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目立つとロクなことない……本当に。  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
episode1 月下の女王と日陰の支配者
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第三話 欲があったな

 この傭兵団に対して、さして思い入れも無い。だが生きやすい。純平にとって生きやすさは全てにおいて優先される。純平一人ならば他にも多くの居場所があるだろう、しかし、



「にいさん……」



 純平は一人ではない。


 家族・恋人・恩人・親友。人間多くの弱点を持っているが、純平の弱点はこの娘をおいて居ないだろう。褐色の肌をした、銀眼の少女。容姿からでは純平と兄妹であることは誰にもわからない。


 暗がりで、壁に肩を寄せながら、〈古谷(ふるや)未琴(みこと)〉は純平のシャツに顔を埋める。その体は弱々しく、なにかの支えがないと立っていられないほどだった。


「琴。駄目だろ一人で行動しちゃ。今は非常事態なんだ、給仕のお姉さんたちと一緒に早く避難しろ」


「にいさん……わたし、見えるの。すごく、おおきなちからを持った人が……近づいてきている」


 妙な確信をもった妹の言葉を聞き、純平は一瞬苦笑いをしたあと、すぐに表情を無にした。

 純平は未琴の体を抱きかかえ、避難誘導をしている集団の方へと歩き出す。


「大丈夫。戦力はこっちに分がある……それに、なんたって兄ちゃんが居るんだぞ? 俺が負けたとこ、見たことあるか?」


「にいさん。にいさんは一度だって正々堂々と戦ったことがないじゃありませんか」


「いやまぁ、そうだけど……」


「ふふっ。でも、わたしは知っていますよ。にいさんは、正々堂々戦っても誰にも負けないって」


「純平君!」


 純平の元へ給仕の女性が慌てた様子で駆け寄る。


「ごめんなさい! 少し目を離した隙に抜け出して――」


 純平は女性に未琴を引き渡す。


「いや、おかげで良い事を聞けました。琴をよろしくお願いします」


 純平は女性に頭を下げる。

 妹をしっかりと見送った後、純平はイヤホンタイプの無線機でお頭の元へと通話を繋げた。



「お頭。警戒レベルをAに引き上げてください」



 傭兵団〈crow〉には四つの警戒レベルが存在する。


 警戒レベルD 殲滅隊形。相手を迎え撃ち、殲滅する。非戦闘員は基地の中へ隔離し、戦闘員のみ動く。派遣中の隊員は引き続き任務を続行。手の空いている者だけで戦う。


 警戒レベルC 抗戦隊形。任務中の者も呼び戻し、全員で対処する。基地の移動はないが、荷づくりだけは済ませておく。


 警戒レベルB 逃走隊形。食料や生活必需品をふんだんに持って逃走。余裕があれば金品や値の張る物品も持っていく。本基地を捨て、敗戦も視野に入れる。


 警戒レベルA 生存隊形。生存のみを考え、必要最低限の物資のみを持って逃走。戦闘員はギリギリまで戦場に留まる想定のため、個々で逃げる手筈を立てる。組織の存続よりも個人の命を優先。


 今までで一番の警戒レベルはBであり、今回も警戒レベルBで対処していた。警戒レベルBまでならまだ再建が可能であり、ある意味では最大の警戒レベルだと言われていた。


 Aを出せば、たとえ勝てても再建は難しくなる。当分は生きるための物資で経済は圧迫され、最悪そのままジリ貧だ。そう簡単に出せるモノではない。


『――未琴がなにか言ったのか?』


「はい。もしかしたらやべぇのが来てるかもしれない。事態が事態だし、正直敵戦力の想定はあいまいだ。こっちの準備は万全だから最悪の事態は無いと思いますけど、足が遅れると致命傷を貰う可能性がある」


『わかった。警戒レベルを引き上げる。即刻退去だ!』


 その時、キーン……と、純平の耳に音が響いた。


「ちっ」


 その音に気付いたのは基地の中でも純平だけ。純平は南西を見上げながら、お頭に告げる。




「吉報だお頭、予定より早く客が来たみたいッスよ」




―――――――――――――――




 寂れた工業都市にひっそりと建てられたアジト。

 夜中且つ森に囲まれた場所という条件も相まって視界はかなり悪い。暗闇の中、夜空に浮かぶは数十のLS。



(ともしび)を放て」



 先頭に居る斧を持った蒼の機体。そのパイロットであるブルー=ロータスの指示で暗闇を照らす持続照明弾、〈太陽玉(サンボール)〉と揶揄される光の玉が放たれる。


 太陽玉(サンボール)は一瞬で消える照明に非ず。パラシュートではなくLSと同じ月油(げつゆ)搭載重力制御装置で降下するため、一時間に渡り空に浮かび、光を発し続け、辺りを照らす。月の光からエネルギーを供給するため、エネルギー切れも起こさない。


 視界が明瞭になったところでCOLORSの面々は足を止めた。


「どういうことだ?」


 ブルーは驚いた。そこに機影が一つも無かったからだ。いや、機影どころか人影すら……


「場所はあってるはずだが……」


『ええ。人っこ一人居ませ――』



――弾丸と言う名の流星が、ブルーの背後のLSを貫く。



「――――!!?」



 姿勢制御の根幹である〈ポーズニュークリア〉、人間で言う仙骨の部分を破壊され、LSは森へと落ちていく。


「(狙撃か!?) ――エイダン!」


『心配ご無用! 脱出は容易です! それよりも我々を囲むようにLSの軍団が!』


 LSの光が夜空に浮かぶ星々のように真っ暗な森の中で瞬いた。




『いくぜ野郎ども! COLORSの犬どもを蹴散らせ!!!』




 狙撃を合図に一斉に飛び出すLSの軍団。囲むように設置された対空砲、それを守るように装甲車がある。円のように配置された敵を見て、ブルーは眉をひそめた。



「まさか、索敵で後手を取らされるとは。しかもこの配置、私たちが来る方向をわかっていたのか? いや、なによりも気になるのは今の一撃……()()()()()()



 戦いの火ぶたを切った一射を放ち、古谷純平は冷や汗を垂らしていた。



「おいおい……俺は二枚抜きを狙ったんだが。あの青いLS、死角からの狙撃に反応しやがった……!」



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