わたしはラーラです。-ICH BIN LARA.-
「ウチに来ないかい、ラーラちゃん」
真っ赤なかみのすてきなお兄さん。
ひざをおって目を合わせてくれる。
あそびにくるときはいつだって、手にたくさんのおみやげを持ってきてくれる人。
お義兄さんはいつも申し訳なさそうにするけれど、赤毛のお兄さんがきてくれるのは、わたしたち姉妹にとってはうれしいことだった。
いわれたことばのいみがわからなかった。
あそびにおいでということなのかしら。
つかまり立ちを始めったていうお子さんに会えるかな。
赤ちゃん、だっこしてみたい。
「赤ちゃん、だっこさせてくれますか」
「もちろん、君さえよければね」
お義兄さんがあわてていう。
「遊びに行くんじゃないんだよ、ラーラ」
首をかしげてお義兄さんを見ると、目をそらされてしまった。
大姉さんが言った。
「ラーラ、あなた、シャファトの御家にお仕えする気持ちはある?」
それってどういうことかしら。
お義兄さんと大姉さんが、けっこんして二回夏が来た。
けっこん式にお義兄さんの家族はこなかった。
それでもすてきなお式だったのよ。
大姉さんはとてもきれいだった。
お義兄さんもいつもよりかっこよかった。
赤毛のお兄さんもおくさまも、それに金ぱつのお兄さんもきてくれて、みんなでいっしょにお祝いした。
大姉さんは父さんから引きついで、このまえの春に男しゃくになった。
女当主よ、かっこいい。
わたしはし ょくぎょ う ふじんになって、お義兄さんといっしょに大姉さんを助けるのがゆめなの。
「あのね、ラーラ。
このままだと、あなたが行きたがってた職業訓練学校に、通わせてあげられないかもしれない」
大姉さんのことばにわたしはびっくりしてしまった。
「事業の成績が良くないの。
フェーベとヒルデもお嫁に出してあげなければならない。
あなたが大きくなって、学校に行こうと思ったとき、そのお金がないかもしれない」
大姉さんは、わたしが小さいからって、うそをついたりしない。
「ユリアン様が…………シャファト伯爵が、もしあなたにその気があるなら、大きくなったらシャファトの御家で働かないか、と。
それならばあなたを職業訓練学校に通えるように、援助してくださるって、おっしゃっているのよ」
わたしは赤毛のお兄さんを見た。
お兄さんはいつもやさしいかおをしている。
「赤ちゃんをだっこするしごとはありますか」
「……努力するよ」
お兄さんの耳が少しかみの毛と同じ色になった。
「ラーラちゃん、大きくなってからでいい。
君が君の夢を叶えられるよう、わたしは援助したい。
だから、なにも心配しないで。
君は君のなりたい人になればいい」
そういってお兄さんはかえっていった。
げんかんまでおみおくりして、いつものとおり手をふった。
「……ラーラ、おいで」
お義兄さんが、わたしに手をさしだした。
その手に手をのせると、そのままだっこされてしまった。
「お義兄さん、わたし赤ちゃんじゃありません」
「そうだね、ラーラは立派な淑女だ」
それなのにおろしてくれなかった。
そのままお義兄さんはおにわをあるいた。
にわしに「いとま」をだしてしまったから、ぼうぼうになってしまったおにわ。
家のうらまできて、お義兄さんは「ごめんな」といった。
ぎゅっとだっこされていて、かおが見えなかった。
「……わたしがリーザと結婚しなければ、こんなことにはならなかったのに」
わたしはびっくりしてしまって、「なんで?」ときいた。
お義兄さんはなにもいわなかった。
あわててわたしはいった。
お義兄さんがお義兄さんでうれしい。
大姉さんとけっこんしてくれてうれしい。
大姉さんはお義兄さんといっしょにいるときがいちばんきれい。
お姉も、ちい姉も、わたしも、お義兄さんがだいすき。
いえばいうほどお義兄さんは下を向いてしまって、わたしは首にまわした手でお義兄さんのあたまをなでた。
「お義兄さん、いつもありがとうございます。
大姉さんと、わたしたちのために、ありがとうございます」
お義兄さんがぐうとのどをならした。
かおは見えなくて、お義兄さんはわたしをだっこしたままおにわを歩いた。
わたしはあたまをなでられて、うとうとしてしまった。
お義兄さんの「ありがとう」という声がきこえた。