第5話「天才究明論」
さて、今回は皆さんに哲学と関係のある心理学の実験台になってもらいます。
ここに100億円あります。あなたの寿命は残り1日です。さて議題を与えましょう。あなたは今日1日をどう過ごしますか。
第5話「天才究明論」
・・・・見えている世界はすべてが黒く見える。
これはいつだっただろうか。・・・・そうか、あの人が辞書くらいの量の紙を投げた時からだ。
黒くと言っても、単純に『黒い』のではない。人の心臓部分が『黒く』見える。人は何かしらにウソをついている。そこらへんにいる仲良しこよしも見栄や虚言、妄言で成り立っている。自分を騙し、偽り、自分の嘘について自分は触れないように封印する。そして、自分ではない自分に、『自分は嘘をついていない』と強制的に納得させる。
そう言ったものすべてが、黒く見える。社会が、学校が、友人関係が、家庭が、自意識が、そして世界が、全てが黒く、人を『嘘』に沈めてくる。
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「あ、どうもこの度はわざわざ来てもらってすいません。」
私は玄関にいる来客に声を掛ける。
「いやぁ、恋華姉さんについて話したいのはわしもだからなぁ。」
沖野彌彌。電車内で来屠に『道徳』を問うたおじいちゃんである。
「あの時はストレスで半狂乱状態だったんじゃよ。すまんねぇ。これは土産の饅頭だよ。」
と、紙袋に入った饅頭を私に手渡す。今一度私はおじいちゃんの顔を見る。前のような形相ではなく、白ひげを生やした健康的な顔だった。
私は、ティーカップにほうじ茶を入れて貰った饅頭を皿にのせる。
「はい、沖野さん。お茶どうぞ。熱いのでやけどに注意してくださいね。」
「ありがとう。話のことじゃがなぁ、どこから話せばいいのやら。」
何食わぬ顔で熱い茶をすすりながらおじいちゃんは虚空を見つめ始めた。
「親戚から変わった人と聞いていたのでどんな人かなと気になっただけです。とりあえず、おばあちゃんがどんな人か知りたいのです。長くてもいいので片っ端からお願いします。」
私は『上野恋華』と『影内来屠』の思考が似ていると考える。何というか、私の嫌悪感を誘うような人だからだ。
彌彌おじいちゃんは、上を見る。細かく言えば天井だが。
ん?
うん?いや待て。何でなんもない天井見てるのこの人。何かいるの?いないよね。神の住居に入ってくるケダモノは。え。じゃぁ何がいるの?怖い怖い。
「・・・・あれはわしが12歳くらい時、・・・・・。」
あ、回想シーン入っていましたか。
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わしと上野の姉ちゃんが初めて会ったのは、わしが12歳のころ。日本は戦争に負けて経済面がボロボロの時、そば屋で看板娘として上野さんが働いていた。上野姉さんは、その町一番の美人で多くの成金に縁談を持ち掛けてきたが、全て振っていたようだ。わしは、近くの町工場で働いておってなぁ。給料日に少し多く貰ったから、そば屋で飯を食っとったんじゃがぁ、その時に、上野姉さんと会ったのじゃよ。スタイルも顔も性格も頭脳もすべてが頂点じゃった。
わしがそばをすすっておると、上野姉さんが話しかけてきた。
「君、一人?」
「そうですよ。あのろくでなしはもう天に召されました。」
すると、上野姉さんはフッと笑ったかと思うと、問いかけてきたのじゃ。
「君は、地獄や天国があると思う?」
「?わかんないですよ。でもあるって本に書いてありました。」
その回答を待っていたかのように彼女は、微笑むと。
「さぁて。その本は本当に正しいことを書いているのかな?本当は、何もないところに放り込まれるんじゃないかな。」
「正しいかって言われると難しいですけど、無に放り込まれるって、夢がないですね。」
「じゃぁ、消滅するのかな?」
「消滅って、・・・怖いなぁ。でもどっかにはいくんじゃないですかね。」
「・・・・。そもそも魂ってあるのかな?私は魂見たことないよ。」
「・・・・。僕も見たことないですよ。」
「あるとすれば、君は『君』であることに納得しているのかな?」
「????・・・・。え?」
「ごめんね。伝わりにくかったかな?君は『自分という魂』を認識しているのかな?」
「わかんないですね。そもそも、僕が人間の器に入っている魂って自覚は全くないですね。」
「私はあるかな。」
「へ?」
「自分は本当は自分ではない『何か』なんじゃないかなぁって、思うことがあるんだよ。本当に私は意識のある個体なのかって思う。本当は、私は器に『寄生』してるだけなんじゃないかな。」
「・・・・。」
「どうしたの?」
こてんと可愛らしく首をかしげる姿が可愛い。いや、そうじゃない。違う違う。この人何言ってんだ。『寄生』って怖っ。
「なんか、重い話ですね。そばすすってるときにやめてください。」
今更だが、重い重い。超重い。話が。そして表現が怖い。可愛らしい顔なのに何で『消滅』とか『寄生』とか言えるの!?
「え~~。せっかく仕事サボって、話しかけてるのに~~。釣れない子だね~~。」
仕事サボってんのかよ。舐めんな、働け。
「働いてください。」
「私は監視されてても監視されていなくても、サボるときはしっかりサボるの。それはこの世界が始まった時からもうすでに決まっているの。あなたがここでそばをすするのも。私があなたに話しかけるのも。すべてが決定事項なのだよ少年。」
「めんどくさいですね。」
「私が?」
「あなたもですけど。何というか、もどかしいですね。すべてが決まっているのに、僕たちはそれを知れないなんて。」
「誰が、そんなことを決めたと思う?」
「神、ですかね。」
すると上野姉さんはぶんぶんと首を横に振る。どうやら違う答えらしい。
「運命様ですかね?」
また首を振られた。しかし可愛いな。ふわふわぽわぽわで綿みたいな雰囲気だなぁ。
おっと、話がブレた。なんだろ。
「わかんないですね。」
「も~~。大体の人ってこんな感じなんだよね。理解できないものを『神』でまとめるの。」
一瞬、上野姉さんの瞳がスッと細くなる。
「だから人間は進化しない。今のままでいいって思ってる。考えるふりをしていて本当は思考放棄して、考えるのをやめている。一番掴みやすくて、手っ取り早くて簡単で、それが一番自分に適していると思ってる。」
純粋に怖いと思った。彼女じゃない。彼女の言う『人間』にだ。
上野姉さんはすぐににっこりとほほ笑むと立ち上がる。もう行ってしまうだろうか。まぁいいや。というか仕事してくださいよ。だが、僕は今さっきの時間が愛おしいと思った。町工場の人以外と話すことがなかったのもあるが。
「・・・・・人間。」
ぽつりと口が勝手に開いた。
「!?」
上野姉さんの瞳孔が少し大きくなる。
また勝手に口が開いた。
「・・・・自分が考えていない自覚がないなんて、考えていると思っているだけって。」
穴の開いたバケツのように、言葉がだらだらと出てくる。
「君は、考えるの?」
「何についてですか?」
「考え続けるの?」
「・・・・僕には無理そうですね。」
「何で?」
「僕よりも考える人はいますよ。言われていることをこなしているだけですから、僕は違うと思います。」
すると上野姉さんはフッと笑うと、
「君は面白いね~~。お姉さんそういう子好きだな~~。」
と、一言言い残し「またね~~。」と仕事に戻った。
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私は思った。
やっぱ、上野恋華はおかしいのではないのだろうか。
そばをすすってる少年に問うのかそれを。しかも重い。
「変人ですね・・・・・。おばあちゃん、他の人にも同じだったんですか?」
呆れ交じりに問うと、おじいちゃんはうんうんと頷いた。
マジか。
「そのあと、上野姉さんにそういう重い話をされたんだがな、この一つの問いを残したまま、次来た時にはもういなくなっていたんじゃよ。」
そう言い、懐から紙を一枚取り出しペンでさらさらと何かを書く。
『天才、秀才、鬼才とはどんな人か。』
脳が突風に吹かれた。
理解できないモノが頭脳を駆けまわる。
同時に全ての歴史や文学作品を網羅し、答えを出す。
「天才とはすなわち、生まれた時からの秀でた才能のことを言うのではないでしょうか。」
その答えにおじいちゃんは頷くと、私を見据えてこういった。
「『特別な恩恵を授かった、周りとはかけ離れた究極的で、周りがどれほど努力しても手に入らない絶対的な革命的な才能人』・・・・・・聞こえはいいけど、この中の人になると意見は違うようになると思うのじゃよ。」
おじいちゃんはさらに何かを書き始める。
『私は世界を変える絵の才能人だ。』
『私は努力してもどうせ世界に認めてもらえない絵かきの凡人だ。』
本当に確かに、と思った。
ノーベル賞を取った人だって、歴史書に名を遺した人だって、みんな才能人だ。むしろ、一般人かつ凡人の名前なんて載っていないのだ。
「努力で、天才になるのは漫画の中・・・ってことですか。」
こころなしか寂しげな声が出た。
するとおじいちゃんは、「だがな」と付け加え、才能人と凡人の間に線を引っ張った。そして、
「『天才』はあくまでも他人がつける敬称じゃ。本来の天才はまだ世に出ていない全生物のことを言うんじゃよ。わしも、恋華ちゃんも、上野姉さんも。すべてが天才であり、全てが秀才なのだよ。そしてこの答えを恋華さんに話そうと思っておったがもう行ってしまったか・・・・。」
熱くなり過ぎたおじいちゃんはふーーっと息を吐き、お茶をすする。
当の私は深く考える。
悲しいかな。納得してしまう。神である私は、時折いろいろなことが突出する生物を生み出してきたわけだが、『全生物が天才』か・・・・・・・・。ばかげているのに否定できない。間違っているとも言えないし、合っているとも言えない不思議な回答だ。ふと、あの少年を思い出した。
彼ならどういうのだろうか。少し興味が湧いた。
「・・・・・・・・あの子・・・・・・・。」
ふとぽつりと呟いた。
「あの子・・・・。来屠君じゃない・・・・・。来屠君なはずなのに彼じゃない。」
訳が分からない。あの目つきが完全に極道のそれで、全人類の闇を具現化しているような容姿の人間は影内来屠ただ一人だ。だが、なぜか彼のことを思い浮かべるとフィルターがかかったようにぼやけて見える。神の干渉を拒むような膜で想像の彼を覆っている。その奥を見ようと、神力を解放し目を見開く。そのひと時、一つの問いが頭の中に響いた。その声は明るく、なおかつ暗い声だった。
『あなたはあなたを救えますか?』
何から自分を救えばいいのだろうか。私は神だ。すべてを掌握する創造主だ。そんな私が自分を救う意味があるのだろうか。いや、ない。
だからこう答えた。
『私は救われない。救う必要がない。』
答えは返ってこず、その代わりぼやけた顔の彼の奥に来屠とは似つかないほどの美青年が笑顔で、彼と同い年くらいの女子の手を握っている。だがすぐにまたぼやけた。残念。いやまて、あの女子を私はどこかで見たことがあるぞ。え~~~と、あ。
私は思い出した瞬間、つい声に出して言ってしまった。
「包帯の女の子だ!!」
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起きた時にはもう11時を迎えていた。だが今日は土曜日なので別に学校とかないので慌てる必要なし。それどころか学校に行く必要がないまである。
そういえばご飯は食べただろうか。食べてないな。まぁいいや。
ふと戸棚の奥にしまった大量の紙を引っ張り出す。
漢字が難しくて良くは分からないが、多分自分のことなのだろう。
1枚1枚をめくる。久しぶりに見たと思う。これを見るたびに思い出す。
『あんたなんかいらない!!』
『もっと自分を大事にしてよ!!』
『私より短いんだから、自分のやりたいように生きればいいのに・・・・・。』
悲し気に、虚ろ気に、天井を見つめる。もう僕の瞳には精気も生気も感じられない。
久々に洗面所に行った。風呂に入る以外ではあまり使わないのだが、あぁ、やっぱり。鏡に映っている僕の瞳には墨でも塗ったかのように感情が一切入っていなかった。
いつからだっただろうか。
いいや。
考えるのはやめよう。
そういえば、2週間後は京都巡りだった気がする。
面倒だなぁ。
でもアイツうるさいんだろうなぁ。
あ~~。お父さん。合宿のスーツケースってどこにやったっけ。え、倉庫?我が妹よ。合宿の衣類ってどんなのいるかな?え、お兄ちゃんなら何でもに合うと思う?ありがとう。
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「包帯の女の子・・・・・・?」
思い切り叫んでしまったせいで、おじいちゃんにまで聞こえてしまった。いきなり叫びだすなんて私の馬鹿ーーー!!だが、おじいちゃんは真剣なまなざしで私を見つめた。
「彼女のことを・・・・知っているのかい?」
問われてしまった。これは答えるべきなのだろうか。・・・・・・・・・よし。
私は昨日の出来事を思い出し、端的にまとめる。
「よくは知りません。・・・・・でも、私の友達が彼女のこと見て動揺していました。」
おじいちゃんは私の答えに「フム」と言い、さらに問いかける。
「彼女のことについて知りたいかい?もしかしたら君が知りたいと思っている子について何か知ることができるかもしれないよ。」
え???おじいちゃんは今何を言ったのだ?・・・・彼を知ることができる・・・・・。
「はい。知りたいです。」
返事は思考より早く口から出て行った。
神の力を使っても干渉できない人間。影内 来屠。彼を知る。
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包帯少女。彼女の名は紳羅百合という紳羅グループの次期リーダーであり、月之宮財閥と縁談の中にあったという。だがある日を境に、縁談の話が抹消しそれが原因で深く心を病んでいるのだそうだ。
さて、これは彼とどんな関係があるというのだろうか。彼が百合を見た時泣いていた、・・・・・つまり彼は百合に一番近しい存在であり、百合のことをものすごく心配している人だ。それを基盤として設定すると彼は、家族、・・・・友達、・・・・こ、恋人とか。いやあり得ないな。影内君の家族構成は知らないけど恋人・・・という線はないな。うん。じゃぁ友達という可能性は、・・・・・あり得る。学校の友達とかなんかだろう。しかし、彼の出身学校を調べたら百合とは全く別の学校でむしろリアと同じ学校だった。だから学校の友達という線は限りなく薄い。・・・・・え、家族?ないない。天地が消し飛んでもありはしない。・・・・じゃぁ彼は百合とどう関係があるのだろうか。
悩む私を見て笑うおじいちゃん。しばき倒したろか。人がこんなに考えているのに。・・・あ、頭を覗けばいいじゃん。でもこの爺さんの頭覗くとかカンニングしてるみたいで腹立つなぁ。とか思いながら私は紅茶に口をつける。時間がたちすぎいたのか紅茶は生温かった。
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おじいちゃんが帰った後、私は台所で洗い物をしていた。我ながら第三者目線で私を見てみると新婚の美人嫁みたいで嬉しい。あ、でも結婚していないから独身アラサーじゃん。相手欲しいなー。
まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど。
そんなところにチャイムが鳴った。ピンポーンと。
なんだろう。彌彌じいちゃん忘れ物でもしたのかな。と、台所についてあるインターホンを見る。そこにいたのは、
影内 来屠。神が嫌う捻くれた少年だった。
・・・・・・・・・。どうしよう。居留守にしようかな。できれば会いたくないんだけどな。
神の中にいる悪魔「嫌いなんだろォ。出なくて良いじゃねェか。今日はじいちゃんの哲学の話で疲れただろう。」
神の中にいる天使「駄目だよ。君の知りたい人が目の前にいるんだよ。ここで引いちゃ負け確定だよ。リアちゃんに狩られちゃうよ。女の子でしょ。恋する乙女は負けないんだよ。」
私の中で悪魔と天使が口論している。ところで天使ちゃん。恋は・・・・まぁいいとして盗られるが狩られるに聞こえたのは気のせいでしょうか。
・・・・とりあえずだ。要件を聞こう。
私はインターホン越しにいる来屠に声を掛けた。
「何の用ですか?」
「ばぁさんへの線香とちょっとした話だ。」
ちょっとした話・・・・・・・。何なのだろうか。告白か!告白なのか!やめろ絶対やめろ。OKかKO以前に存在が怖い。
「話っつっても告白じゃねぇよ。存在が怖いのは僕の特色の一つだ。諦めてくれ。」
・・・・・・んんんん?何、心読まれてる?そんなに分かりやすいの私の顔。あ、でも認めてるのね存在が恐怖なのは。なんか哀れみを感じる・・・・・。
「あぁ、結構分かりやすいよ君の顔。哀れみはもうお腹いっぱいだから、せめて軽蔑と憎悪が欲しいかな。」
・・・・なんかどんどん悲しい方向にいっているなぁ。まぁ、家におばあちゃんの墓っぽいものあるし、ある話も聞きたいし、・・・。
「いいですよ。入って来てください。」
私は、オートロックのカギを開け、来屠君を中に入れた。来屠君は庭の墓で線香をあげ、部屋に戻ってくると私の前に座った。
相変わらずボサボサの髪の毛と前髪の長さは変わっていない。それどころか、何処か殴られたような跡があり、目の死にようがよりヤバくなっている。
私は本題に入った。
「話っていうのは?」
すると、思いがけない言葉が返ってきた。
「付き合ってほしい。」
「は?」
ツキアッテホシイ?何それ美味しいの?・・・いやいやいやいや、なぜ!そうなった!?私が驚きで立ち上がると、来屠君は「あ」と察したような顔をした。
「あ、いやすまない。今のは誤解だ。言葉が足りなかった。修学旅行に、付き合ってほしいんだ。」
そういうので、私は安堵し腰を下ろした。よかったー。死ぬかと思ったー。
「なんで?別に良いけど。」
「修学旅行は5人班なんだけどさ、紗耶香、鏡花、優慶、樹、僕で班を組むと恋華がはぐれるだろう。でもって、紗耶香と鏡花は君のことをかなり慕っているようだ。だから、僕が抜けて君が入ってくれた方がさぁ、班としてはいいと思うんだよねぇ。」
と、言われても。
「それだと来屠君は何処に入るの?」
「1人でふらふらする。・・・・・訳にもいかないからさ、他クラスの人と組むよ。」
「!!!!!!」
驚きだ。来屠君が、あの来屠君が他クラスに友達がいるなんて。
「えっ!!友達いんの!!来屠君にっ!!」
その反応に少し癪に障ったような顔をした。
「その反応ってさぁ、人間としてどうかと思うんだよねぇ。確かに見た目の上ではそう思うかもしれないけどさ、現に僕には紗耶香やリア、鏡花、樹、優慶っていう人らがいるんだよね。だからさ、人を見た目で判断しちゃいけないんだよ。その判断は、僕の人格を人間として扱っていないってことだよねぇ。それは僕の人生の、人権の侵害だよねぇ。」
言い終えたあと、一息ついてから言葉を繋ぐ。
「まぁ、性格や趣味はアレだけどそんなことを非難する権利は僕にはない訳で、それが理由で嫌うっていうのも傲慢で、相手を知ろうとしないっていうのも怠惰だしさ。最近の近況を話すのにちょうどいいし、そんな感じかな。」
珍しく、来屠君が人の権利を認めている。っていうか、
「私、友達の枠に入ってないの?」
返答はすぐにあった。
「正直、僕はさぁ、君のことをよく知らない。いや、分からないって言った方が良いかな。リアは昔っからの付き合いだし、樹や優慶、鏡花に紗耶香は何処か波長が合うんだ。知らないことが多いけど、知ってることもある。でも、『上野恋華』が僕にはわからない。まるで、人知を超えた域にいるような圧倒的な何か。が、あるような気がする。だから、君が僕を友達を思ってくれていても、僕は君を『友達』とは思えない。」
危険だ。と思った。間違いなく、来屠君は私を人間として見ていない。・・・・にしては、結構友好的だなぁ。だが、此処で「友達ではない」と言われ引き下がる私ではない。
「どうすれば、友達になれる?」
返答は早かった。
「理性が、本能が、経験と勘が、きっと僕と君は相容れないと言っているんだ。だから、・・・。」
そして、来屠君は私に問う。
「君は、どうして僕を邪険する?」
神だから!!と言っても、信じてはもらえないだろうし説得力に欠ける。そもそも私が来屠君のことを苦手にしているのがなぜわかるのだろう。
「何か、平凡に過ごしていればいいのに、どうでもいいことに屁理屈並べて自分を誇示しているところとか、目が腐りきっていて、なおかつ鋭いとか、髪がボサボサなところとか、回りくどくてナルシストで、何かあればすぐに自分の権利を主張するところとか、話し方とか、声音が死んでるとか、負のオーラ出してるとか、体力ないとか、知力ないとか、変な雑学をよく知ってるとか、ヘタレとか、ひねくれているとか、見るだけで将来が心配になるとか、後、私のこと苦手そうな目で見るから。」
とりあえず、思い当たること全てを吐き出した。来屠君を見てみると、案外どうってことのない顔をしている。・・・、怒ってはいないのだろう。良かった。
「なんか、ボロクソ言われたかな。まぁ、別に良いけどさ。容赦ないね君。」
「聞いてきたのは来屠君なんだけど。」
「まぁ、ありがとう。かなぁ。」
ん?・・・・・あり、がとう・・・・・?急にお礼を言われたけど、何だろうか。
「ありがとうって何が?」
来屠君はスッと目を細め、ふと口元を嬉しそうに歪めた。
「よく、見てくれているところかな。嫌いなのに、不思議だ。存在を認められている。確かに悪いところしかなかったけどそれだけでも嬉しいものがある。だから、ありがとう。これは、ありがとう。」
来屠君は別に悪いところだけじゃない。電車の一件で助けてくれたし、形だけの信仰に対するバッシングの持論とか、・・・・・・きっと、彼はすごいのだ。そのすごさはパワーではない。私の想像を超える、最強の強さなのだろう。だからこそ、私は彼とは相いれないのだろう。
私はずっと、来屠君が帰ってからもそう思っていた。
明々後日は修学旅行だ。彼の存在が大きく出てからは予知能力があてにならないので使っていない。その分、面白さがあるのだ。彼の友達はどんな人なのだろう。彼のような変人なのだろうか。
その不安の答えは夜空に浮かぶ月のように明白だった。




