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目立つとロクなことない……本当に。  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
episode2 球型戦艦〈マクスウェル〉
9/21

第八話 古谷純平 職業――


「ちっ」


 思わず漏れた舌打ち。

 それは古谷未琴(彼女)が純平に対してキラーカードであることを示していた。


「保護してからずっと荒れている。君と会えないことがよほどこたえているらしい」


「――あいつには、手を出さないでくれ」


「わかっている。子供に罪は無い、然るべき場所に預けるさ。だが……君が一番わかっているんじゃないか? 君が牢に入り、離れ離れになれば、彼女がもたないと」


「…………。」


「君がこちらに何かしらの譲歩をしなければ司法取引は成立しない。君は古谷未琴と別れることになる」


 ブルー自身、切りたくなかった手札だ。


 未琴という存在が無ければブルーはおとなしく手を引くし、純平も投獄に応じるだろう。だが彼女の存在が事態を混沌とさせる。


 もし、傭兵団が生きていれば、ブルーは傭兵団の情報と引き換えに純平を釈放させることができたかもしれない。だがそれも叶わない。傭兵団は既に壊滅し、盗品は全て奪い返した。今の純平に軍の利益になるような資産は無い――純平自身の力を除いて。


「――応じるとしたら、俺はどこまで付き合うことになるんすか。まさか、一生軍に縛り付けるわけじゃないっすよね」


「仕事場は新設の遊撃隊になるだろう。期間は遊撃隊の第一目標、〈ホルス島〉の奪還までだ」


「ホルス島って……帝国に要塞化されてる場所じゃ――」


「そうだ。ホルス島を奪還できればそのまま要塞を使って防衛線を張れる上、潜水艦の燃料でディアーナ帝国の領土まで往復できるようになる。間違いなく重要拠点だ」


(そこに遊撃隊で突っ込むのか? 頭おかしいんじゃないか?)


――しかし。と純平は一考する。


(あの島に向かうなら乗り物は戦艦の可能性が高い。なら途中で補給ポイントを使うはずだ。確実に港は経由する。そこで船を借りて逃げられれば……作戦決行の直前なら俺に割ける人員も居ないだろう)


 純平は算段を立て、諦めた風を装い肩を竦める。


「――負けましたよ。そこまで期待されちゃ仕方ない。貴方の下で働きましょう」


 ブルーは鉄仮面にヒビを入れ、口元を綻ばせる。


「ほ、本当か! ……よし、では早速手続きをしよう」


「その前に三つ、条件がある」


「聞こう」


「一つ、あの黒いLS2が盗まれた件……もう一度調べ直してほしい。そして、結果によってはお頭たちの罪を和らげてくれ」


「……わかった。わたしも、あの一連の事件は気がかりなことが多い」


「二つ、遊撃隊には古谷未琴も同行させてくれ」


「わかった。何とかしてみせよう」


「あと、これは条件と言うよりお願いなんだが、手続きは男性の軍人さんと済ませたい。異性相手じゃ色々と気を使うこともある」


 軍に入隊するならば当然健康診断を行う。その際に、女性を連れ歩くと互いに気まずいことがあるだろう。もちろん、純平がそんなことを気にするわけがない。本命は別だ。


 だがブルーはそのままの通りに受け取り、頷いた。


「いいだろう。わたしの部下を呼ぶ。よし、これで問題はないな」


(あっさり承諾したな。それにすごい嬉しそうだこの人……)


「これで取り調べは終わりだ。後のことは部下が引き継ぐ」


(取り調べなんて欠片もやってないだろうが)


 純平は「そういや」と一つ聞いていないことを思い出し、席を立ったブルーに尋ねる。


「名前、教えてもらっていいですか? まだ聞いてなかったんで」


「む。そういえば言ってなかったかな……これは失礼した。私の名は〈ブルー=ロータス〉だ。これからよろしく頼む」


 純平は差し出された手に応じながら、「ブルー=ロータス?」と目を丸くする。


(おいおい、〈月下の女王〉様か!? COLORS三強の一角だろ……道理で、敵わないわけだ)


 純平はマメだらけの彼女の手を握りながら苦笑いする。


 相手にしちゃいけないリスト。と呼ばれる一覧表が傭兵団にはあった。彼女はその一ページ目に書かれている要注意人物。そんな相手に対し真っ向から対決した自分達の決断を純平は悔やんだ。


 その後、純平はGPS付きのリストバンドを付けることを条件に、釈放された。


『許可なしにこの街の外へ出たら、軍が出動し君を捕まえるから覚悟しなさい』


「はい」


『寮への地図と、次の給料日までの生活費はこのかばんの中に全部入れてあるから大事にしなさい。艦が発つのは一週間後、だけど明日仮入隊手続きをして三日後からこの本部で仕事してもらうからね』


「はーい」


 何階建てか数えるのも面倒な高層軍基地より外に出て、純平はぐっと背筋を伸ばした。


「あーあ。窮屈な世界になったな」


「――にいさん!」


 正面にある公園のベンチから褐色肌の少女が飛び出して来る。

 少女はそのまま純平の胸にダイブした。純平は柔く、軽い体を取りこぼさないようしっかりと抱きしめる。


「琴……いきなり飛びつくな。腰にくる」


「もー、LSにばっか乗ってるからですよ。もっと外で運動しないと!」


 未琴と手を繋ぎ、見慣れない首都の街道を歩む。


「ききましたよにいさん! これから、軍直属のパイロットになるんですよね?」


「いや、それはないな」


「え? でもわたしをここにつれてきたおねえさんは、そう言ってましたよ?」


「……軍で働くとは言ったが、パイロットになるとは一言も言ってないさ」


 古谷純平、彼の傭兵生活はこうして幕を閉じた。

 そして――




 三日後。2112年 7月7日




 ブルー=ロータス推薦、古谷純平。身長174㎝ 体重58㎏ 職業……〈()()()〉。初出勤日。



「整備士……?」



 目を疑うブルー。

 純平はピッタリの作業服とキャップを被り、適当な敬礼をしながらブルーに挨拶する。


「今日からブルー殿の専属整備士として配属された古谷純平です。よろしくお願いします」


「君は、まさか……」


――『負けましたよ。そこまで期待されちゃ仕方ない。貴方の下で働きましょう』


「はい、()()()()()()、働かせていただきます。手続きは全て、エイダンって人と協力して済ませました。整備士の親方の許可も取ってます」


 純平のすぐ側で、未琴もダボダボの作業服を着て敬礼していた。


「わたしも、てつだいます!」

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