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目立つとロクなことない……本当に。  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
episode1 月下の女王と日陰の支配者
3/21

第二話 烏の群れ



『狙撃手は目立つな』



 古谷純平の耳に未だに残る養父の声。

 影の中で、一切の光を浴びず、大金を弾丸と人の命で買っていた狙撃手の言葉を、純平はよく覚えていた。


『影に潜み、光を嫌え。闇の中から的を穿て。お前の能力をもってすれば、そう難しい事じゃないはずだ』


――目立つとロクなことない。


 これは古谷純平にとって生涯の教訓となっていた。

 目立てば味方が増えるかもしれないが、同時に敵も増える。有名税……というのがあるように、目立つという行為には相応の枷が発生する。名を上げたことで金や名誉は手に入るかもしれないが、代償に自由と時間を失うだろう。期待という名の呪いは、人生を容易に壊す。


 現在、純平はそれを深く痛感していた。



「最悪だ……正規軍に、目を付けられた」



 目の前で、部下たちの前で冷や汗を流す男を純平は“だから言っただろうが”という目で見ていた。


 一週間前に舞い込んだある物品の引き渡し依頼。依頼者Aから受け取った物を依頼者Bに渡すという至極簡単な運送任務。これがえらい高額な報酬ときた。


 金に目がない傭兵団のお頭は意気揚々と任務を受諾した。だがしかし、渡された物品はウルス共和国直属軍〈COLORS〉から依頼者Aが盗んだ物だった……依頼者Aは依頼という形で傭兵団に盗品を流し、それをCOLORSに密告し、盗みの罪とCOLORSの最新鋭兵器を傭兵団に擦り付けたのだ。


 純平は全て見通していたわけじゃないが、依頼内容と不釣り合いな高額な報酬、そしてやけに不明瞭な依頼人の身分情報からきな臭さを感じ、お頭にストップをかけていたのだが――残念ながら滝のような金の前では純平の忠告は泡となって消えたらしい。


「だから言ったんスよ。話がうますぎるって……それでなくとも最近はでかい仕事を受けすぎて、少なからず軍の目に留まってたんだ。ただのゴミ漁りならまだしも、王冠つついたら烏だって指名手配されるさ」


 黒い一つ結びの髪、死んだ瞳をした青年がたしなめるように言うと、周囲の人間が視線を鋭くさせる。


 純平は己の主義に反して悪目立ちしてしまったことを悔やみ、口を閉じた。


「いや、いいんだ。純平の言う通りさ。くそっ! 完全になすりつけられた! 早ければ今日にも部隊を送ってくるだろう……ええいっ! 頭を抱えても仕方ない! 全戦力で先遣隊を迎え撃ち、尻尾まいて逃げるぞ!!!」


『イェッサー!!!』


「依頼品も盗品も構わず使え! 例のブツもだ! 積荷は絞れよ、最低限の物だけあればいい!」


「お頭! ならお頭のコレクションワインたちも捨てていきますか?」


「当然だろ馬鹿野郎!」


「でもお頭……お頭が何十年と守り続けた年代物のワインもあるんですよ! 奥さんとの思い出のワインも!」


「ふっ。ワインなんぞ無くとも、思い出には浸れるさ……いいから全部置いていけ」


 そう言うお頭の瞳には涙が溜まっていた。


 外の喧騒はお構いなしに、純平は壁に背を預けながら怠そうに目を瞑った。その頭の内では冷静な作戦会議が開かれていた。


(戦力は歩兵機20、二世代前の機体(LS)8と、自走式対空砲3通常の対空砲12。装甲車が6、プラス罠が多数か。十分だ。正規軍相手とはいえ、よほどの大部隊じゃなきゃ押し返せる。ウチの手練れたちも戻って来てるしな。最悪、例のL()S()()を出せば何とかなるだろ……)


 LS2とは陸(land)・海(sea)・空(sky)全てに対応した二足歩行の機兵を指す(地上・空中のみに対応する機体はLSと呼ばれる)。


 このLS2は未だに個体数が少なく、一般ルートで手に入ることは無い。これが今回の騒動の核となった物品だ。正規軍にとっても当然貴重であり、これが盗まれたとなればちょっとした問題である。ゆえに起きた非常事態。


 純平が戦力を整理し終えると、誰かが純平の肩を叩いた。純平は目を開かずともそのゴツゴツとした大きな手がお頭の手であることに気づいていた。


()()は外しておけ。お前の耳が頼りだ」


 純平は両耳を塞ぐ耳栓を抜き取る。


「それにしても、今になってお前の親父さんの言葉を思い出す。目立つな……目立っていいことないってな」


「それは、狙撃手の話でしょ。組織の頭は目立ってなんぼ。今回はドジを踏んだけど、一度の失敗でこれまでの全てが否定されることはない」


「……もし、これで全滅にでもなれば、全て台無しさ」


「そうはさせませんよ。アンタには妹と俺を育ててもらった恩がある。こんなところで、アンタの顔を潰させはしません」


 純平はポケットに手を突っ込み、背中を丸めて通路の影に身を投じていった。

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