表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

第十七話 イガルク一族

 ディアーナ帝国。


 そこに住むのは灰色の肌をもった種族、アトラス人だ。

 アトラス人は特別な【直感力】、【体力】、【情報処理能力】を持っており、他の人種より大きく優れる。他民族に劣る点があるとすれば直射日光に耐えられない肌の弱さと――排他的なその思考。



「では家族会議を始めようか。我が子たちよ」



 ディアーナ帝国〈イガルク一族〉。皇族である。

 優秀なアトラス人の中でもさらに上澄みの能力を持つ人類の頂点とも言える血。現帝国を従えており、当主の〈チャンドラー=イガルク〉は皇帝である。


 妻の数は4(全員死去)、子の数は12。

 皇帝は12人の子を円卓に集め、家族会議と言う名の帝国軍事会議を開いていた。


長女〈アリアンロッド〉 (24歳 身長178㎝ 体重62㎏)

次男〈ンガリン〉 (24歳 身長208㎝ 体重128㎏)

三男〈ソーマ〉 (21歳 身長158㎝ 体重50㎏)

次女〈デーリア〉 (19歳 身長198㎝ 体重82㎏)


 上記四人の子供たちは〈上流血統〉と呼ばれ、他国にも認知されている傑物たち(瞳が金色なのが特徴)。血統ごとに共通の母親から生まれている。上流血統の母親は帝国屈指の貴族ベンディス家の出身〈メーネ〉。


四男〈ワッド〉 (19歳 身長192㎝ 体重79㎏)

三女〈パフ〉 (17歳 身長152㎝ 体重39㎏)

五男〈エラサ〉 (17歳 身長180㎝ 体重68㎏)


 中三つは〈中流血統〉(瞳の色は銀)。母親は皇帝の従姉の〈トリウィア〉(つまり近親婚)。


六男〈イアフ〉 (16歳 身長170㎝ 体重70㎏)

七男〈リーロ〉 (15歳 身長165㎝ 体重82㎏)

四女〈ロナ〉 (15歳 身長166㎝ 体重45㎏)


 下三つは〈下流血統〉(瞳の色は銅)。母親は市民の中からDNA選抜された〈アルテミス〉。そして、


長男〈カムイ〉 (25歳 身長181㎝ 体重72㎏)

五女〈ヒナ〉 (14歳 身長142㎝ 体重32㎏)


 この二人だけは〈異流血統〉と呼ばれている(瞳の色は赤)。母親は皇帝の従妹の〈フィオナ〉、最高位の血を持つ一番目の皇后。


 ヒナを除き、兄妹内では異流>上流>中流>下流という明確な上下関係があり、役職もこれに応じて設置されている。イガルク一族は(イコール)帝国の幹部である。


 父親の会議開始の挨拶を終え、真っ先に口を開くは六男のイアフ。


「父上ェ! 会議なんて必要ありますか? こんなことをしている暇があったら一人でも多く他民族の豚共を殺しましょうよ!」


 イアフの発言を受け、三男のソーマがイラつきまじりに反論する。


「うっせぇな……父上のすることに口出すなんざ百年早いんだよ下流が。俺だって“わざわざこんなところまで呼び出してムカつくな、腹立つな、調子乗ってんじゃねぇ”――って思ってるけど我慢してるんだ」


「ポロっちゃってますよ、兄上」と次女のデーリアが突っ込む。デーリアはそのままソーマに続いてイアフに苦言をぶつける。


「イアフ。貴様、なぜここに黄色猿を連れてきている?」


 デーリアは視線を下げ、イアフの尻の下を見る。

 そこには四つん這いでイアフを背に乗せる裸の東洋人女性の姿があった。


「デーリア姉さん! 見てくださいよこれ! すごいでしょ? 最高級の椅子だよ椅子! 弱民族の女の体はいい。柔らかくて、座り心地抜群だ!」


 七男のリーロが椅子と化した女性を指さす。


「あれ? そいつ、前にイアフ兄さんが家族ごと攫ってきた……」


「おうよ! ちょうど椅子が欲しかったからな」


「他にも居たでしょ。オスが二匹と子供のメスがもう一匹」


「娘は犯したら壊れちまったし、父親と息子はこいつの目の前で殺し合いさせて、残った方をこいつに殺させた。傑作だったぜアレは。この女もはじめこそ俺に恨み言を言ってきたが、足を縛って牛舎の牛共の中に一週間ぶっこんだら従順になったぜ。そうそう、コイツも牛みたいに乳出るんだぜ! あとでお前にも遊ばせてやるよ」


「いいよ、気持ち悪い。他民族は不潔だからね。まぁそれでも白人なら許せる、肌が綺麗だ……白人で作る()()は良い感じに仕上がる。すぐ腐るけど」


 デーリアは血筋を額に浮かべさせる。

 鬼の形相のデーリアを見て、イアフはびくっと肩を震わせた。


「別に椅子にするのは構わん、私の家にも奴隷家具はある。だがな、この神聖な円卓の場に、黄色人種(イエロー)を入れるなど許されることではないっ!」


「ひぃ!?」


 イアフは立ち上がり、女性の頭を踏みつけ作り笑顔を浮かべる。


「わ、悪かったよ姉さん。責任取ってコイツはあとで焼却炉にもぶち込むからさ」


「即刻その薄汚い家畜を追い出せ……! でなければお前ごと斬り捨ててやる!」


 空気を揺らすほどの威圧、イアフを殺しそうな勢いのデーリアを止めたのは、長男の手のひらだった。



「落ち着けデーリア、話が進まないじゃないか」



 ディアーナ帝国、最強のパイロット。〈カムイ=イガルク〉。


「か、カムイ兄さん……」


「イアフも今回は許すが次からは気を付けなさい」


「は、はい」


 にっこりと笑ったカムイの顔を見て、デーリアは頬を赤くし、イアフは畏怖から目を逸らした。

「皇帝、早速話を」とカムイが振ると、チャンドラーは要件を語り始める。


「今回、お前らを呼んだのはCOLORSの最新鋭戦艦――〈マクスウェル〉についてだ」


――マクスウェル。


 その名を聞き長女のアリアンロッドが目を輝かせる。


「例の球型戦艦!」


「明朝、空へ上がったという報告が来た。狙いは恐らくホルス島……」


「わたくし、ものすごく興味がありますわ! 父上、ここは鹵獲の指示を! わたくしが隊を率いて向かいましょう!」


「貴様は開発の仕事が立て込んでいるだろう。鹵獲はしたいが……相応の戦力がいる。できれば上級血統の誰かに行って欲しいが……」


「っふ、悪いが我はグレンとの闘争で忙しい」とンガリン。

「俺はホアンの野郎を監視しなくちゃならない。だから無理だ」とソーマ。

「申し訳ございません。まだ体が本調子ではなく」とデーリア。


 チャンドラーは残った選択肢、カムイに視線を向けるがカムイは首を横に振る。


「例の暗殺の件で、僕も手が埋まっている。他を当たってください」


「はい、はーい! そんじゃ俺に任せてくれよ! 父上!」


 意気揚々と手を挙げたのは先ほどまで縮こまっていたイアフ。


「わかってるのかヨ? マクスウェルにはきっとあの女が乗ってるゼ!」


 四男ワッドの言葉に三女パフが付け加える。


「ブルー=ロータス。むかつく……!」


「中流血統のパフが真っ向勝負で一回負けてるからナ!」


 カムイは「そうだね……」と顔の前で両手を組んだ。


「グレン、ホワン、ブルー。この三人は上流血統とほぼ互角。下流血統じゃ分が悪い。だけど――イアフでも時間稼ぎぐらいはできると思うよ」


 ソーマが「なにを考えている?」と問うと、カムイはジェスチャーを交えて説明をはじめた。


「グレン、ホワン、ブルーと……あとはクリード中将くらいか。この四人を除けばCOLORSでイガルク一族(僕ら)に勝てる人間は居ない。クリードは本国を離れることは無いし、グレンとホワンはそれぞれンガリンとソーマが抑えている。となれば、ブルー以外に怖い相手は乗っていない」


「ブルーさえ抑えちまえば、後は雑魚だけってことか」


「そう。イアフがブルーを釣り出して、もう一人僕らのうち誰かでマクスウェルに特攻をしかければ安全に勝てると思うよ。もちろん、マクスウェル自体も驚異的だけど、主砲が月光式の戦艦を二つ持っていけばなんとかなる」


「え!? おれ、囮かよ!」


「倒せそうなら倒せばいいさ」


 カムイはイアフの肩を叩き、耳に口元を近づける。


「……ここでもし、お前がブルー=ロータスを倒し、マクスウェルを鹵獲すれば――機械オタクのアリアンはもちろん、皇帝も皆もお前を認める。そうすれば、どうなると思う?」


 イアフは脳内で玉座に座る自分を想像する。そしてパーッと顔を明るくさせた。


「俺が、次期皇帝?」


「いや、それは飛躍しすぎ……まぁいいか」


 カムイがイアフから離れるとデーリアが後ろから声を掛ける。


「そのもう一人ってのは、誰が行くんですか? カムイ兄さん」


「エラサはホルス島の防衛で忙しいだろうし、ワッド・パフ・リーロ・ロナの四人は本国に残しておきたい。だとすれば――」


 小さな体の少女は眼を伏せる。

 一身に家族全員の視線を浴びせられ、部屋の隅で積木で遊んでいた彼女……末っ子のヒナは表情を暗くする。


「任せられるかい? ヒナ」


「カムイにぃ。ヒナには無理です……まだ()()()も聞こえませんし、戦いに興味も持てません」


「大丈夫。お前には、()()()と同じ血が流れているのだから……」


 「いかん」と父のチャンドラーがカムイの提案に首を横に振る。


「ヒナは〈道導〉の血統、お前と同じ最後の異流血統。戦場には行かせられん。パイロットとしての技術もなく、我らが持つ先見の明〈直感力(月詠み)〉もロクに発達しておらんではないか」


「ですが皇帝よ、我々は戦闘民族。戦いの中で進化する生き物です。彼女がまだ下流血統にも劣る技術しかもたないのは貴方の過保護が原因だ。それにヒナの〈直感力(月詠み)〉はすでに、中流血統のレベルまで達している」


 カムイはどこからか取り出した三枚のトランプを裏返して、ヒナの前に置く。

 するとヒナは右から順に指さし――


「ハートの4、スペードのA、ジョーカー」


 カムイはにっこりと笑い、カードを表にした。

 カードの種類はヒナが言った通りのものだった。


「ね?」


「……まったく、仕方あるまい」


 チャンドラーは「わかった」と話をまとめに入る。


「マクスウェルの鹵獲はイアフとヒナに任せる。エラサ、万一の時はホルス島まで奴らは来るだろう。準備しておけ。最悪ソーマにも手伝ってもらう」


「――御意」


「ちっ。めんどくせぇな」


 チャンドラーはワインの入ったグラスを天に上げ、声高に宣言をはじめた。


「マクスウェルを取れればウルスの首都攻めが容易になる。皆の者、ここが正念場だ。月の民の名において、穢れた家畜民族どもから人権を剥奪する。百年後、“ヒト”として立っているのは我らアトラス人のみよ……」


 赤きワインが零れ、真っ白なテーブルクロスを赤く濡らす。

 灰色の悪魔たちが満月を求め、動き始めた……。

☆ディアーナ豆知識☆


・アトラス人は肌が弱いため露出が少ない。イガルク一族も当然、みんな厚着。でも異流血統のヒナとカムイは薄着に首飾りとかピアスぐらいしか付けてない。


・アトラス人が「月の民」と自称するのは自分達が太陽の下では苦しみ、月の下では自由であることから。月詠みという能力も「月の民」+「先読み」という要素で名付けられた。


・中流血統の母トリウィアと異流血統の母フィオナの母親は別。


・一族内でもそれぞれの血統ごとに特に仲が良い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ