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第十九話 人種の差

 純平は「あの二人で……?」と眉を揺らした。


「あの二人が固まってようやくまともな相手一機と戦える。大前提として、わたしたちは単機で立ち向かわない。徒党を組み、帝国の機体を囲んで倒す。数で対抗しなければならないほどアトラス人と彼らが扱うロボット――〈Resonance  Doll〉、通称“RD”は強い」



「あんたでも単機じゃきついのか?」


「――一般兵相手なら軽く捻ってやる。しかし……〈イガルク一族〉。奴らが相手なら話は別だ」


 純平は〈イガルク〉の名を聞いて、舌打ちした。


「――帝国の皇族か」


「ああ。現皇帝の十一人の子供たち。彼らは四つのランク付けをされている。〈異流血統〉、〈上流血統〉、〈中流血統〉、〈下流血統〉。上から順にパイロットとして優れた才覚を持ち、的確で長い〈月詠み〉の力を持つ」


 月詠み。それはアトラス人にのみ宿る“直感の力”。

 純平はその能力に心当たりがある。


「月詠み……月の声を聞き、未来を読むとかいうふざけた力か」


「未来予知は言いすぎだが、たしかに〈月詠み〉と呼ばれる直感力は存在する。奴らイガルクの子供たちの〈月詠み〉はそこらのアトラス人とは比べ物にならない。こちらの動きが全て空振るあの感覚は……ゾッとするものがある」


 次なにをすればいいか。相手はなにをしてくるか。人は経験則から判断する。だが、アトラス人は経験がなくとも対応してくる。未来予知に近い、先読みの能力。これがアトラス人と他民族の大きな差。


「わたしを基準に説明するなら、そうだな……下流血統が相手なら九割方勝てるだろう。中流血統で五分、上流血統が相手なら――十回中九回は負ける」


(おいおい……! このブルー(化物)相手にそこまで勝てる奴が――)


「そして異流血統……いま確認されているのはたった一人だが、奴相手に一対一なら必ず負けだ。もし、ホルス島の防衛に上流血統以上が二人以上出てくるものなら――我々は、確実に負ける」


「上流血統は何人いるんすか?」


「四人だ」


「……微妙な所だな」


 ブルーが九割方負ける相手が四人、そして確実に勝てない相手が一人。


(イガルク一族か……)


 純平は忌々し気にその名を心の内で木霊させる。


「そう恐れる必要はない。君の耳は、彼らの〈月詠み〉を超える能力だとわたしは思っている」


「ま、月詠みに対抗するために()()()()能力ですからね」


「――例の研究所。対アトラス人のために設立された研究所か」


 純平は視線をブルーに戻す。


「やっぱり俺の素性は調べていたか」


「君がやけにCOLORSを嫌うのもそれが原因なのだろう?」


「その通り。あんたらは包み隠してるがな、俺は絶対に忘れませんよ……」


 純平の頭の中にフラッシュバックする、いつかの妹の声。


――『にいさん、いつか一緒に帰りましょう。そしたらまた……』


 泣きそうな声で、笑顔でそう言った彼女の言葉を純平は思い出す。


「あの地獄を。そして、あの地獄を作り出したCOLORSを、俺は忘れない」


 純平は真面目な顔をしたことを後悔し、軽快な口調に戻す。


「聞きますか。電極を耳にぶっ刺された話とか、あの研究所で行われた数々の非人道的行いを……」


 ブルーは「必要ない」と返す。純平は彼女が臭い物に蓋をしていると感じ、寝返りをうって顔を逸らす。しかし、続く彼女の言葉を聞き、体を起こした。


()()()()()()()


 純平は眉を細め、「まさか」と呟く。


「わたしも君と同じ、アトラス人に対抗するため弄られた人間さ。同じ地獄出身者同士、仲良くしようじゃないか」


「…………!」


 ブルーは書類をまとめ、立ち上がる。


「これからマクスウェルは海を渡り、ホルス島直近の港〈ジュディック港〉に寄ってから、まっすぐホルス島へ向かう。暫く戦闘は無いと思うから安心して休め。とりあえず今日一日は絶対安静だ。わたしはこれで失礼する」


 ブルーは部屋を出る。

 一人取り残された部屋で純平は不機嫌そうに体を寝かせた。


(なにをムキになってんだが、らしくねぇ。どうせあと少しの付き合いだ。目立たず、友好的に、穏便に過ごせればそれで――)


 純平が瞼を閉じようとした、その時――鼓膜を突くサイレン音が艦内に響き渡った。


『海上にてRD八機確認! 総員、第一種戦闘配置!!』

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