

次回はドキドキおうち訪問

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