第3話「正義なる悪」
今回はかなり多くの新キャラが登場します。何かしらご質問があればコメント欄にお書きください。
さて、皆かの有名な怪獣映画を見たことはあるだろうか。人間が町を襲う怪獣を滅殺するという内容のものだ。そこには、双方の正義と対する悪が見える。人間にとって怪獣は生命線を短くする害悪でしかない。だが、怪獣にとって人間は子供の孵化を妨げる害悪なのである。別に怪獣でも人間でも変わらないのである。お互い自身が正義と信じて疑わないからこそ、王政を変えようと正義を語る、王に対しての反逆者(悪)が革命を起こしたり、正しいと思っている幕府の政治を天皇が主体になる政治になるように藩が幕府と戦乱を巻き起こしたり、と、このようなすれ違いが起こるのだ。
第3話「正義なる悪」
星章学園3限目の体育に恋華はいた。
体育は男女混合で、テニスかサッカーの種目選択から選んでいる。ちなみに恋華もリアもテニス選択のようだ。
テニスのプロフェッショナルからの指導を受けていたリアの腕は全国大会とか目じゃないとか。恋華も神様なのでテニスくらい呼吸の感覚でできる。
「2人で一つのチームをつくれ~。後でランダムでダブルスするからな~。」
体育教師である佐藤が言った。佐藤はスポーツなら何でもできるスポーツのみエリートの熱血漢である。勿論、リアの母親が部下の伝手から引っ張ってきて就任させた、簡単に言えば『リアと基山を監視しつつ、質のいい授業を受けさせるための差し金』である。いくら法務大臣と言えどもSPに監視させるのは学校としてダメな行為らしいのだ。しかも、学校の元となった星章教も法務大臣かつ大企業を牛耳る社長が全国に布教したのもあって、顔が厚いとのこと。
「ねえ、恋ちゃん。一緒に組もうよ~。」
リアが恋華に駆け寄ってきた。「お願い組んでお願い!!」といった慌てた表情をしながら頼んできたのだった。恋華は一瞬察しがついた。それをこっそりとリアの耳にささやく。
「基山君と組むの・・・・嫌なんだね。」
言ったらリアはうんうんと頷きながら、泣きそうな顔になった。ものすごく目がウルウルしている。ものすごく嫌なのだろう。
「・・・いいよ。」
救いの手を差し伸べると、リアは、「ありがとおぉぉぉっっ!!!」とものすごく喜んだ。
(本当、泣いたり笑ったり大変な人だなぁ・・・・・・。)
そういえばだった。
「来屠君は何処だろうね。あの性格だからパートナーとか探すの苦労しそう。」
ぽつりと言ったら、リアが顔を暗くしてうんうんと頷いてしまった。こころなしかちょっと泣いているように見える。だが、イレギュラーな存在は意外にも簡単に組を組んでいたのだ。ご本人はいつも通り腐りきった目をしている。その周りには、彼と同じようなオーラを放っている(目は腐っていない)人が4人もいた。そのうちの1人がこちらに気づいたようだ。銀髪の短髪でとても可愛らしい顔だ。
「鏡花ちゃんだ~。あ、そうだ。恋ちゃんちょっと来て。」
鏡花と呼ばれるその女子は、隣の恋華をみてリアに手招きした。
リアは恋華の手を引っ張って、その集団に近づく。
「あ、おい、マドンナ2人があの集団に入っていくぞ。」「友達?」「違うだろ。どっちも純粋な美少女なんだからただの挨拶だろ。」「え、でも止めた方が良いんじゃね。」「やめとけ。関わったら最後。お前明日生きて学校来れるか分かんなくなるんだぞ。・・・・行方不明になったらまだいい方だ。」「!?」
後ろから隣のクラス合わせて20人に近い男子がこそこそと話している。手短に言えば『ヤバい集団』なのだろう。いくら情報が大事だとしても、この目で確かめ、口で言葉を交えない限りそれが正しいとは限らない。鏡花に会った瞬間、開口一番に。
「君が来屠君の言っていた『不思議な女性』だね。私は加藤鏡花だよ。宜しくね。」
『不思議な女性』と言われた。恋華は来屠を見たが、来屠は見て見ぬふりをして返事なし。
「上野恋華です。宜しく。」
恋華はいつも通りの笑みを浮かべて軽く挨拶をする。すると確かに今目の前には鏡花がいるのに、神の本能がその『人』を鏡花として見なくなった。なんか数段ほど覇気が強くなった気がする。
「確かに不思議だなぁおい。作り笑顔じゃねぇのに、人間味が出てねぇっつぅ感じがする。過去にどんな出来事を抱えたらんなオーラ出んのか不思議だわホント。まぁ、下心がねぇっつぅのは良く分かった。仲良くしようぜぇ。恋華っ!」
『THE・極道』だった。突然の変わりように恋華はついていけない。すると、リアが隣から解説をしてくれた。
リアの話によると、加藤鏡花は3重人格で、医者から『治療不可』と言われるほど精神的虐待を受けたいわゆる、『アダルトチルドレン』という分類の人のようだ。一つの人格では、生まれた時からの性格で、非常に優しく勇気があるという。座右の銘は『悪鬼に救いの手を』。2つ目の人格は、過剰のストレスによるもので、キレやすくなり、『傷つく』ということを拒絶し、他人に与える。さらには外見からは見られないほど運動神経が高く、座右の銘は『破壊を嫌い、破壊を与える』。3つ目は絶対に出しちゃダメな人格だそうで、これを強制的に引っ張り出したら最後。聞いたところによると、とある事件で罪を着せられた鏡花の人格を引き出そうと、警察官が30時間にもわたる尋問をしたところ、交代の警察官がやってきたところには、不気味な笑い声をあげる彼女以外血肉と骨しか残っていなかったらしい。
「そっか。苦労したんだね。何かごめんね。聞かなきゃよかったかも。」
恋華が悲し気に言うと、元の鏡花が申し訳なさそうに言った。
「ううん。むしろ知ってくれた方が楽。」
すると、鏡花の後ろから男子が2人、女子が1人現れた。
さらにリアが高速で解説をした。
手前にいるニコニコとした表情の茶髪男子は、村田樹。完全にして完璧なサイコパスかつ英語ペラペラの帰国子女。少し間までは、こういう思想を持っていても神の前では皆平等と言われる星章教の信徒だったのだが、外国の司教に「You are filthy devil!I can't understand why there are dingy filth in such a holy church!Get out!Don't come again!・・・・・Oh,GOD.Please forgive me.Now there were no disturbers who make GOD pleasant.(和訳すると、お前は汚らわしき悪魔だ。お前が神々しい聖堂になぜいるのか分からない。神よ。お許しください。今やあなたを不快にさせる邪魔者はいなくなりました。)」
と言われ、ショックで性格が歪んでいき、今では座右の銘は『俺は悪くない。神が悪い。』となったようだ。聞いたところによると、強盗に家族が襲われた時、警察が駆け付けた時には強盗も家族も内臓が消えた状態の変死体で発見されたようで、近くには台所で料理をしている樹君の姿があったという。簡単に言うと重度の『内臓愛着者』ということだ。
次に樹の隣にいる人を殺ってそうな赤髪男子は外国に連れて行かれ、洗脳されテロリスト活動をした通称『抹消鬼』の久保田優慶だ。子供で背も小さかったことからテログループでは重宝されたようだ。(なお、そのテログループはリーダーがぎっくり腰で、病院に行ったところを捕まえられ、強制解散させられたようだ。)それがもとで、彼を差別した人はいまだに行方不明になっている。そんなことが何回かあったことで、神の救いを授かろうと、星章教に入ろうとしたが、門前払いされたことにより座右の銘は『神は悪の味方』になった。
その後ろにいる白髪ロングの女子は白羽紗耶香という、鏡花と同じ『アダルトチルドレン』の女子だ。『アスペルガー』という脳の障害で近くの川に捨てられたのを、鏡花に助けられたことにより、彼女と同居している。最近彼らの仲間に入ったので座右の銘はまだ決まっていないが、彼らを一番信用している人間である。
「星章教・・・ろくでもないね・・・・。」
この集団の約50%がこのクソ宗教のせいでこうなっているのかと思うと神として情けなくなってくる。ちなみにリアもこの集団の仲間らしい。
「僕らはこういう歴史を持った人らが集まったミニ団体みたいなものだけど、特に活動とかなくてただ単に仲良くやっているだけだよ。大丈夫。星章教みたいなクソ野郎の集団じゃないから。」
樹がニコニコと話す。
恋華はとりあえず設定を作り上げて、皆に話す。
「私は生まれつきの顔や能力もあって、周りからさんざんに扱われた。ある人は、私を監禁したり、ある人は、周りにありもしないことをばらまいたり、・・・・だから、私をどこにでもいるありきたりな人間として接してほしいの。だから・・・・あなたたちのことをもっと知りたいです。」
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「適当に班組んだら、授業終わりの5分前までランダムでテニスの試合をしてろよ~。さぼったら点数引くからな。」
佐藤が言ってからすぐに、問題は発生した。
「なぁなぁ恋華ちゃんだっけ?オレと一緒にテニスしない?オレ隣のクラスの酒木博人って言うんだけどさ。」
リアが鏡花とテニスの指導をしていると、どこから沸いたのか、恋華に詰め寄ってくる男子がいた。
酒木博人。6組のお調子者であり、チャラいイケメン。基山のグループの1人で、リア未満だがテニスとサッカーが大得意。それもあってイキリにイキってマウンティングすることで有名だそうだ。
突然の勧誘に目を白黒させていると、酒木は恋華の肩を触る。恋華はのけぞり、叫んだ。
「ちょ、ちょっとやめてッ、ください。もう班組んでいるので、無理です。」
その言葉にイラっと来たのか、酒木は持っていたラケットで思いっきり恋華の頭部にたたきつけた。何が起こったのか恋華は良く分からなかった。でも。触った手が赤く染まっているのが分かった。後からものすごく痛覚が反応した。酒木の怒号が聞こえる。
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!いやいや普通オレと組むでしょ!!こんなイケメンが誘ってるんだからそこは甘えるべきだろうがっ!あ、もしかして美しい美貌を持ち前にオレをたぶらかそうってわけかああんっ!?」
そう言いながら、靴跡が残るくらい強く腹に蹴りを入れた。
そんなところにだ。
「なぁっ!!てめぇ何やってんだオラァっ!!」
鏡花の人格の1人の拳が、酒木の腹にめり込む。うめき声を洩らして酒木が倒れると、鏡花の手が酒木の髪を持ち上げ、何か怒り狂っている。
「大丈夫恋ちゃん?立てる?何があったか言える?」
リアと紗耶香が恋華を起こす。後から樹と優慶が慌てた様子できた。恋華は一通り伝えると、紗耶香と樹に保健室に運ばれた。
「はあぁぁっ!放せよぉ!なんで女子なのにこんなに力強いんだよ!もはやクソゴリrぐふぅ。」
今度は顔面を砂に埋められる。さらに鏡花の拳が出ようとしたときに、
「酒木どうした。ちょ、ちょっと放してあげて。事情を聴くからさ。」
基山が現れた。後ろに4人くらい連れている。後ろの方は戻ってきた紗耶香と樹、あと優慶を見てビビっている。鏡花は渋々と酒木を解放する。すると、酒木は泣いたふりをして基山に言う。
「なぁ聞いてくれよ基山クン!オレと組んでくれるって言った恋華っていう女子が裏切って、あっちの奴と組んだんだよ。それでオレが駆けよったらゴキブリみたいな扱いをするし、何もしていないのにこの女子がオレを殴ってくるんだよ。どう考えたって悪いのあいつらだしさぁ。ちょっと説教してやってよ。」
思いっきりでたらめだった。1mmもあっていない。それどころかなぜか恋華が容疑者という扱いになっている。さすがにこんな出鱈目、基山には通用しないだろう。そう思っていたのだが、
「悪いのは君らのほうじゃないか。寄ってたかって1人の男子をいじめて何が面白いんだ?恋華さんも連れてきて早く酒木に謝るべきだ。謝らないのなら、父さんに頼んで酒木に弁護士を付けてもらうし、これ相応の法的処置をとらせてもらうよ。」
そこに突っかかってきたのは鏡花だった。もとに人格に戻っている。
「今あなたは『事情を聴く』と言いました。なぜそちらの言うことを信用するのですか。それではあまりにも『不平等』ではないですかね。」
だが、基山は友達をかばえてうれしいのかまるで聞く様子がない。それどころか、
「僕は君たちに謝れと言っているんだ。・・・・早くしろよ。」
「というかさ、恋華ちゃんはその酒木っていう男子から流血沙汰の暴力をされたと聞いているけれど。そこんとこどうなの?」
「・・・君らって『普通』の人間と価値観違うし、過去に何かやらかしているでしょ。周りからの評価はものすごく悪いし、絶対何かやらかしたっておかしくない。そんな人らの言うことは大体嘘っぱちなんだから信用はできないね。だとしたら消去法で、正しいのは酒木だ。正義は俺らで、悪いのはお前ら。」
理論も周りの情報を基に構成されている。自分は正義で、その敵は全て悪。という判断のようだ。
周りの連中もまた、クラスのまとめ役がそういうのだから間違いないという感情に任され、基山を信じてしまう始末だ。
だが、そんな空気だろうが何だろうが、基山の発言に水を差す人物がいた。
「うるさいなぁ、今さっきから聞いてれば『正義』だの『悪』だの『普通』だの。情報と自分にとっての関りだけで良し悪し決めるのは、僕らの権利の侵害だよねえ。」
影内来屠。イレギュラーな存在がこの場に居合わせたのだ。
「・・・・君には関係のないことだろ影内君。そういうの良いからちょっと引っ込んでてくれないかな。」
基山は目を細めているが笑ってはいない。本能的に、一筋縄では敵わないと悟っているのだ。
「だったらさぁ、君にも関係のないことだよねぇ、はぁ。」
「いや、俺らは友達だから。」
「だったらさぁ僕も恋華の友達だからさ。関係あるじゃんねぇ。はぁ、もしかして君は『友達』だから、彼のことも自分が一番よく『知っている』と思っているだけなんじゃないのかな。しかもなに。価値観が違うから聞く必要性がない?あのさぁ、そんなこと言ってたら世界中で戦争が勃発するよ。さらには『普通』ってねぇ。じゃぁ、君の言う『普通』ってなに?」
予想だにしなかった問が出され、基山が少し呆然とする。だが、すぐに答えを出した。
「国の憲法や法をしっかり守り、誰も傷つけず、空気を読み、感情を理解し、どんな現実も受け入れる。無意味な行動をせず、他人の言うことを守る。これを『普通』という。」
来屠はその言葉が予想の範疇にあることに確信し、言い返す。
「でもさぁ、そんな人間いないよねぇ。結局君の思う『普通』っていうのはさぁ、はぁ、君の価値観の分身だよねぇ。そんな程度の低いたかが知れた『正義』なんてあるだけ無駄だし、はぁ、かえって邪魔になるだけなんだけどさぁ。」
その言葉にカチンときたのか、基山は反論する。
「君のその『普通』も『正義』も結局価値観じゃないか。」
「まぁ、真理ではないか。でもほとんどの人には当てはまるさ。現に君の『普通』と僕の『普通』は違うだろう。逆にみんな同じ『普通』をもって生きていたらテロとか戦争とかましてや法律もないと思うよ。世界史の教科書見てみなよ。大体すべてのページで血が流れてるし、経済制裁あるし他国の島に勝手に入ってきたり、冤罪で人が牢獄に入っているしさぁ。」
しかし呆気なく基山は反論前までの気力がなくなった。正論過ぎて言い返せないのである。
「・・・・・でもさ。やっぱり周りの情報とか大事だし、過去にやばいことやってるっていう前科があるんなら、君らの言うことを信用するわけにはいかないと思う。」
結局、『普通』が入っていようが入ってなかろうが基山の言うことには偏りがある。なぜか友達の方に回るのだ。それだけ友達を信じる信念があるにもかかわらず、基山には自分の『正義』が他人にとっては『悪』であることを肯定できない。
(結果として、友達とは会社でいう『株』にあたるということか。)
保健室のベッドに寝かされた恋華は千里眼でその様子を眺めていた。保健室の先生が元医師というのもあり、適切な処置ができるようで、恋華の傷は頭以外は軽傷だという。
来屠は面倒くさいなと思いながら、髪をかき上げる。ここまで信念が図太いと何かとやりにくいらしい。そこでだ。
「基山君。私の友達をそんなに悪者扱いしたいのなら、私も手を打たなければなりません。あなたにとってもそれは嬉しくはないものですが・・・・。」
今さっきまで黙っていたリアが突如として口を開いた。可愛らしい声とは裏腹に脅しともいえる単語に基山が押し黙る。2人の家庭は言わば主従関係のようなものだ。婚約関係でもあるのだが、親会社、子会社の関係でもあるため、『手を打つ』=『婚約破棄からの左遷』という判断に至る。婚約者を取るか、友達を取るか。基山は何か別の口実をつくろうと視線をさまよわせると酒木のラケットが目に入った。何か案を出そうとし、試行錯誤を繰り返す。そこで至った結論が、
「・・・分かった。これは双方の意見が食い違っているうえに、話し合ってもきりがない。だからここは穏便にテニスで勝負をしよう。ちょうど30分近く残っているし、ダブルス8分を3回。これで多くのゲームを稼いだ方が勝ちってことで。時間もないし、1ゲームだけにしよう。お互いテニス部の人は無し、大会に行ったことのある人も無しだ。これでどうだい?」
即座に反応したのは酒木だった。
「やっぱ基山クンはサイコーだぜ。いやもうこれオレらの勝ち確定じゃんよ。いやー基山クンも人が悪いっしょー。オレこの案乗る。」
「・・・・いいでしょう。この勝負、謹んでお請けいたします。」
リアがものすごい笑顔で言う。目が笑っていないが。
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「じゃぁ第1回目を始めます。」
基山が笛を鳴らすと、打ち合いが始まった。
少し盛った。正しく言えば蹂躙劇である。優慶と紗耶香のペアは地獄だった。紗耶香は動きはぎこちないが相手のプレイヤーと比べて無駄な動きが少ない。だが、紗耶香単体では勝ち目はないが、それを大きくカバーする元(洗脳)テロリストの優慶の活躍がある。体が覚えているのか、非常に俊敏で力強いスマッシュを連発する。だが、相手もしぶとく、中々ポイントを取るのは難しく、30対30のデュースとなった。
「あ~。やべーっしょ。何なのあいつら上手すぎでしょ~。いやもうズルじゃんよ。」
酒木はラケットでボールを打つ。だが、彼は試合には参加していない。つまりは妨害である。しかも悪質なことに、基山の見ていないところでだ。
ボールは問答無用に飛んでいき、優慶の顔面に、当たらず。
「おい酒木。試合と関係ないボールを打ってくるな。」
もう片手でボールをキャッチしたのだ。優慶は注意したが悪びれる様子もなく、相手の打ったボールはバウンドし、優慶の横を通り抜けるのを確認した途端叫んだ。
「はーい基山クン。ボールをキャッチしたので相手チームの負けで~す。」
大イカサマしておいて、さらには大ウソもぶちかます。アリストテレスだったか「人格は何回も繰り返した行動の総計」と言ったが基山然り、酒木然り、そういう行動を繰り返していたのだろうか。当然基山も、来屠が恋華の様子を見に保健室に行ったきり戻ってこないことをいいことに、
「分かったありがとう。見逃すところだったよ。やっぱり前科ある人って何するか分かんないよね。じゃあ次行こうか。」
さらっと酒木の言うことを信じてルール破りのレッテルで、優慶と紗耶香を強制敗北させる。2人はもちろん反抗したが酒木も同じく。
「やっぱさー、前科って人生の墓場だよね~。ほら~自分の過ちを認められないっていうかさ~。ホント悲しくなっちゃうね~。まぁ~その辺オレらって正直者じゃん?やっぱあいつら生きてることが犯罪じゃん。」
どこから出てくるのか悪口の数々。存在の否定もしているのに周りはまるでそのことを肯定しているかのように基山に声援を送る。
第2試合目は鏡花と樹のコンビだった。鏡花もお怒りらしく、人格が狂暴な方に変わっているうえに、樹が出す特有のオーラで相手が恐怖を覚えている。どうやらゲームはあっという間に勝負がついた。鏡花の強すぎるサーブはだれにも返せないし、樹が動くたびに相手がびくびくするものだから相手のサーブミスの連続で勝ったようなものだった。酒木もまたボールを打って妨害したがボールを優慶にキャッチされあえなく失敗。
第3試合目になった。
「あれ、リア。君のペアは?いないの?代わりに誰かペアを・・・・」
基山が何気なく尋ねたが、
「いくぜー。もうゲームは始まってんだよおっ!」
酒木がいきなり高速のサーブを打った。
「ふッ。」
だが、リアが即座に反応し、打ち返す。見事1ゲームを取得すると、酒木が笑っていた。
「ぷはははっ!はいアウトー。ゲーム始まったからぁもうペアを組むことはできまちぇーん。お分かり~~~。」
(コイツマジで脳みそ腐ってんのか!?今すぐ神に戻って天罰落としてやろうか~?)
つまりリアはソロプレイでテニスをすることになる。それでもリアはプロ顔負けのテニス上手。持ち前の運動神経を生かして、3人以上の動きをしていた。だが、アッという間に体力がなくなっていき、連続でデュースになり苦戦を強いられることになった。基山はというとできるだけ軽く打ち返すが、酒木は問答無用でスマッシュを打ってくる。そして、基山がサーブをしようとしたときだった。
「靴ひもほどけたから結びなおしていい?」
リアが言った。呼吸も荒くなり、心拍数も上がっている。リアにとってこれは少しの休憩だった。基山は二の返事で許可し、リアに休憩をさせた。ほんの少し休憩したリアは、さっきよりましだが、疲労を完全に拭うことはできず、疲れている様子だった。だが、リアが立った瞬間だった。
「おらよ!」
酒木がサーブすらせずに最初っからリアの顔面目掛けてスマッシュした。酒木のテニスの腕はプロ級である。だからこそわざと感がにじみ出ている。基山もリアも急すぎて対処のしようがなく、ボールはリアの天使のような美貌を抉る。・・・・ことはなかった。
第3者によるラケットがリアの眼前に現れ、ボールの軌道を阻む。そして跳ね返されたボールは端の白ラインぎりぎりをかすめて1ポイントをさらっていく。
「え、・・・・・・?」
現れたのはヒーローではない。世の中の全てを否定する、理不尽に腐った目をした青年だった。彼はリアに盛大な溜息をつく。本当に汚物を見る目だった。
「あのさぁ、何で2体1でテニスしてんの?言ったよね基山君さぁ、『ダブルスでって』。・・・・・・大勢で1人の女子いじめて何が楽しいのかなぁっ!」
来屠は基山にそう告げた。基山は一瞬はっと何かを悟ったような顔をした。だがすぐに持ち直して、構える。酒木はというと。
「はぁ!?知らねえしよー。お前が来なかったのが悪いんだろうが!はい、お前の負けーー。なぁ、基山クン。」
来屠にぐちぐち言うが、彼は気に留めた様子もなく、堂々と言った。
「でもさぁ、君らのチームってあと1ゲームとれば勝ちだしさ、・・・・じゃぁ、上野恋華と交代で、僕が入る。これで何の問題もなくなった。しっかり2対2と行こうか。」
「・・・・そうだね。どう考えても君らのチームが不利なのはわかりきったことだし、此処からずっと1人でやるのはダブルスとは言えない。しかも合図なしに酒木がサーブしたのは監視のしていない僕に非がある。・・・・分かった。君の選手交代を認めるよ。」
基山が愚痴を洩らす酒木を鎮めて、来屠の参加を認める。リアが心配そうに来屠を見る。来屠は「1分で終わらせる。」とぼそっと言い、構える。
「いくよ。」
基山がサーブする。やはりプロなのかボールが曲がる。だが来屠は驚きもせず、横によける。そこからリアが現れ、打ち返す。酒木が精いっぱい反撃に出るが、打ち返したボールはミスをしたのか案外緩く来屠の射程に入った。来屠はそのボールを見逃さなかった。即座に打ち返す。基山はすぐに動くが、ボールはまたもやラインぎりぎりをかすめて飛んでいく。連続で2ポイントを勝ち取ったのだ。つまり、1ゲームを取り、2ゲームを取ったので恋華の無実が証明されたのだ。基山は来屠に近づき、握手を求めた。
「完敗だよ。強いね、来屠君は。君が入った瞬間にリアの風通しが良くなった感じだったよ。」
来屠はそれをスルーし、連れてきた恋華に声をかける。
「ていうかさぁ、怪我人の分際で試合見たいって君さ、一体どういう神経しているのかなぁ。まぁ、良かったねぇ、ラケットで殴られてその程度の怪我で済んだなんて、・・・・・僕なら死んでいただろうねぇ・・・・・・。」
保健室の先生の伝手で来た本場の脳外科医曰く、「皮が剥がれているだけで済んだなんて、奇跡だね。」とのこと。血は出たものの大した怪我ではないく、頭に包帯を巻いたような状態だった。恋華はとりあえず礼を述べる。
「ホントリアと息ぴったりだね。見た目じゃリアどころか他の人とも関わること出来なさそうなのに。でも、ありがとう。まさか勝っちゃうなんて予想できなかった。」
それを聞いた来屠は一瞬瞳孔が大きくなった。そのあと、犯罪者のような人相の悪い顔をして言う。
「僕は常に最底辺を生き、最高峰に住む人間だからね。人との息を合わせるなんて朝飯前なんだよねぇ。だけどさぁ、僕はいやいややったんじゃあないらさぁ、感謝はリアに言うべきじゃないかな。僕は所詮・・・・・・だし。」
来屠は鏡花や優慶がいるところに行った。リアもいるが、何か話しているようだった。酒木はというと、今度はこうほざき始めた。
「基山クン。もしかしたら、恋華が嘘を自分の友達に言って仲間をつくろうとしたんじゃないかな。アイツらは悪くねえよ。嘘を言った恋華が悪いんだよ。」
基山は刹那、酒木が何を言ったのか理解できなかったが、底辺の正義感はその言葉を簡単に信じてしまった。周りは呆気に取られている。しかし、リアや鏡花、来屠の団体は平然と構えているので、恋華はそっちの方に驚いた。
「おい恋華謝れ。土下座しろ。」
酒木は基山のOKに調子に乗っているのか、かなりイキっている様子。だが、ふと酒木の背中を叩く人の姿があった。
「君が酒木君かな。」
「んだよ。おっさんうっせーんだよ。引っ込んでろよ。」
リアはにこにこと笑っている。恋華は状況の変化が呑み込めていないようで、戸惑っている。だが、酒木は我慢の限界が来たのか、持っていたラケットを振り上げ、もう一度恋華にたたきつけようとした。だが、どこからともなく現れた来屠が酒木の腕を引っ張る。
「あぁあっ!テメェ。なにしやがっ・・・。」
その瞬間、来屠が酒木の腕に少し振動を与えて引っ張る。すると、強く引っ張ったわけでもないのに大きく転ぶ。1mくらい先で、酒木がしりもちをつきながら、喚くが、リアがそれを手で制し、酒木の背後にいた人々を紹介し始めた。
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リア曰く、登場した人物はリアの伝手で来た医者2人と弁護士4人、さらには科捜研の人が3人ほどだった。
「こちら、恋華さんの体育の服の靴跡と、酒木博人の靴が一致した報告書です。さらに、ラケットに付着している血液と恋華さんの後頭部にあった傷が一致したという報告書です。体操服の肩の部位に酒木博人の指紋がありました。」
科捜研の人と医者がリアと弁護士、基山に検査結果と思われる書を見せる。基山はそれを何度も見た後、酒木を見る。酒木は奥歯をぐっと噛みしめて、リアと私を見る。
「この行動から、酒木博人容疑者は恋華さんに対して、何かしら誘惑行為をしたと思われます。」
科捜研の男性が言った。さらに、
「隣でサッカーをしている男子生徒数人からそういった行為をした後、ラケットで殴っているという証言を得ています。」
弁護士が言った。
「これは刑法204条の傷害罪に当たります。さらに周りにウソの証言や差別の度が強い発言をしているところから、恋華さんの権利を侵害しているので、刑法230条の名誉棄損となります。これは基山神俱斗さんにも当てはまります。」
畳みかけた。
だが、酒木はよっぽど何か私に対して因縁があるのか、「証拠出せよ。」だの、「月之宮の差し金だろ。」、「ウソ信じてるだけだろ。」と、抗うが、来屠がポケットから出したそれに驚いて、絶句する。それは、
「これは脳筋にも分かるミニサイズの時計型の録音機だ。もしもの時のために、リアに渡していた奴だ。これにはテニス中、またテニス前の差別発言の全てが録音されている。中身は、弁護士らに確認済みだ。」
と、言って来屠は録音機の音声を流す。そこには私や鏡花ちゃん、紗耶香に優慶、樹に対する悪口が詰め込まれていた。聞いていた基山は唖然としており、酒木は顔を青くしていた。
音声の全てが録音機から吐き出された後、弁護士が「これでも納得しない場合は、・・・」と言った瞬間、基山はまっすぐと私と鏡花などの人に対して頭を下げた。
「すまない。まさか酒木が言っていたことが全部嘘だったなんて、申し訳ない。」
すると来屠君が口を開いた。
「多分その有様だと過去に同じようなことが何回かあったと思うんだけどさぁ。まぁ、『正義』だの『悪』だの人の過去と情報だけで決めるのはさぁ、君らの権利じゃないよねぇ。」
基山が驚いた眼で酒木を見る。その表情にはうっすらと怒気を孕んでいる。そのあと、酒木の肩をがっしりと摑む。
「まさかっ!!あの時の騒動もお前の仕業だったのか!!」
基山の目じりに涙が溜まっている。感覚的に裏切られたという気分なのだろう。しかし、『あの時の騒動』に基山の脳内に死んだ目をした少女が映っていた。一瞬で消えたので深くは見えなかったが。
酒木は背をびくッと跳ねさせ、おどおどし始めた。そして腹をくくったかのように真剣な目つきで怒鳴った。
「だってよお、アイツオレを振ったんだぜ。イケメンで運動ができるオレが告白したのにアイツ振りやがったんだぜ。ちょっとばかし有名な美女だからって図に乗った罰だぜ。オレは絶対悪くねえもッ。」
パンッと快音が響いた。基山が酒木を平手打ちをお見舞いしたのだ。なのをされたのか状況が理解できない酒木は目を白黒させている。
「酒木、君とは絶交だ。今まで騙されていたのが馬鹿らしいよ。これは友達にも伝えるし、君の弁護は一切しない。」
酒木は「え?嘘でしょやめてよねぇ。あ、謝るから許してぇ。」と半泣きのような状態である。どうやら基山に絶交されることは学校内の社会的抹殺を意味するらしい。その場には酒木の泣き声以外何の音もしなくなった。
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結局、酒木の親が謝罪と治療費を出しその傷害事件は幕を閉じた。しかし酒木本人からの謝罪は一個もなかった。
明日は星章教本部に全生徒が参拝する日だ。
そして、さらにもう一個厄介事に巻き込まれることをこの時の恋華は予想できなかった。




