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神様の恋バナ!  作者: 原初
1/8

入学式当日

 「神は死んだ」と、古代の哲学者ニーチェは言った。そのころの時代はまさに宗教ブームで、ニーチェの考え方はひねくれており、「異端だ」と言われていた。現代社会においても、ニーチェのような考え方を持つ人間は人間や社会になじめない。だとしてもニーチェの言ったことが全て間違っているとは証明できない。しかし、もし、本当に神様が存在していたのなら、・・・・・



 プロローグ 「入学式当日」

 

 4月2日、それは世界にとってはあまりに小規模だが、日本にとっては一大イベントである。それは入学式。21歳未満の人々にとっては新しい出会いと生活の宝庫である。青春を謳歌し、テストの点数で盛り上がり、教材と宿題の多さに絶望する。同じようにこの高校、星章学園高校もまた入学式当日で大賑わいである。そして、その学園から3キロほど離れた地点のとある家にて神様がいた。

 その家の住人は98歳の老人で孤独死で死んだため、神様が直々に魂を連れて行き、残留思念の回収に来たところであった。神様は色や形、大きさが決まっておらず、外見からでは「よくわからない」の象徴と言っていい。そんな神様は残留思念を拾っている中、違和感を覚えた。その違和感は悲しみと後悔と絶望で埋め尽くされていた。神様は何万年何億年あらゆる残留思念を拾ってきたためマイナスの感情がある思念など拾い飽きたくらいだ。だが、この思念は違った。稀に拾う思念の中でも別の輝きを持っていたからだ。神様は興味を抱き、その思念を覗く。


     その思念にはたった一言だけ刻まれていた。


 覗いた後、神様は疑問に思った。言葉の意味が分からないわけではない。だが、その言葉の奥にある、暗示されているものが分からない。真なる苦悩。今まで生きてきた進化し続けてきた動物の一生や文学作品、文化に法則、思想や音の全てを総結集した知識をもとに解析しようとしても駄目だった。だからこそ、神はその言葉の真意を探るべくこの世界に自分の存在を人間として定着させる。ほんの一瞬にして、神は女子高生となった。容姿はまさに豪華絢爛や美麗といった言葉を並べても足りないほど美しい人であり、声音もまたアニメのヒロインの声のそれだった。髪は漆黒で、横腹に届くほど長く、ドレスより和服の方が似合そうである。着ている服は星章学園高校の制服だった。

 「・・・・っ!女性だから私っていうのが正しいのか。・・・・」

 長年声を全く出していないため自分の声に驚く可愛い神様。ついに自分の変身した性別すらも忘れたかと言えるレベルのボケ。

 「・・・・とりあえず、名前は、・・・・この家の住人の名前でいいかな(思考放棄)・・・」

 と言い、神様は何事もなく健康保険書を机の中からごそごそと引っ張り出し名前を確認する。人の姿なので他人からしたらただの泥棒にしか見えない。

 「・・・・ん?この単語なんて書いてあるんだ?・・・あっ・・・・ここ日本か。なら日本語でいいのか。・・・・・ええと、上野恋華かみのれんかか。」

 おめでとう!神様は上野恋華になったよ。

 そんな感じのアラームが恋華の頭に響く。

 (この季節になると入学式か、私も高校生だしな。えーと、学校名は、・・・星章学園か・・・・確か今日だったな。む、入学式まで残り20分か、まぁ、飛べば何とかなるな。)

 と思い窓を開けた瞬間、恋華は現実を突きつけられた。

 (そうだった・・・・人間が高速で空飛んでちゃ不自然極まりないな。かといって、体育館に直接出現するのもあれだしな。)

 結論。

 「走るしかない。」

 次の瞬間、神様が現実の厳しさに従った。


===========================================================================


星章学園高校から約2キロ離れた地点。簡単に言えば歩道。そこを恋華は突風の如く走っていた。ように見えるだけであって、ガチの突風になってるわけではない。一回走るたびに1m幅で空間を飛ばしているのだ。

 (ああもう!人間の身体って本当にめんどくさい!関節って何よ関節って!)

 いくら神様といえど、人間の常識に乗っ取って運動するとなると至難の業である。自分で人間になっておいて人間の身体の不便利さを愚痴りながら走っている。目の前には信号があり、少なからず人が並んでいる。

 (--?なんであの人たちは止まっているのだ?・・・・あぁ、信号待ちか。面倒くさい。6mほど空間を飛ばしてばれないように移動するか・・・)

 と、神様にしかできないズルをやろうとしたその時だった。

 「あ、ボール・・・・」

 信号の最前列に並んでいた幼い男の子が持っていたボールを誤って落とした。ボールはコロコロと道路へ転がっていき、男の子は、母親が気づかない間にあの世への片道切符を手に駅へ向かっていく。そして、何事もなく転がるボールを取り、母親のところに戻っているならまだ間に合うが。

 「わああ!すっごい大っきいクルマだ。かっこいい!ねぇねぇママあれ見て。」

 アウトだった。

 男の子は初めて見るのか大きいクルマ(大型トラック)を指さし興奮している。大型トラックはこちらに気づいていないのか距離を縮めてくる。そして、肝心の話しかけられた母親はスマホのゲームに夢中なのか、「あ~はいはい。大きいでちゅね~。・・・よし、9000ダメージ!これで倒せ・・・は?8000以上のダメージ無効?ウゼぇ。マジウゼぇ。キチガイじゃん。ありえねーし、死ね!さっさと死ね!!」という子供の前で下品な言葉を連続で使い、子供の感受性と現在位置や状況を全く無視してゲームに没頭している。周りの人もスマホや新聞をめくりながら待っているので、誰一人として気づく様子は無い。だが子供は子供でそんな親の反応にあまり興味を示さなかったのか、「近くでオーライしていーいー?」と聞く。親は本当にスマホに夢中なのか、「行っといでー。」と子供に印籠を渡す。男の子は知らず知らずで印籠を受け取り、「おーらい、おーらいー。」と片手をぶんぶん振り回して言う。トラックの運転手は子供の存在にまるで気づく様子がなく、早く取引先に向かわんとしてアクセルを踏み、一段と速度を速くする。そんな様子を傍らでずーっと見ていた恋華(神様)はというと。

 (残り10秒もしないであの生命は終わりを告げる。だれにも気づかれず、自分のしていることの良し悪しすら分からずに、・・・・)

 と、哀れな目を子供に向ける。助ける気はなさそうだ。だがそんな考えもすぐに破られる。

 (はぁ、みじめな人生だったねぇ。死んだらまた魂と思念を拾わなくちゃならないなんて面倒くさい。・・・ん。待てよ。・・・死んだ後の魂と思念を拾うのにはかなりの時間がかかる。・・・そうなると私は問答無用に入学式に遅刻する。・・・・・・・・・・・・・・・)

 そして次の瞬間。

 「やっぱ無し!死ぬな!!めんどい!」

 恋華は美声で怒声を発し、周囲の人が刹那新聞やゲームという檻から脱する。母親以外は。だがそれでいい。周囲の人々は結局前を向いているため、いやでも見ることになるのだ。恋華は細い足を軽く地面に当てる。この瞬間、恋華は世界に存在するベクトルの全てを掌握し、操作し、子供とトラックの間にあるアスファルトめがけて発射する。発射されたベクトルはアスファルトの地面を割り、2m程のすき間をつくった。勿論、目の前で急に地割れが発生し人々が慌てるが、更なる衝撃が蹂躙する。

 突如、金属が内側から破壊されるような音が聞こえた。

 道路を突っ走っていたトラックのタイヤが地割れに入り、フロントバンパーが悲鳴をあげて、ありもしない方向に捻じ曲げられる。

 トラックの動きが止まった。中にいる運転手は前方不注意により神様の慈悲を与えられず(神様も運転手までは考えていなかった)、慣性の法則によってエアバッグにたたきつけられる。

 トラックが止まって十数秒が立ち人々(母親含む)が一瞬の悲劇回避から現実に帰還する。子供は興奮と驚きを超えて泣き出し、大人たちは子供に駆け寄り慰める。神様はその光景にフッと口をゆがめさせると、ちょっと距離を伸ばし、空間移動した。最後に一言だけ残して。


 「答えが見つかるまで人が死ぬことを停止します。その他生き物の死骸の魂、思念は私の複製体にやらせます。」


=============================================


星章学園高校の体育館は日本の中でもTOP3に入るほど巨大で、運動部の活動が盛んである。今日は入学式で大人数が体育館に出入りすることになり、体温による室温が6度ほど上昇して室内熱中症になってもおかしくない人がたくさんいる中、入学式が始まった。神様は絶大過ぎる美少女なので、彼女の座る席から半径3mの中にいる人は、いろいろ語りまくっている校長先生より、口元の動きや瞳の大きさの変化が気になって仕方がないらしい。勿論神様はそんな輩が思っていることなんてすぐにわかるのだが、神様は別のことに驚いていた。それは、

 (あの人間、後頭部に毛が生えていない!私の知らない間に新しい人種が出来たのか!ええ~、今まで大量の生き物の死体を見てきたけど後ろだけ毛がない人間がいるなんて、スベスベマンジュウガニとかこの前逝ったお年寄りと比にならないほどのテカテカさ!わ~触りたい!清々しいほどツルツルしてそう!あ~、触りたい!ちょっと時間を止めて触りに行きたい!!でもこの年になって他人の頭をわざわざ触りに行くなんて恥ずかしい!でも触りたい!・・・・・・)

 と、瞳を真夏の海みたいに輝かせて先生のハゲ頭に絶賛夢中である。しかも、周りから見たらちゃんと先生の話を聴いている真面目な可愛い同級生に見えているため、だれも彼女の目がおかしいとは気づかない模様である。

 「・・・・・・・・では、次に生徒会の活動や学校の基本方針について紹介します。」

 長々とした校長先生の話が終わり、ステージから去っていくと、生徒会の委員長がマイクを片手に姿を現す。後ろには副部長や委員の人がついてきている。ステージのちょうど真ん中に立つと、委員長が声を発した。

 「私は2年3組の宮田弘和みやたひろかずです。現在、生徒会委員長を務めております。」

 委員長の宮田はがり勉オーラを溢れさせてそういった。宮田は眼鏡ををかけており、いかにも全ステータスを勉強に注ぎ込んでいますと言わんばかりのカリスマ性を持っている。

 「生徒会の今年の目標は他の学校と違い、我々独自で編み出したものです。『令和の新時代・一人一人が皆と協力し合い、成長する!!』、というものです。」

 自信満々に胸を膨らませ、宮田は高らかに宣言した。周りからは拍手が起こり、委員長に賞賛を送っている。恋華は神様なので、委員長が今日いうコトすべて把握済みである。なんなら未来ももうわかります。と神様はそう思っていた。

 「学校の基本方針ですが、星章学園は深い伝統のある星章教を信仰している学園です。星章教は信仰すると苦しみや悲しみから守ってくださる他、週に一度星章教本部近くの山から流れ出る湧水を飲むと、願いが叶うほか病気を治す、一年間病気にかからない、必要なお金が手に入るなどなど絶対的な星の力で世界をより良い方向に導く。それが明天星皇大神であります。」

 と、さらさらと校内の規則身だしなみを坦々と説明していく宮田。

 一方、恋華は、

 (今日はこの後何も起こらずに解散になるな。ん、私のことを気に入った男子が数名声をかけてくるのか。お、女子友達が3人、男友達が5人できるのか。)

 未来を見ながらそう思っていた。宮田が、

 「では、何か質問はありませんか?」

 と、最終確認を取る。恋華は特に何もなく終わるな。と、思った。だがそんな未来はない。変えてしまったのだ。彼女が。この世界を。

 「はい。」

 藪から棒とはまさにこのこと。不意を突かれて、宮田は少し動きが止まったがすぐに眼鏡をあげると、答えた。

 「はい。何でしょうか?」

 アウトだった。今から委員長、宮田が公開処刑される。惨忍に、冷酷に、袋のネズミだ。委員長はそんなことも知らず、処刑台に自ら赴く。

 「はぁ、委員長。目標、変えた方がいいですよ。・・・・」

 「む、どういうことかな。何か不満でも?」

 執行人は、眉を暗くし、心底嫌そうな声で言葉という拷問器具を引っこ抜く。

 「あのさぁ、今僕は君に対して質問をしたんだ。君は今さっき『質問はありませんか?』て言ったよね。なのになんで僕が質問されなくちゃぁならないんだい?それにさ、続きを言おうとしたのに途中で反応したでしょ。他人様が話してるのに途中で声をはさむとかさ、君いったいどういう了見なんだい?学校で先生言ってたでしょ。『人の話は最後まで聞かなければならない』ってさ。はぁ、まさかとは思うけど、生徒会委員長だから途中で割って入ってOKみたいな?あのさ、そういうの権利の乱用っていうんだよ。委員長なんだからさ。そこらへんはちゃんとしてほしいんだよね。」

 委員長は少しビビり、そのあと後輩の目の前で恥をかくわけにもいかず、軽く謝罪する。

 「で、まぁ本題入るんだけどさ、一人ひとりが皆のために協力して共に成長ってさ、何で僕が皆の成長を手伝わなきゃならないのかな?それはつまり、一人じゃなんもできない残念君がこの学校には多いから、みんなで助け合いましょうねーってこと?あのさ、この世界は残酷なんだよ。そんな世界で助け合うって夢見過ぎない?この世界は蹴落とし、裏切り、平和のレッテルはって生きてる連中の代名詞なんだよね。そんなことやってちゃぁさ、他人まで巻きこむじゃん。しかも協力ってさ、あのさ、協力の意味知ってて使ってる?」

 「力を合わせる」

 「逆説は?」

 「・・・・ない」

 宮田の顔がだんだんと恐怖を帯びてきた。

 「はぁ、勉強が足りないなぁ、あのさ、協力するの逆説は、『今まで一人で努力してきた人を否定する』っていうことなんだけどさ。ここにいる生徒は全員受験のテスト一人でうけたんだろ?まぁ、テスト中協力するっつうことしたやつは反則行為で受験失敗してるんだろうし。」

 執行者は声を一段と張り上げ、体育館全員に聞こえるように「つまり、」に続けるように言った。

 「今この中にいる生徒さんを否定するってことだろ。はぁ、別にさ、意見の自由なのは間違いないんだけどさ、人の人権を侵害するってさ、どうなの?何様のつもりなの?ままごとしたいんなら幼稚園に行きなよ。そんなことも分からないなんてさ。あれだよね。人への敬意が足りないと言うか、怠惰というか、まぁ簡単に、君に分かるように言うとね。人への配慮が足りないんだよね。君はさ、委員長ってだけの位置づけであってさ、別に偉くもなんともないのにさ。他人を同一視しすぎるんだよ。」

 宮田が額に汗をかき何とか言い作ろうとする。

 「いえ、別に否定しているというのではなくてですね。・・・協力だっていい言葉ですよ。」

 「綺麗ごとだけどね。まぁいい言葉じゃないの?でもさ、人にだって価値観や意見があるんだよ。それを無視して協力とかさ、君いったい何年生きてるの?そんな目標一生かなわないしさ、あ、君は『平和』が存在すると思っている人種か。ならわかるよ。どうせ大人になったら過去のこと忘れて弱肉強食の世界にいくんだろ。そういうこと言ってるやつが一番裏切る。今そうでなくともいずれ裏切る。ああそうそう、別にさ、君の価値観を否定しているわけじゃぁ無いんだよ。ただ単にさ、君の幻想ごとを他人に押し付けないでくれるかな。僕ら後輩にとっちゃいい迷惑なんだよね。」

 執行人の近くの人間は最初は「何言ってんだこいつ」という目を向けていたが、やがてその数名が、「ああ、なるほど。そういう考え方もあるのか。」と納得し始め、それが伝染して保護者やその他の先生も納得する。

 (え、何で質問するの?このまま終わりじゃないの?おかしいな。未来にはそう記されているのにな。)

 と、異常事態のイレギュラーに戸惑う恋華。執行人は委員長の首を切断しようと、逆説のギロチン代を用意する。委員長は立場的な意味も含め、逃げまいとしギロチン代にプライドという首を乗せる。

 「まだ言いたいことあるんだけどさ。人の権利すら守れない委員長に言っても意味ないかな。はぁ、あのさ、君さ、どうせ内申点のために委員長になった人だよね。間抜け極まりないかな。」

 だが、言われっぱなしの委員長だはない。執行人の今の発言の隙を見つけ逆の立場にする。

 「君、君さ今私に対して『内申点の向上のために委員長になったんだろ』って言ったけど、それこそ決めつけですよね。今あなたの言った『権利の侵害』とはまさにこのことですよ。人を言う前にしっかり考えてから物事を言うべきですよ。ねぇ。あなたはそれくらいのこと、普通・・ですよね。」

 急にかしこまった顔に直り、反論の刃を突き立てるが、

 「あぁ、それね。今さっき君は、僕らに対して権利を乱用して僕の価値観を無視した。つまりさ、君も価値観を否定される覚悟ができているということだよね。しかも、今僕が君にしたのは『権利の侵害』じゃなくて価値観の偏見なんだよね。それすら分からないってさ、委員長失格だよ。君。被害妄想が激しすぎるんだよね。それにさ、そんなことを言うってことはさ、君はさ、自分の価値観が否定されることを容認していないみたいじゃぁ無いかな。君さ。人の人権や価値観を否定しておいて、自分はされたくないってさ、ほんと迷惑極まりないかな。はあ、委員長の面目丸つぶれだよね。ほんとこっちは不愉快でしかない。でもってさ、僕がこんなに指摘しているのに謝罪の言葉一つ言わないってどういう神経してるのほんと。まるで相手と話す意味がないみたいなさ、やり方がこの前脱税で捕まった政治家じゃん。いやそれよりたちが悪い。謝ればいいだけなんだ。それくらい君にだってわかるよね。別に土下座しろとは言っていないんだ。ただ一言、『ごめんなさい』と言えばいいんだ。ん?まさかと思うんだけどさ、できないの?いやいや、委員長なんだからさ、それくらいできて当然だよね。あのさ、早くしなよ。え、はぁ、あのさ、プライドがうんたらなんたらなのはさ、分かるけどさ。君はやっぱりさ、謝るのが怖いんだよ。でもさ、謝らなければならないよね。」

 宮田は震えている。自分の失態ではない。いともたやすく、あっけなく、簡単に、自分の考えを打ち破られたからだ。この17年間、宮田は勉強に全てを注ぎ込んでいた。法律や憲法、政治の仕組みや演説の仕方、社会に関わりのあることの全てを頭に叩き込んできたのだ。先輩になり、生徒会委員長に立候補されるように、毎日のように礼儀正しく、優しく、賢く、堂々として内申点、成績学年トップで支持率を上げてきた。この学年の中で一番の天才と称されていたのにだ。

 (何で何で何でだ!私は!この中で唯一の天才と言われた男だぞ。私はここにいる誰よりも努力をして、誰よりも優しくなり!誰よりも好かれていて、誰よりも人望のあるこの僕が!あり得ない!こんないとも簡単に僕が論破されるなんて!!!なんでだ!僕は!)

 苦悩に苦悩を重ね、ついに、かけていた眼鏡がずり落ちる。甲高い音を立てて眼鏡がステージの上を駆ける。目は驚愕に見開かれ、口は半開きになっている。途端、宮田の平常心がプツリと切れる。プライドを投げ捨てた。途端、殺気でいっぱいになった瞳をその後輩に向け、指をさす。

 「君!君は今先輩のこの僕に向かって『謝れ』って言ったよね!先輩には普通は敬語を使うんだ。後輩ならそれが当たり前!それなのに今僕に向かって敬語を使わないとは!偉そうに!たいして偉くもないくせに!実質的には僕が正しい!いいことを言って何が悪い!『協力』だぞ『協力』!こんなにも素晴らしい言葉‼この世にはない!ならば君が悪い!屁理屈並べて!この僕を陥れて!何がしたい!時間の無駄だ!今!君の言葉のせいで体育館にいる人全員が時間を取られて迷惑しているんだ!迷惑過ぎる!君は謝るべきだ!今!この場で!先輩に!委員長に!全員に!『私のつまらない質問のせいで、皆の時間を取ってしまい申し訳ありませんでした。』と!さっさと謝れ!」

 一気にまくしたて、宮田は落ち着き腕を下ろす。落ちていた眼鏡を拾いに行こうとすると、ふと委員長に声がかかった。

 「はい。何でしょうか。」

 宮田は落ち着き、質問者に目を向ける。

 「ちょっと皆様のお時間を頂戴いたしますわね。」

 そこにいたのは黒に紫の花が咲いている和服を着たおばさんだ。いかにも、「江戸から来ました」と言っても不思議ではない人で、おばさんなのに絶世の美女であった。すぐそばの女の子が何か言っている。その子の母親なのだろうか。その女子も女子で恋華と同じくらいの美人だ。おばさんは、扇子を開き、口元に当てると、委員長を指さし「おまえ」と言った。笑顔なのに何かとただならぬオーラが漂っている。

 「あなたは今、そこの坊やに向かってなんと言った?『敬語を使え』、『謝るのは君の方だ』、『みんなの時間を取っている』?人を指さして。私からしたら、可愛い後輩相手に逆上して自分は正しいの一点張り、人間は何かしらでお互いを敬わなければならないのに、自分から礼儀を捨てておいて『敬語を使え』ってねぇ、人は物じゃぁないんだから指をさしちゃぁいけない。でもあなたはそれをした。どう考えてもあなたがおかしい。しかも自分の非は認めずに他人のせいなんてねぇ、自分勝手にもほどがあるよ。それを認めずに勝手にキレて、うるさい言葉を吐いて、坊やの指摘すら踏みにじるなんて、あんたの方があの主張の長い坊やよりずっと時間の無駄だよ。」

 おばさんは優しいはずの声音なのに、どこかとげを持っているような辛辣な話し方だった。宮田の方は、完璧に度肝を抜かれている。そこへ追い打ちをかけるがごとく後輩が言う。

 「あのさ、今さっきいったよね。自分が相手に対して敬語を捨てたんだからさ、僕にだって君に対して敬語を使わなくていいってことじゃん。ここまできて、まだ謝らないなんてさ・・・・・・・あぁ、君、君さ、影武者じゃないの?」

 今度はおばさんが、少年の言葉に反応する。

 「ん?坊や、それはいったいどういうことか」

 「つまりさ、本当の委員長にこういうことを言えって言われていたってことだよ。ある程度は答えられる回答を用意していたけどさ、謝ることが予想外だったんじゃないかな。謝ったらさ、本物に叱責されるからじゃないのかな。」

 「ほう、ということは、彼は偽物ということかの。なるほど。予定外の謝罪をしたら上になんて言われるか分からない。それほど本物はカリスマ性があるということか・・・・・・!!」

 途中で何か分かったらしく、おばさんが少年にしかわからないような相槌を打つ。少年はそれを受け取りステージの上に目を向ける。

 「じゃぁさ、本物出してよ。偽物の委員長。偽物がここまで知識がないとは驚きだよ。影武者だからさ、他の人よりは賢いと思ったんだけどさ。今見れば後ろについてきている副部長の方が賢そうにみえるよ。・・・・・・・ねぇ」

 委員長の首は取れた。彼は自由である。もうプライドだの委員長だのといったものはない。

 人とは、楽な方向に進む性質を持っている。それがどれだけ苦しかろうと、どれだけメンタルが砕けようと、それが今を脱するものであれば遠慮なく縋り付く。卑しく醜い動物である。

 

===========================================


 恋華が気づいたころには宮田は顔から出るものすべてを垂れ流し他の委員に連れられて外に出ていた。他の生徒からは、「あいつ何なの」や「誰得なのほんと」、「委員長が悪いけどさすがに言い過ぎじゃないあの生徒」、「あ~わかる。掘り起こさなくていいものを掘り上げた的な」、「ほんとそれ」、「顔見てないけどあんな奴と同じクラスだったら最悪~」という感じに、論破した少年を批判する声が多い。中には、それで友達を作っている輩が多い。恋華は混乱した。

 (なんで未来が変わってるの~。私なんにもしてないのに~。)

 と、自分のした行動を頭の中で振り返る。それでもわからないので、どうしようか悩む。

 「あの~~。」

 ふと声がかかり、恋華は後ろを振り返る。そこには今さっき少年を坊やと言っていたおばさん、ではなくその娘と思しき女子が話しかけてきた。恋華と同じロングヘアーで髪は金色、瞳は大きく、西洋の服が似合いそうな美少女。恋華は周りの女子のような口調で返事する。

 「何ですか?」

金髪の女子はその返事の仕方に安堵したのか急に、

 「ごめんなさい。」

 謝った。された恋華側も自分の行動の何が悪かったのか、それともこれが日本の風習なのかと頭を回転される。

 (えええええええええええ!ん?なんか引っかかるような、あ、気のせいか。)

 考えてもわからないだろうと思い恋華は思考放棄する。そこで、ご本人に尋ねることにした。

 「まず、あなたは私に何かしたのかしら。まったく身に覚えがないですね。」

 懇切丁寧に尋ねると、金髪の少女が答える。

 「えと、・・・・・・私のおばあちゃんが出しゃばっちゃって、・・・・・その、・・・・迷惑になったかなって、・・・・・・。」

 なんだそんなことかと思う神様。一瞬逆にこっちが謝りそうになったわ!と心の中でつぶやく恋華。

 「ううん、そんなことないよ。私にはあの会話ちょっとよく分からなかったな。あなたは分かったの?それより名前は何?私は上野恋華。」

 「ちょっと一気に質問されると困る。えぇと、私もあの話は分からなかったかな。名前は、・・・その、・・・・月之宮リア(つきのみやりあ)。」

 縮こまって、顔を赤くして答える。「ハーフで・・・・」とか言ってるが、恋華は良く分かっていない。ただ一つ、分かることと言えば、

 (友達出来ちゃったーーーーーーーっ!人生初の友達!これが話しかけられた時の感触か!)

 感覚だけ半分くらい人間になっていた。

 


7千字くらいのつもりが1万字ほど書いてしまいました。プロローグから長いなと思いますが全てセリフの長いわき役のせいです。

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