第四話 選考開始
――〈超聴覚〉、養父は純平の能力をそう呼称した。
絶対音感を超える聞き分け能力と、超低周波音と超音波さえ捉える可聴域。1㎞先で落ちた針の音を拾えるほどではないが、1㎞先で稼働するLSの音を拾い、位置を把握するのは容易。さらに遠くの音でもLSほどの大きさの大群が来ていれば方角ぐらいはわかる。
純平の頭には類まれなる聴力を基にした〈聴域MAP〉が展開されており、耳栓使用時で100~200m、耳栓なしでは500~700mまでの距離のMAPができている。このMAP内なら無音領域と密閉空間を除き死角は無く、目で見るより多くの情報をインプットできる。
この聴域MAPを利用することで相手の死角に入り、己の視界がゼロになる暗闇からでも狙撃が可能。古谷純平は往来の眼を使うスナイパーではなく、耳を使うスナイパーなのだ。
「さてと」
純平はキーン……という音を拾い、通信をお頭に繋げた。
「LS二十二機、LS2が一機。先頭の奴がLS2だ。エンジン音も静かで、無駄な音がない。間違いなくリーダー格でしょう。上空にステルスを付けた爆撃機が二つ、近づいてきたら撃ち落としますが一応警戒を」
『よし、控え選手はいないか?』
「待機兵、援軍の気配はないです。こいつら追い返せば勝ちです、多分」
『わかった。LS2は俺と隼人、玄界で囲んで叩く。純平! 状況を作ってくれ!』
「はいはい……目立ってくださいよ、お三方」
LSたちの火花が夜空を飾った。
純平は対空砲を囲う班に指示を出す。
「対空砲を用意してください」
『待て純平! まだ距離が遠いぞ!』
「当てなくていい、存在感をアピールするだけで。弾切れの隙を狙って来たところを装甲車の砲弾で打ち払ってください。三番、四番は待機。敵右翼の中核が動き出すまではLSで端からネチネチ削って行きましょう。とにかく東北へ意識を向かせないように」
対空砲の火が吹き、COLORSのLSがダメージを負う。
対空砲を見つけた敵LSが接近してくるが、それを威力は高いが射程の短い装甲車の砲弾が破壊する。
「対空砲に構うな。どうせ当たらない。空から爆撃機で崩せば――」
ブルーは側に居た味方LSを突き飛ばす。同時に両機の間を光弾が通過した。
「……空に留まれば狙撃で落とすか」
影に潜む狙撃手からの脅迫を、ブルーは興味深く考察した。
「光下には居ない。暗闇から熱源を追って撃っているのか。いや、もっと違う要因か? ――面白いな。興味があるぞ、名も知らぬ狙撃手……」
ブルーのLS2の元に、派手な黄色のLSが威圧的に近づく。LSのパイロットは力の籠った声で苦言を呈す。
『ブルー! 後手後手ではないか! 賊に後れを取るなどソロム家の名折れ! ここは私が勇敢に先陣を切って――』
「いや、アルフレッド。君は四機ほど連れて東北方面の港へ向かってくれ。行く振りでもいい」
『何故だ!?』
「奴らが逃走先に選ぶのは軍の息がかかってないカール港しかない。非戦闘員が危ういとなれば兵を割くはず。対空砲の弾幕で気づきにくかったが、東の照明が意図的に削られている。まず間違いなく東側を意識しているだろう」
『さすれば陣形が崩れるか。――理解した! しかし、君はその間なにをしているのかね?』
アルフレッドの質問に対し、鉄仮面のブルーが僅かに笑みをこぼした。
「……面接だ」
『は? 面接!?』
「後の指揮はエルザ少尉に任せる」
『うへぇ!? 私ぃ!? ちょ、ちょっとブルーちゃ……大尉!!!』
ブルーは先ほどの狙撃の軌跡を辿って降下する。
青い機体がさっきまで自分が居た位置に向かうのを確認して、純平は胸を撫でおろした。
「よしよし。お利口さんだ。――ほら。出番っすよ、うちの三本柱……」
バッ!!!
青いLS2を三角陣形の中央に添えて、三機のLSが空に上がった。――傭兵団の長、烏丸レイジと幹部の淡玖隼人、木屋野玄界の傭兵団屈指の実力者たちがLS2を囲む。
『よくやったぞ純平!』
『後は任せな!』
『三対一、でも恨むなよ……! こっちも死活問題なんだ』
ブルーは興味ない、といった顔で三機を眺める。
「悪いな……君たちに用はない」
純平は自分の狙った通りの展開を見て、次の一手を考える。
(よし、これであの青いLS2は終わりだ。問題は東だな、あの音……一機良いエンジン音を鳴らす奴が向かっていった。アレは中々にやるぞ)
純平は経験から、LSのエンジン音で大体の実力を測る術を身に着けていた。
(後は空に残ってる中にも一機、綺麗なエンジン音の奴が居る。……多分、青いのを含めてこの三機を落とせば後は楽だ。最優先は東北、逃亡組の援護……!)
エンジン音診断は相手が強いか弱いかを大雑把に分けるだけで、細かく強さを測れるわけではない。
純平は、一つの誤算をしていた。
純平が行った戦力分析、状況分析は八割当たっている。だが、一番初めに重大な見誤りをしていたのだ。
――ブルー=ロータスが、国内三指に入る強者だという事実を、純平は知らなかった。
『がっ……!?』
『嘘だろ、コイツ!?』
純平が信頼していた三機の勇将たち。
それがモノの数秒で――
「おい、ちょっと待て……!」
壊滅した。
『逃げろ純平!!! コイツは、俺達素人が敵う相手じゃない!!!!!』
青い流星が、まっすぐ純平のLSへ向かってくる。
(ふざけんな、なんつースピードだ! 駄目だ! 躱せない!?)
速度の付いた蹴りが、純平のLSに炸裂し、そのまま20m森の中を引きずった。
「ちぃいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!」
純平の黒のLSを蹴り飛ばし、青いLS2は夜空を飛ぶ。
「まずは、志望動機でも聞こうか」
――『にいさん……わたし、見えるの。すごく、おおきなちからを持った人が……近づいてきている』
「琴……お前の勘は、本当によく当たる」
LSとLS2はそれなりの性能差があります。と言うのも、海に対応できるから自然と強くなった……というよりは、ただの新型旧型の差です。
LS2は新型兵器で量産型も無い=すべてが固有の機体
LSは旧型兵器で量産型が多い=その他大勢の印象が強い?
中には固有のLSもありまして、アルフレッドなどはその類です。まぁそれでも、LSの時点で旧式なのでLS2には劣ります。うん、馬鹿な自分では説明が難しい( ´艸`) なのでここで休題!!!ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ