深夜の小説一本勝負
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即興小説トレーニング
を使って、制限時間30分、お題:男同士の小説トレーニング で書いたものです。
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ラスト一行を加筆しました。
「……ヒマだな」
「……そうだな」
おれがつぶやいた言葉に、同じ宿直当番のヨアヒムが反応した。
夜勤、しかも内勤。
楽と言われればそのとおりなんだが、寝ることもできない以上、どうしたって手持ち無沙汰になる。
「おまえが持ってきた小説も、あらかた読んじまったしなあ……」
ヨアヒムは新ジャンルとして売り出している軽小説の熱烈な支持者で、詰め所にコレクションの一部を『移植』している。
おかげさまで警ら隊七班は、他のどのチームよりも昨今の文芸に詳しい脳筋だ。
「じゃあ……書くか」
長椅子の背もたれによしかかって腕を組んで伸びをする、というなんとも奇妙な姿勢で、ヨアヒムが言った。
「日報なら(適当に)書いたぞ」
「違う……小説だ」
返ってきた言葉に、おれはまったくなにを言われたかわからなくてヨアヒムの顔をじっと見た。
やつも真顔でじっと見返してきた。
「小説を書こう」
「なんて?」
「だから、小説を書くんだ」
「は?」
「ここには読む小説がもうない、おれたちで書こう」
こいつやっぱり変人だったかー、そうかー。
「ここに原稿用紙がある」
「なんで⁉」
確かに罫線が入っている紙を、どこからか取り出してヨアヒムは俺に差し出してきた。
「さあ、書こう」
「いやなんで⁉」
とっさに受け取ってしまった原稿用紙は、若干よれていてほの温かった。
「……おまえ、これどこに入れて持ってたん?」
「男の嗜みだろう、なにを訊くんだ」
いかにも嫌そうにヨアヒムは眉をひそめた。
いや、そんな懐紙じゃあるまいし……。
「では、お題は『男同士の小説トレーニング』だ。
今から三十分だぞ。
文字数多いほうが明日の晩飯おごりな」
もちろんおれが負けた。