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目立つとロクなことない……本当に。  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
episode2 球型戦艦〈マクスウェル〉
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第十六話 古谷純平の弱点

 LSは水には対応していない。川に落ちた時点でクリアートのLSは機能停止、事実上の勝利――のはずだったが、


「ちっ!」


 純平は確かに聞いた。川に落ちる直前、クリアートのLSのコックピットが開く音を。

 アルフレッドが突き刺した刃はコックピットをわずかに外れ、わき腹を刺していた。


「――川にパイロットが飛び込んでいる! 探せ!」


『なぬ?』


『ちょっと待って……! 水蒸気がメインカメラに張り付いて――』


 水滴が二機のLSを蝕む。LSは水対策が甘いため、水滴落とすのに古典的なバイパーの処理がいるのだ。


 純平は状況を確認し、苦い顔をする。


「(駄目だ。水の中までは俺の耳は届かない! それに)――うぷ……」


 純平は頭痛と吐き気に襲われていた。


(時間切れも近いな。――くそっ! ここまでだ!)


 純平は水蒸気に悩む二機をおいて、自分だけマクスウェルに向かって飛翔した。


 純平の動かす黒蠅。画面越しにそれを見て、日比谷 影乃は「すごい……」と呟く。


「産廃とまで言われていた特飛をあそこまで操るなんて……一体誰が――」


 そんなことはどうでもいい。と影乃は首を振る。


(こんな優秀なパーツ、(のが)しちゃダメだ!)


 影乃は黒蠅の帰りを待つべく格納庫へ行く。

 影乃の居る格納庫へ帰還する純平と黒蠅。周囲を囲むように整備士が集まっていた。


『うちの機体を勝手に持っていくとはな。しかもLS2を』

『だがおかげで相手を撤退させた』

『逃がしたの間違いだろ? LS一機相手に三機で囲んだくせに。同じLS2乗りでもブルー大尉なら確実に仕留めるか鹵獲したはずだ』

『最後はアルフレッド中尉が決めたんだろう。んな大した奴じゃないって』

『なんにせよ、パイロットが気になるな』


 コックピットの蓋を開け、「さて、どうしたものか」とカラーズイエローの覆面をかぶりながら純平は悩むが、その時――


『な、なんだ!?』

『真っ暗だ!』

『誰だ!? 照明を落としたのは!』


 照明が一斉に落ちたのと同時に、純平は黒蠅から降りて覆面を脱ぎ、近くのLSの後ろへ身を隠す。それから日陰を移動し、出口へ向かった。



「どこぉ! どこですかぁ!? カラーズイエローさああああああああああんっっ!!」



 影乃の叫び声を背中に受けながら純平は通路へ出た。



「――助かった」



 純平の言葉を受け、照明を落とした張本人は首を横に振る。


「いいや、ぼくとしてもLSの無断使用で君が処罰されるのは本望じゃない」


 レイズ=グリーンフィスト。

 純平は帰り道の途中で彼女の通信機に連絡し、照明を落とすよう頼んでいたのだ。


 純平はパチパチと瞬きをして、虚ろな瞳でレイズを見る。


「……琴は無事か?」


「うん。大丈夫、体のどこにも傷はないよ」


「そうか。――よかった。ありがとう……面倒見てくれて」


 ほんの少し心から漏れた純平の笑み。

 レイズは会ってから初めて見た純平の笑顔を見て、不意に顔を赤らめてしまった。


(笑うこと、あるんだな。――それほどに妹が大切だということか)


 レイズは首を横に振る。


「……感謝したいのはこっちの方だよ。ありがとう、あの人を追い払ってくれて」


「――やっぱ知り合いか」


 レイズは悲しそうに、その名を口にする。


「〈ニュー=クリアート〉。元COLORSの中将にしてぼくの師匠……そして、最悪の裏切り者だ」


「そりゃ、さぞかし因縁がありそうだな。……だが悪い、思い出話は聞いてやれそうにな――」


「純平くん?」


 バタン。と純平は廊下に倒れた。

 意識の糸が切れたのだ。前回よりかなり無理に黒蠅を動かしたことでLS酔い+超聴覚の反動の二重苦をくらった。たった数分の戦闘でも彼にはかなり堪えたのだ(しかも朝から荷物運びやレイズの無茶な運転に付き合い、尚且つ寝不足気味)。


「純平くん!」


 レイズは膝を付き、うつ伏せに倒れた純平の口元へ耳を寄せる。


 レイズは純平の寝息を聞き、ホッと胸を撫でおろした。


「眠ってるのかな? もう、女の子に運ばせる気? ――仕方ないなぁ……」

 



――――――――――― 



 

 小さな川が流れる深い森の中、男が水の中から這い出る。



「あっはっは! 失敗したねぇ、まさかアレほどとは」



 ニュー=クリアート。

 水浸しの彼に眼鏡を掛けた男性がタオルを投げる。


「あまり目立たないでください。我々は()()()()であることに意味があるのですから」


「ごめんよ、そう怒らないでくれ……()()くん」


 〈荒谷 桐〉。

 傭兵団〈crow〉において団長の側近だった男である。


「――でも確かめておいて良かったよ。大丈夫、彼が居ればホルス奪還はうまくいくだろう」


「例えうまくいかずとも、善戦してくれればいいですからね」


「そういうこと。漁夫の利を得ないとね、ぼくらは弱いから……」


「黒蠅はこのまま預けておくのですか?」


「どうせぼくらが持っていても扱えないしね」


「せっかくのLS2を……」


「持ち腐れになるよりマシさ。パイロット(純平くん)付きでCOLORSにあげたんだ、諦めよう。――君をあの傭兵団に送り込んだのは正解だったね。おかげで戦力の調整は完璧だ。一つ懸念があるとすれば……」


 クリアートは褐色の娘、古谷未琴を頭に浮かべる。


「全力の古谷純平なら問題は無いだろう。故に、邪魔なんだよねぇ、彼女」


「古谷未琴ですか?」


「うん。ホルス島はできるだけ、COLORSに獲得してもらいたい。そのためにも、古谷純平の弱点を奪っておかなければ……」


 それに、とクリアートは心の内で言葉を続ける。


(あの肌、人工的に焼いたものだ。恐らく元の色は白に近い……どこか違和感があるんだよねぇ、彼女。じっくり調べたい……♡)


 ぽつん、ぽつん。と水の粒が木々の隙間から落ちる。

 クリアートは右手を広げ、空から降ってくる雨粒を握りしめた。


「あれ? 今日って雨の予報、出てたかな?」


 荒谷は不思議そうに空を見つめた。


「いえ……今日は一日中晴れだったはずですが」


「…………。」


 クリアートは雨粒を睨みながら、隣に居る荒谷に声をかける。


「荒谷くん。新しい仕事だ」


「はい」


「――約束の日までに……古谷未琴を攫え」

これで第二章終わり!

次回からようやく帝国との戦いへ……それよりもまずいことに、メインヒロインであるブルーよりレイズの方が純平との親密度が上がってる気がする(´;ω;`)


あと近々題名が変わるかもです! それも何度か、感触を確かめながら……どのタイトルになっても後ろに旧題(目立つとロクなことない)は残しておくので、これまで付き合ってくれた方々はそちらを目印にお願いします!


それではご愛読ありがとうございました!(まだ終わらないよ?)

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